では、ここで少し話を変えましょう。 |
あなたが写真屋さんに行って見合い写真を撮ったとします。あるいは、家族で七五三の記念写真を写したとしましょう。この時このプリントした写真をあなたはお金を出して購入するわけですが、写真屋さんは写真はくれてもネガまではくれません。なぜなら基本的にあなたを写したという「肖像権」はあなたに存在しても、それを写した「版権」は写真屋さんが保有しているのです。だから写真屋さんは、肖像権を持つあなたの許可を得て版権を利用しているのです。 |
では「肖像権」とは、民法上、人は、自分の肖像(写真・絵画・彫刻など)をみだりに他人からとられたり使用されたりすることから守られなければならない。このような人格的利益の側面を肖像権と呼ぶことができ、これを違法に侵害すると不法行為(民法709・710条)。違法性の判断は、報道の自由・表現の自由との関連上微妙な問題を生じる。報道写真で公共性のある者は違法性を帯びないが、公共性のないものについては本人の承諾がなければ違法性を帯びると解される。(法律学小辞典 有斐閣) となります。 |
このように肖像権は本来その個人が保有するものであり、スポーツ選手であっても自分の写真なのですから、然りのはずです。ところが競技団体に「プロ」として登録された者以外は、JOC(日本オリンピック委員会)に加盟する競技団体の役員・選手の肖像権はJOCに帰属しているのです。そしてJOCは協賛企業にだけ肖像の利用を認めることで、協賛金名目で選手強化資金を集めるのです。これが1979(昭和54)年に始まった、「がんばれ! ニッポン!」キャンペーンです。しかし先にも書いたように、当時日本体育協会には「アマチュア規定」があり、選手の肖像権によってJOCが経済的利益を独占的に得ることは自己矛盾でもありました。JOCは本来肖像権を持つ選手の意思とは無関係に一方的にその肖像権を奪っていたのです。しかし1986(昭和61)年の「スポーツ憲章」制定によって「アマチュア規定」が実質廃止されることで、今度は企業に所属する選手にとってはキャンペーン自体が問題視されるようになってきたのです。 |
この問題に対して自分の肖像権を自由に使いたいと要望したのが、マラソンの有森裕子選手でした。彼女がプロ宣言をした時、最も衝撃を受けたのはJOCでした。日本の有力選手の肖像権を切り売りするJOCの「がんばれニッポン」キャンペーンに反逆したといわれるこの“有森ショック”は、オリンピック競技の選手強化の資金源やその有効性を考える上でさまざまなテーマを提供しました。結果的には、日本陸上競技連盟は”職業として陸上に携わる”選手を以前からプロ選手を認めているテニスやサッカーの競技団体同様に「プロ登録選手」に準じて扱い、それらの選手の肖像権をJOCの拘束から外したのです。これはJOCのキャンペーンとは別に、独自の競技者規程により選手自身の自由な肖像権利用に新たな道を拓くものとなりました。 |
ところで新聞やテレビをはじめとする公共のメディアにおいては、選手の肖像権は「報道」として扱われ問題とはなりません。それは報道の自由、表現の自由といった観点からであって、名誉毀損や不公平な表現がないことが前提です。では「雑誌アーチェリー」はというと、これは報道や普及といった理解の元でのアーチェリー連盟と雑誌社との紳士協定ということらしいです。 |
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では、日本体育協会が各競技団体に下駄を預けた「競技者規程」はというと・・・。 |
あなたはあなたが所属し、肖像権を取り上げられている全日本アーチェリー連盟のそれを知っていますか? たぶん、どこのクラブにも一冊はあると思うのですが、B6版の180ページ程度の冊子になった「全日本アーチェリー連盟競技規則」というものがあります。これを注意して見てみると、一番最初の「総則 第102条(資格)」というところに、『本連盟が所管する競技会に参加しようとする者は、本連盟所定の登録競技者であり、別に定める「競技者規定」による「競技者」でなければならない。』と書かれているのです。知っていましたか? そして、「競技者規定」なるものを見たことや、聞いたことはありますか? |
競技規則は見ても、競技者規定を見たアーチャーは少ないでしょう。これは一般に配付されている競技規則には載っていないのです。 |
そこでこの際、全文をご紹介しましょう。よく読んでおいてください。 |
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社団法人 全日本アーチェリー連盟 競技者規定 |
第1章 総 則 |
