ハンドルとリムのネジレ調整(1)

 最近、本当に弓の精度が悪い。それもメーカーの看板商品ともいえる最上級、最高級、高価格、高性能モデルと呼ばれる製品において品質が落ちているのです。低価格の普及タイプモデルなら、それはそれで納得も我慢もいくでしょうし、許されるものです。ところが近年、ともかく許されない状況が続いているのです。原因についてはいろいろな意見もあるのでしょうが、こんなことが平気で行われ許されるようになったのには2つの理由があるように思います。ひとつは弓のハンドルとリムの接合部分にロケーターなどと呼ばれる「調整機能」が付くようになったこと。そしてもうひとつは、ヤマハが「本気」をなくしたからです。
 まず2つ目のヤマハのことですが、なんでそんなことと思われるでしょう。しかし例えば世間では、この人がいるだけで場が緊張するとか、この人の前ではちょっといい加減なことはできないな、といったことがあるように、アーチェリーの世界におけるヤマハとはちょうどそんな存在だったのです。世界に誇る大企業が、そのノウハウと技術力、そして桁違いの資金力を背景にアーチェリーの世界に本気で居るというそれだけで、業界全体が気を抜けない状況にあったのです。みんなそれなりに緊張しながら一生懸命だったのです。ところがそんな存在が「本気」をなくすととたんに、どこも折れるハンドルやネジレたリムを平気で市場に投入したり、それを改善することもできなかったり、何ら研究開発も行わず、節操なく他社の技術を盗んだりコピーするなどと、業界全体がルールもマナーも常識もなく、荒んでくるものなのです。悲しいことです。ところがそれが何年も続くと、もっと悲しいことにこんな状態が当たり前のように感じられ、考えられてしまうようになってしまいます。それが近年のアーチェリー界であり、この現実に一段と拍車をかけるのが、ヤマハの撤退表明ということです。
 初めてテイクダウンボウが製品として登場したのは1970年代。最初に起こった問題は折損でした。強度的な問題からハンドルが折れたのです。次に1980年代に掛けてはリムの折損やはがれ、そしてネジレが問題となりました。しかしこの頃、ヤマハが本気を出すことで、多くの問題や課題はメーカーの努力と新技術や新素材によって克服されアーチェリーは大きく進歩しました。その結果、ハンドルも一見精度においては完成の域に達したかのように見られました。ハンドルは真っ直ぐであり、折れないものであり、問題があるとするなら曲がるリムであろうという錯覚が生まれたのがこの頃です。ところがその錯覚をいいことに、ヤマハが徐々に本気を失いだした1990年代に入ってから、メーカーはコストダウンに邁進し、研究開発を怠りハンドル自体の精度と品質をどんどん落としだしました。ニワトリが先か玉子が先かになりますが、ちょうどこの頃ハンドルの接合部分に調整機能が登場したのです。最初の発想は精度を補うためではありませんでした。単にコストダウン目的で、コンパウンドボウの技術とNC製法をリカーブボウに転用しようとしたことがはじめでした。Hoyt社のAVALONに代表される接合部分のアルミカップ後付けの、今もある方法です。ところが結果として、カップの取り付け位置を微妙に動かすことで、ハンドルとリムの取り付け精度に対する補正が可能であることに気付いたのです。これは精度が落ち出した弓を見かけ上、良い物にするには好都合でした。本来不良品だった弓を製品として世に送り出すことで歩留まりを上げ、利益とコストダウンが手に入ったのです。結果、メーカーは研究開発と品質管理、そしてプライドを引き換えに、世の中にはネジレたハンドルやリムが自然に出回るようになったのです。
 「カップ後付け」に対して、多くのハンドルはハンドル本体に接合部分を彫り込んであります。ただし、そこに「調整機能」を有していないモデルもあります。(Sky/Elan/AVALON)
 
 世の中には、悪いリムは山ほどあります。そして同じくらいに、悪いハンドルも山ほどあることを知るべきです。もうここまで来ればハンドルは曲がっていない、曲がらないという錯覚は捨てなければなりません。そしてこの現実をもっと複雑にしているのが「互換性」の問題です。昔、木製ワンピースボウの頃でも悪い弓はいっぱいありました。しかしハンドルとリムが一体であるがゆえに、メーカーは加熱や研磨といった方法でそれらを真っ直ぐな弓に修正していました。ところがテイクダウンボウは利便性ゆえに、ハンドルとリムの組み合わせが無限に存在するのです。最近では他社のハンドルとリムを組み合わせることも当たり前になってしまいました。また他社との互換性を持たないヤマハであっても、ひとつのリムがEolla、Forged、Forged2のどのモデルとも組み合わされる現実があります。他社、自社を問わず、すべてが完璧に真っ直ぐな製品ならなんの問題もありません。しかし、製品の精度自体に品質のバラツキや個体差があることを考えれば、「調整機能」は両刃の剣として不可欠の道具となってしまったのです。
 あなたがトップアーチャーであるなら、何10本、何100本の中から完璧な弓具をメーカーも選んでくれるでしょう。しかしそうでないなら、それらの完璧な弓具を除いた残りの中から幸運を偶然に手に入れるしか方法はありません。決して高価な製品が良いモノとは限りません。トップアーチャーが使っているから、あなたの弓も同様の精度、性能であるなどと考えてはいけません。普通のアーチャーがしなければならないことは、与えられた条件で可能な限り自分に合った良い道具と環境を作り出すことです。「調整機能」もそんな与えられた条件のひとつなのです。
 多くのハンドルが「調整機構」をハンドル側に有しているのに対し、ヤマハはリム側にその機構を搭載しています。(YK2002/Explorer)

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