リムは起こさない

 今ではどの弓にも付いているポンド調整のための機能があります。ネジによる締込み方式や台を挟み込むスペーサー方式など、メーカーによってやり方はさまざまです。しかし、どの方法もリムのハンドルへの差込角度を変更しているのに変わりはありません。そしてこの機能を使うアーチャーも、ドローウエイトを変えるために使う場合もあれば、リムの上下バランス(ティラーハイト調整)変更のために使うなど、これまたさまざまです。
 ところが多くのアーチャーは、この機能がもっとも弓の基本性能に影響を及ぼすものだとは認識していません。確かにティラーハイトを調整する程度(ネジの締込みでいえば六角レンチを1/4から1/2回転、最大でも1回転動かす範囲)なら問題はありませんが、ポンドに影響を及ぼす1回転以上といった範囲になると、これは本来メーカーが意図した性能とは異なるまったく別の弓になってしまうと理解するべきです。それほどまでに、リムとハンドルの位置関係は重要なものなのです。
 そのためどの弓であっても、この機能をティラーハイト調整にとどめるのであれば問題は起こらないのですが、ポンド調整にまで及ぶなら知識と理解が必要になってきます。

 特に注意しなければならないのは、この機能を最初に搭載したHOYTをはじめとした輸入品(韓国製も含め)すべてのモデルです。
 なぜかこれらの弓は、基本的な性能を求めるハンドルとリムの位置関係(ハンドルに対するリムの取り付け角度)が「リムを寝かせた、まったく起していない状態」で設計されています。このことは非常に疑問の残る点です。なぜなら、ヤマハやプロセレクトの弓の設計はこれとはまったく逆で、リムが起きた(これが通常なので、あえて起きたという表現は適切ではありませんが)状態がもっとも性能が発揮できる位置であり、そこからポンドダウンすることで初心者時の使用に対応しています。初心者がまだ短い距離しか射たない時には、特に高性能を必要とはしないという考えです。ところがHOYTはポンド調節ができると言いながら、それは「基準」となる強さからのポンドアップであり性能的にポンドダウンより問題をはらむ位置関係です。
 このことはHOYTが初めてポンド調整機能を取り入れた、1979年のTD3モデルから継承されてきたことです。当時、HOYTはこの機能をTD2という名器に無理矢理付加しました。NC製法以前の金型製法によるモデルではマイナーチェンジといえども簡単ではなく、多額の投資が必要でした。そこでHOYTがしたことは金型の変更をおこなわずに、リムの根元部分をネジで締め付けるというもっとも単純かつ簡単な方法でした。しかしこれでは、リムを起す方向にしか展開できずポンドダウンは不可能だったのです。また、リムを面ではなく点(締め付けネジの先)で支えるため、リムにネジレが生じリム表面のグラスファイバーに割れが起こりました。これを解消するためにHOYTが新たに開発したのが、次期モデルGMに搭載したリム根元に金属製のボックスを取り付ける方式でした。このアルミボックスにリムを差し込み、リムを面で支えボックス自体を上下させたのです。しかしここでも、そしてこの後登場した現在のポンド調整方法においても20年前のリムを「起す」という発想が受け継がれてきたのです。
 これに対して、ヤマハは弓のポンド調整のために「ダブル アジャスト」という方式を採用しています。これは微調整(リムバランスの調節など)には、他メーカー同様にネジを締め込んでおこないますが、基本性能に影響をおよぼす大きな角度の変更が必要なポンド調整には、リムとハンドルの間に取り付けられている「スペーサー」という接合板(樹脂でできた3サイズ用意された板)を交換することで対応するものです。ここで重要なポイントは、#1のもっとも分厚い(リムがもっとも起きた)接合板において基本設計を設定していることです。輸入品は基準からリムを起こしてポンドアップできるのに対して、ヤマハは基準からリムを寝かせてポンドダウンできるような設計になっているのです。(ダブルアジャストシステムは私のアイデアです。)
 これはチューニングのし易さと分かり易さ、そして安定度という点で非常に優れたコンセプトです。特に初めて弓を購入する初心者においては重要です。初心者が最初から40ポンド近い弓で練習を始めるわけではありません。まずポンドの低い弓から徐々にポンドアップして、最終的に求めるポンドと性能を自分のものとするのです。(低ポンド時には、特に性能を求めません。)
 では基本性能が発揮される設計上の基準位置から、1回転以上のリム角度変更を行うとします。(本来設計上の数値で言うならハンドルの中心線に対してのリム角度で語るべきことですが、ここでは設計者の視点ではなくアーチャーにもっとも分かり易い方法として角度を締め込み量に置き換えて話しています。) 1回転とはどの弓においても「1ミリ」のリム角度変更を意味します。ヤマハの締め込みネジにおいても同じですが、接合板での変更では#1→#2=-2ミリ、#2→#3=-2ミリ と接合板を薄くするごとに倍の2ミリリムが寝ることになります。(#2を取り付けて、ネジを2回転締め込めばリム角度としては変化していないことになります。) 
 1回転以上とは、設計者が意図するものとは異なる性能を意味します。あえてそれを承知で行う時、リムを起こすのと寝かせるのとでは何が違うのか。1ミリは約2.5%のポンドアップかポンドダウンをもたらすため、40ポンドの表示リムで1ミリ締め込めば約41ポンドになり、1ミリ寝かせれば約39ポンドのリムとなります。その矢速の変化は当然のことですが、最大の問題はリムの「安定度」の変化です。特に問題になるのは、リムを起こした場合です。この時リムはバタツキ易くなり、シュート時の収まりの悪さだけでなく、発射時の不安定さは的中精度にも影響を及ぼします。それに対して寝かせた場合は、矢が飛ばないなどの問題はあっても、リムとしては安定の状態を確保します。
 もしアーチャーがポンド変更を求めるなら、この程度の知識と理解は持ったうえで行いましょう。それがメーカーと設計者に対する礼儀です。

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