世界のはじめ

 よく、アーチェリーを始めた動機を聞かれることがあります。
 ひとことで言えば「好奇心」以外の何ものでもありませんでした。高校に入学して、中学からないクラブに入りたかったのです。何のハンディもなく、一から始められるクラブがよかったのです。フェンシングかアーチェリーと決めていたのですが、偶然先に足を運んだのがアーチェリー部だった、というそれだけのことです。
 よく、講習会で「当てたい」「勝ちたい」、だから「どうしたらいいでしょうか?」という質問を受けます。
 そこで教えてあげることは、「当てたい」「勝ちたい」はアーチェリーを続けるための原動力ではあっても、具体的な方法論ではないということです。もし「当てたい」「勝ちたい」という気持ちだけで、弓が当たって試合で勝てるのなら、多分皆さんの方が当たるだろうし、もっとアーチェリーの強い人がいっぱいいるはずです。
 では、この原動力とは何か。それはアーチェリーをしたいという情熱であり、それがあるからこそ我々は辛い練習にも耐えられるし、大切な時間を割いてまで練習場へと足を運ぶのです。その意味でアーチェリーをする以上は「勝ちたい」「当てたい」「強くなりたい」「世界一になりたい」、という気持ちを強く持つことは大切な条件です。そして、そのうえでこれらを現実のものとするためのステップを具体的にひとつひとつ登っていくのです。

 今から30年前、雑誌に載った一枚の写真が私のアーチェリーへの想いを決定付けました。それは1969年アメリカで行なわれた、第25回世界選手権大会でのスナップでした。
 場所はバレーフォージ。後に私も1976年、建国200年を記念して独立戦争の時ジョージ・ワシントンが本部を構え戦ったこの地で行なわれた全米選手権大会で射つ機会が与えられるのです。延々と続く草原と丘、フラットとは言い難い競技会場です。そこで弓を引く西 由利子選手の姿を見て、「あんな広い場所で弓を射ってみたい!」とアーチェリーを始めて数ヶ月の高校生が、何ら方法論も根拠もなく、ただ漠然と思ったのです。しかし、この憧れとその後実感する世界一への思い入れが現在までの自分のアーチェリーを支えているのは、まぎれもない事実です。
 弓を始めるきっかけや世界を目指す動機は、その本人にとっては思うほどに大それたものではありません。ましてやそれを継続させるエネルギーとなると、純粋でなければ続きません。
 「憧れ」、それは何ら具体的な方法論でもなければ、約束された未来でもありません。しかし、これほど純粋にそのことに打ち込ませる原動力となるものはないはずです。そして今ほどこの原動力が見失われている時もないでしょう。
 もう一度この写真を見て、こんな所で弓を射ってみたいと思いませんか?!! その原動力の元で、次にうまくなる方法論を考えるのです。「憧れ」、あなたにとっての憧れは何ですか・・・・?

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