標的面に不当な損傷

 「矢は、ターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義に適合している限り、どのような形式のものも使用することができる。ただし、標的面またはバットレスに不当な損傷を与えるものであってはならない。」(全日本アーチェリー連盟競技規則205条-7)

 ちょっとこのポイントを見てください。
 知っている人は少ないでしょうが、EASTON社が初めて作ったカーボンアロー「AC」のプロトタイプと最初の市販モデルに付いていたポイントです。
 カーボンアローが世界にデビューしたのは、1983年ロサンゼルス世界選手権です。この時ダレル・ペイスはACのプロトタイプで世界記録を樹立したものの、アルミを使うマッキニーと同点の第2位でした。しかしその矢は精度や仕様面のみならず、強度面においても多くの問題を抱えていました。それが証拠に翌1984年ロサンゼルスオリンピックでペイスがこのACで2個目のゴールドメダルを獲得した時でも、マッキニーをはじめほとんどの選手はその使用を断念していました。実際、EASTON社は品質上の問題を認め、製造継続を断念しました。その後本気でカーボンアローの開発を再開するのは1987年アデレード世界選手権でフランスのBEMAN社オールカーボンアローにアルミ矢の息の根を止められた時からです。この時エシェエイエフ(USSR)は競技史上初めてEASTON以外の矢で世界一に輝いた、といっても間違いではないでしょう。
 今でこそオーバータイプのポイント(ポイント自体がシャフトに被さって取り付けられる)が登場して、シャフトの直径よりポイントの直径が多少大きくても違和感がなくなりました。しかし、ACが登場するまでは先のルールによってシャフトより直径の大きいポイントを使用することは禁止されていました。ところが EASTONの社長であるJim EastonがFITAの会長になってからは(?)それも認められるようになり、アーチェリーはメーカーの意向を反映するようになってきました。
 では、なぜ最初のカーボンアローのポイントは大きかったか? 別にそれでオンラインを稼ごうとしたわけではありません。
 
先端複合材料 (ACM advanced composite materials)―― 複合素材を組み合わせた複合材料(composite materials)の中で、特に優れた機械的強度や耐熱性を持つものの総称。プラスチックの中に各種の有機繊維を混ぜたFRP(繊維強化プラスチック=fiber reinforced materials)などがある。母材と強化材の組み合わせにより、ほとんど無限のバリエーションがあるが、実用材料として普及しつつあるのはFRPの一種のCFRP(炭素繊維強化プラスチック=carbon fiber reinforced plastics)だけである。価格が高いのが難点。CFRPはアメリカで航空宇宙機器用の材料として開発・応用が進んだ軍需物資。日本の三倍の規模とされるアメリカのACM市場の八割は、航空宇宙用CFRPで占められている。これに対し民需中心の日本ではACM市場の八割までをスポーツ・レジャー用品向けのCFRPが占める。スキー板、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿に始まって、最近ではマリンレジャー用品、自転車、剣道、弓道用品にまで浸透し始めた。米ソの緊張緩和でアメリカのACM市場も今後、急速に日本型に変化しそう。
 
 もう新素材と呼ぶにはおこがましいので、1994年版「現代用語の基礎知識」から引用しました。(最新版には載っていません)
 基本的にリムや矢に使用されているグラスやカーボンは、それらの繊維をプラスチックの中で固めた板やチューブ状のものなのです。同じ容積で繊維の量が減れば、当然プラスチック(樹脂)の量は増えます。
 EASTON社が恐れたのは素材自体の強度もさることながら、それ以上にバット(畳)との摩擦による熱からくるプラスチックの磨耗を心配したのです。このことは初期の「ACE」においても、先端部分にカーボンクロスをわざわざ別に巻きつけてあったことからも想像がつきます。
 カーボンやグラスの弱点は意外なところにあるのです。そして後発メーカーは逆転のセールストークとして過剰品質を武器にすることはよくあることです。EASTON社であっても同じことです。

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