第1条 社団法人全日本アーチェリー連盟(以下「本連盟」と言う)は、財団法人日本体育協会が制定した、「日本体育協会スポーツ憲章」の主旨を体してアマチュアスポーツとしてのアーチェリー競技の普及発展をはかる。 |
第2条 本連盟の会員(以下「会員」と言う)は、本規定を遵守し、アマチュア競技者として節度ある行動に終始し、もって本連盟及びアーチェリーの名誉を高める為に努力しなければならない。 |
第2章 会員登録 |
第3条 本連盟の会員とは、所定の手続きを経て加盟団体に登録した競技者及び役員をいう。 |
第4条 本競技者規定は本連盟に所属する全ての会員に適用される。 |
第3章 会員の資格 |
第5条 本連盟の加盟団体は、次に掲げる者を会員とすることは出来ない。 |
尚、既に会員であっても、次に該当した場合は会員を取り消さなければならない。 |
(1)いかなるスポーツであろうと、プロ選手、プロコーチとして登録されているもの、又は契約しているもの。 |
(2)本連盟又は所属する加盟団体の承認を得ず、自らが、自分の氏名、写真又は競技実績を広告に使うことを許したもの。 |
(3)所属する加盟団体の事前了承なく、競技会の参加準備又は参加の為に物質的便宜を受けた者。 |
(4)授与された賞又は副賞を金銭に換えた者。 |
(5)本連盟又は加盟団体が禁止した競技会に参加した者。 |
(6)競技に際しドーピング又は暴力行為などによりフェアプレー精神に違反した者。 |
(7)この規定に違反し競技者として著しく品位、名誉を傷つけた者。 |
第6条 本連盟の加盟団体又はその会員が、放送座談会その他の行事に出演、参加を求められた場合は、あらかじめ本連盟に届けなければならない。 |
この場合において当該出演者が適当でないと認めた時は、これを禁止する。 |
第4章 競技会 |
第7条 本連盟又は、加盟団体は、競技会を開催するにあたって、他の団体を共催、後援あるいは協賛者として加える事が出来る。 |
2 加盟団体が賞金付き競技会を開催する場合は、本連盟の理事会の決議を要するものとする。 |
但し上限は国際アーチェリー連盟(FITA)の基準に準ずるものとする。 |
3 競技会を利用して行う商業宣伝は、あらかじめ本連盟の承認を得なければならない。 |
但し競技会のプログラム、ポスターを利用する者は、この限りでない。 |
第8条 本連盟が関係する競技会の賞は、原則としてトロフィー、カップ、メダルなどとする。 |
副賞を授与する時は、競技会の品位を傷つけずまた宣伝に利用されないものに限る。 |
第5章 報酬等の処理 |
第9条 本連盟の事前の承認を得て行われた第5条(2)及び(3)項に関し、その結果与えられた金銭その他の報酬は、個人の収益とせず連盟に受領され、その処理については連盟で決定するものとする。 |
2 競技者が本連盟の承認を得て競技会に参加することによって、又はその成績によって金銭の対価が支払われる場合は、競技者個人の収益とせず、本連盟若しくはその所属する加盟団体によって受領され、その処理については本連盟と加盟団体が協議の上決定する。 |
第6章 役員の資格 |
第10条 本連盟の役員は、常に品位と名誉を重んじ、競技者の模範となるよう行動しなければならない。 |
第7章 補 足 |
第11条 本規則に定めていない事項については、日本体育協会スポーツ憲章を準用するものとする。 |
第12条 本規則の改廃は、本連盟の理事会で決定する。 |
付 則 本規定は平成10年6月14日より施行する。 |
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どうですか?! 含蓄のある一言一言です。よく噛み締めて読んでください。 |
ところで、全日本アーチェリー連盟に登録しなくてもアーチェリーを楽しめるように、実際には趣味でアーチェリーを楽しむ範疇においては知らなくても良いことかもしれません。今、日本のアーチェリーが始めて一ヶ月の初心者アーチャーがオリンピック選手と同じ弓具を使うように、何か勘違いがあるように思えてなりません。競技をするにはルールやマナーは必要です。そのための知識の習得や組織への参加も不可欠です。しかし、すべてのアーチャーが同じ道具、同じやり方をしなければならないというものではありません。最低限のマナー、常識、そして安全への最大限の配慮があれば100人には100のアーチェリーの楽しみ方があってしかるべきではありませんか。 |
ともかくは、お互い品位を失わずにアーチェリーを楽しみましょう!! そしてひとりでも多くの仲間を作りましょう。 |
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(ところで、上記表記で「規定」と「規程」が混在しているのは、原文にできるだけ忠実に記載した結果ですので、ご了承ください。) |