独楽の原理

 こんなハネを見たことはありませんか? 「フルフル(FluFlu)」などと総称されるハンティング、それも飛んでいる鳥を射ち落とすのに使用する矢に取り付ける羽根です。特徴は矢の空気抵抗が非常に大きいことで、普通のハネを付けた矢であれば、上を狙って発射した場合、矢が獲物を外せば弾道を描いて遠方まで飛んでいってしまうのに対して、この羽根であればだいたい弾道の頂点付近に達した時点で失速して矢はそこから真っ直ぐ地上に向かって落下してしまうのです。矢をなくす確立が低く、かつ安全であるというわけです。
 このようにハネ(Vane)には空気抵抗を作る役目があります。しかしそれはアーチャーズパラドックスを制御したり、安定した弾道を確保するだけではなく、もうひとつ大きな目的があります。それは矢にシャフトの長さ方向を軸とした回転を与えることです。
 意外とアーチャーは気付いていませんが、この矢の回転こそがアーチェリーの的中精度の高さを維持するのに大きな役割をはたしているのです。たとえばピストル銃で30mも離れれば人間の大きさに的中させることはよほど熟練した技術を持たなければ、非常に難しいでしょう(アーチェリーでは簡単なことですが)。ところがライフル銃であれば300m離れても心臓を撃つことができます。これは確かに銃身の長さや弾丸の形状、その他理由はあるのですが、その中でも大きな理由がライフル銃には「ライフル(Rifle:旋条)」と呼ばれる溝が銃身の内側に螺旋状に刻まれていることです。この溝が発射時に弾丸に回転を加えることで、弾丸の飛翔に大きな安定をもたらすのです。それに対してピストル銃(ピストルにもライフルが刻まれたものもありますが、ここでは溝のない銃身の短い銃を指しています)の多くは弾丸が安定した回転を持たずに飛翔します。このことは飛翔距離が短かければさほど問題にはならないのですが、ライフル銃で使用するような長い弾頭を持つ弾丸で、放物線を描くような距離を飛翔する場合には、この回転がなければ著しい的中精度の低下を招くばかりか、途中で弾頭自体が反転してしまうことになります。
 この安定を「独楽(コマ)の原理」や「ジャイロ効果」と呼びます。回転する独楽が真っ直ぐ立っていられるように、回転は安定をもたらすのです。

 当然のこととして、高い的中精度を誇るアーチェリーにおいても矢は飛翔中に回転しています。ただライフル銃と異なるのは、弾丸の回転が外部の溝から与えられるのに対して、矢はそれ自身の付属品であるハネから回転を発生させている点です。とはいっても矢自体が推進装置を持つわけではなく、矢は弓から与えられたエネルギーをハネの空気抵抗によって回転運動に置き換えているのです。
 ではアーチェリーの場合、ハネはどのように空気抵抗を回転に換えるのかといえば、それは単純に船のスクリューや扇風機のハネと同じ原理です。そのために矢を作る時は、取り付けるハネに「ピッチ(Pitch)」と呼ばれる傾きを付けます。これによる空気抵抗の大きさが回転を生み出すのです。
   ただし独楽は回転が高速であればあるほどより高い安定を得るのに対し、矢は前方(的方向)へのベクトルを維持しながら回転するため、単に回転数やその力だけを考えると失速を招き逆効果になることも忘れてはなりません。また、アーチャーズパラドックスの問題も決して無視してはなりません。しかし、ここではその問題はあえて無視して、回転運動だけについて考えてみます。ここで疑問に思うアーチャーもいるでしょう。ピッチを付けない(ノーピッチ)矢は回転運動をせずに的まで飛翔するのか?
   そんなことはありません。もし矢が回転を起こさないと仮定するなら、矢は弾道の頂点から落下しはじめる付近でポイントを後方へと転位させ反転して失速落下してしまうでしょう。ところがそうはならないのは、矢は先天的に回転の力を有しているということです。それはリリースの時にアーチャーの指先で作られるストリングの蛇行運動に起因します。そしてこの回転が右射ちの アーチャーであればほとんどが「右回転」であるがために、ほとんどの矢は「右ピッチ」で作られているのです。また、右ピッチの方が右射ちであればレスト部分をハネが通過する時に形状的に都合が良い(スピンウイングの左回転用のハネを右射ちした時を想像すれば分かり易いでしょう)ために市販の矢は最初から右ピッチで作ってあるのが普通です。
   しかし初心者ならともかくとして、トップを目指そうかというアーチャーであれば自分の先天的に持つ回転が右なのか、左なのかを知っておく必要があります。そして当然それと同じ回転を生み出すピッチを矢に付けてやる必要があります。仮にそれはノーピッチであっても良いのですが、少なくとも左回転で発射された矢を、飛翔中に空気抵抗によって右回転に変えるのは効率的に賛成はできないでしょう。
 では、どのようにして 自分の回転方向を知るのか? 簡単な方法があります。「ペーパーチューニング」と同じことですが、できるだけ近い距離(センタースタビライザーがタタミに触るぎりぎりくらいの所)から矢を発射します。タタミは新しいものより多少使い古した柔らかいものかマキワラの方がいいかもしれませんが、そうすると刺さった矢のノック(あるいはコックフェザー)の位置がつがえた状態からほんの少し回転しているのが分かるはずです。それによって自分の矢が発射時にはどちらの回転で出ていっているかを確認できます。
 ただしこの方法は一回の発射で判断するのではなく、何日も何回も行って判断するようにしましょう。また、レスト部分でのトラブルの結果そうなっていることもあるので注意しなければなりません。
 このようにして自分の先天的な回転方向が分かれば、それと同じピッチでハネを取り付ければいいのです。多分、右射ちのアーチャーならそのほとんどが右回転だと思いますが、まれに左回転の場合もあります(私がそうです)。ともかくは一度試してみるのも良いでしょう。

copyright (c) 2008 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery