ハンドルとリムのネジレ調整(2)

 「経験則」という言葉があります。辞書で引くと、「理論の裏付けは乏しいが、経験を通して自然につかんだ法則。」とあります。アーチェリーの世界でも、特にこれを要することがらがいくつかあります。クッションプランジャーの調整などもそうでしょうし、今回のハンドルとリムの調整にも経験則は不可欠です。
 世の中には悪いハンドルもリムも山ほどあるのですが、良いリムもハンドルもあります。これらが無限の組み合わせによって、無限の状況を作り出すので話はややこしくなります。良いモノと悪いモノが組み合わさって悪くなる時もあれば、悪いモノ同士の組み合わせでも、それが効を奏して見てくれは良くなってしまうという場合があります。また、すべてが良いのに、調整を間違って最悪を作り出すこともよくあることです。
 では「悪い」ハンドルやリムとはどんなモノなのか。ここでは仕様と価格、そして性能は無視して、「ネジレ」について考えてみます。ネジレには「曲がり」も含めます。例えば30cmのプラスチック定規を考えてみてください。両端を持って弓形にたわませるのが曲がりです。では次に両端を持ってひねってみてください。これがネジレです。ということはネジレながら曲がるという状態も世の中には存在するわけです。定規も弓も本来は真っ直ぐであるべきモノです。ところが最初から全部がネジレているモノもあれば、たまたま個体差やなにかの間違いでネジレたモノもあります。あるいは最初は真っ直ぐだったけれど、使っていくうちに段々ネジレてくるモノもあります。この場合でも、すべてがネジレるモノもあれば、偶然不幸にしてネジレてしまったモノもあります。だから現実は複雑怪奇なのです。
 アーチャーが弓のネジレを確認する、あるいは実感するもっとも一般的な場面を思い浮かべてください。それはストリングを張った弓を立てかけて目視でストリングをハンドルの左右中心位置(ほとんどの場合、そこにはハンドルに開けられたネジやピンがあるのですが。)に上下とも合わせます。「センターを通す」とか「センターどおりを見る」などと言う、あれです。この時ストリングが上下の目印の中心を完璧に通過したなら、ハンドルもリムも真っ直ぐだと考えるでしょう。しかし、もし通過しなかったとしても、多くの錯覚するアーチャーはハンドルではなく、リムがネジレていると考えるのが普通です。確かにそれが正解の時もあります。しかし近年、ハンドルもリム同様にネジレているのではないかと疑うべき状況にあります。それくらいにハンドルのネジレが増えています。あるいはハンドルとリムの接合部に不具合があり、本来の精度がでない場合もあります。これは価格や上位モデルであるということにかかわらず、逆にそのような高価格、高性能を謳ったモデルに限って多かったりするのも現状です。そこで「センターが通らなかった」場合、ハンドルかリム、あるいはその両方がネジレていることを疑わなければなりません。(実際センターどおりを見る場合は、地面にチップを押し当てたり、斜めに立て掛けるのではなく、ハンドルを支えるボウスタンドなどを使用する方が良いでしょう。)
 それでは不幸にしてあなたの弓が、センターを通らなかったとしたなら。昔なら諦めるか、ショップやメーカーに文句を言ったのでしょうが、今はアーチャーの責任として弓の「センター出し調整機能」を使って、可能な限り良い状態を自らが作り出すしかありません。しかしこれが理論どおりにいかないから、経験則が必要なのです。

