座屈

 形あるもの、いつか崩れる。永遠などこの世にはないのです。その意味においてハンドルもリムも同じです。いつかは崩れます。ちょうど先日も学生のリムが2本続けざまに折れました。それはそれで、良くないことではありますが、仕方がないといえば仕方がないことでもあります。
 このリムを見て思ったのですが、、、これを何と読みますか? →  「座屈」
 建築に携わっている方や理工系の学生さんならお分かりでしょう。「ざくつ」と読みます。建築関係の専門用語でもあり、一般の方にはなじみがない言葉だと思います。意味はネットで検索すれば、書かれているとおりです。ちょっとご覧ください。ただ言葉の語源は見つからなかったのですが、あくまでも個人的想像ですが、正座をする時に膝を折って(曲げて)座る姿に似ているから来た言葉ではないでしょうか。
 どうですか。「座屈」です。↑ 正座のように折れているでしょう。実はこの言葉は少なくとも日本のアーチェリーの生産現場では、ヤマハでもエヌプロダクツでも使われている(た)アーチェリー専門用語(?)でもあります。
 素人はこの言葉を知らないのと同じように、リムが「折れる」と「折損」として諦めるか不幸を恨みます。人によっては「クレーム」として勝手な評価をそのリムに与えたり、叫ぶ人もいます。それはそれで個人の勝手なのですが、現場の人間や専門家はそう単純ではありません。
 例えばこの「座屈」はなぜ起こると思いますか。リムに貼られているFRPにしてもCFRPにしても、引っ張りや曲げには強い素材ですが、圧縮には非常にもろい性質を持っています。そのためこうして起こる座屈は、よほどいい加減なリムでない限り100%がリムの圧縮側にあたるフェイス側で発生します。それを理解したうえでの、最も最悪の原因は基本設計段階における強度不足です。しかしこの原因は製品として売られているものなら、商売以前の問題です。強度計算をせずに家を建てるようなものです。では、強度計算をして作られたものが折れる原因はというと、いくつもあります。図面段階ではわからない応力集中が起こる設計もあります。FRPやCFRP自体の品質の悪さや品質管理の問題もあります。あるいはできあがった塗装前のリムに、バランスやポンドを調整するために表面やサイド面をほんの少し研磨することもあるのですが、これで本来の厚さ(強度)が失われることもあります。
 そろそろ膝を打ちませんか? リムが折れる状況は「座屈」ともうひとつ、「剥がれ」があるのです。この区別を良く見極めないといけません。剥がれによって座屈したのか、座屈して剥がれたのか。今回の2件は明らかに座屈であり、接着による問題からの剥がれではありません。
 
 とはいっても、「剥がれ」もまた原因は複雑です。そして座屈同様にメーカーの能力やノウハウ、姿勢が試されます。
これは以前同じように折れた、学生の今回と同じモデルのリムです。↓ ところが、こちらは座屈ではなく剥がれです。
 先の強度不足同様に最低な原因は、接着剤の選定ミスです。基本設計ができていないわけです。しかしそれがクリアされたとしても、剥がれはいっぱい起こります。接着剤の扱いやそれを塗布するのは、現場職人の技の部分であり品質管理です。100本も接着剤を塗っていれば、塗り忘れはないにしても、接着剤の混ぜ方が少なかった時や厚い薄いの塗りむらもあるのかもしれません。プレス圧不足もあるでしょう。接着面にカッターマークや油脂が残っていたのかもしれません。芯材が接着剤を吸うこともあります。室温管理がなされていない現場では、冬場に生産したリムに剥がれが多発することもあります。
 というように、折れたからクレームでその製品すべてが悪い、全部が折れるというものではありません。10年使っていて折れれば納得するべきでしょうし、炎天下で黒いリムもおかしな話でしょうし、ぶつけたりひねったりすれば折れることもあるかもしれません。
 1本のリムが「折れた」から、の一言でその製品やメーカーすべての評価をくだすのは間違っています。その状況なり背景なりメーカーなり価格なりすべてを総合的に判断し、本質的な問題なのか、その個体だけの問題なのか。ブランドを避けるのか、単に運が悪かっただけなのか、値段相応なのか、性能には代えられないのか、を良く考えなければなりません。
 ところでこのリム、明らかに接着できていない箇所がありますよね。原因は知りませんが。。。 (^_^;)

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