 それではあなたの弓の調整(チューニング)をするとしましょう。その場合、まずはコンピュータで言う「デフォルト」の位置から始めるべきです。デフォルトとはまったく手を加えない初期設定の状態と考えてください。例えば「YK2002」で言うなら、偏芯ロケーターネジのドライバー溝が縦位置にある状態です。ハンドルに対してリムを左右どちらにも意識的に傾けていない状態です。このような状態をデフォルトとします。ここですでに分かると思うのですが、例えばカップ後付け方式の弓などでは、デフォルトの位置がアーチャーにはわからないのです。これはメーカーにとって非常に都合が良いと言えばそのとおりなのですが、最初に弓が届いた時の状態がデフォルトだと言われれば、それを信用するしかありません。しかし、それがハンドルとリムを真っ直ぐに保つ真のデフォルト位置とは限りません。同様にカップ後付け方式でなかったとしても、このように真っ直ぐの基準位置がアーチャーにわからないようになっている弓は多くあります。後で付けられた印が真のセンター位置とは限りません。このようなことが、結果的にメーカー主導で品質の低下を招く原因にもなっているのです。と言ってもアーチャーの意識が高まらないと仕方がないので、ともかくはデフォルトと信じる位置にハンドルもリムもセットして、ストリングを張ってみてください。
 ここですんなりとセンターが通れば、一応はラッキーとします。しかし、もしデフォルト状態でセンターが通らない場合はどうするのか。その場合でも、ストリングをハンドル上部のセンターに合わせて、下部が右なのか左なのかを言うアーチャーもいれば、逆に下部でセンターを合わせて、上部で曲がりを判断するアーチャーもいます。仮にハンドル上部で合わせるとして、下部でストリングがセンターより左を通っていたとします。この場合、下リムを右に持ってくれば良さそうなものですが、実際には上部がネジレているのかもしれません。上リムを左に持ってきてもセンターは通るようになります。あるいは上下のリムで調整することも可能です。アーチャーには絶対的な基準位置がわからないのです。だからこそ経験を積まなければなりません。ストリングを動かしたい方に調整機能を使ってリムを動かしてやることが理論です。しかし実際にやってみると、単純にストリングは思うようには動いてくれません。なぜならハンドルはいつでも完全に固定された位置にはないからです。弓はチップ同士の間に張られたストリングの張力によって構成されています。リムの動きはハンドルの動きにも影響を及ぼすのです。リムを動かせば、ハンドルも動いてしまうということです。(ですから、仮に調整が終わった段階で、ハンドルとリムの取り付け位置がデフォルトから外れていたとしても、それはその組み合わせにおいて最善を示すものであって短絡的に悪いモノと考える必要はありません。)
 これは同じ弓の写真です。ほんの少し見る位置を変えただけです。リムがネジレているのか、ハンドルがネジレているのか、ハンドルとリムの接合部が真っ直ぐでないのか、あるいはすべて真っ直ぐなのに調整の方法が悪いのかはともかくとして、センターが通っていない弓です。
 左の視線ではハンドルの上側でセンターを合わせているので、下のストリングはハンドルの右側を通っています。逆に右の視線では下側でセンターを合わせているので、上側のストリングがハンドルの左側に寄っています。
 どうしますか。下リムを左に動かすか、上リムを右に動かすか、それとも両方するか。あるいは他の方法を考えるか。。。。
 ここでもうひとつ重要なことに気付きませんか。ストリングをハンドルの上下の中心に通すということは、平面のそれも片側から見ているにすぎないということです。
 実際、こんな単純な状態はちょっとマレですが。右の図のような状態はそれぞれの対称形も含め、少し視線を変えるだけですべて完璧にセンターが通っているように見えるのです。ネジレた弓も真っ直ぐに見える状態があるのです。このことは非常に大きな問題です。多くのアーチャーや指導者が見過ごしていることです。
 このような状態で見かけだけセンターを通しても、実際にはハンドルが横を向いてしまいます。これで矢を発射すると、ストリングは真っ直ぐには返らず、またレスト部分のクリアランスが極端に狭くなるので、多くの場合はハネがレストに当たるなどの的中に悪影響を及ぼす重大なトラブルの原因となります。ではこれをどうやって確認するのか。ここでも経験則が重要になるのですが、ひとつの分かり易い方法としてスタビライザーを使うことです。1点照準から2点照準にしてやるのです。センタースタビライザーも真っ直ぐセンターを通ることが、調整の重要なポイントになります。この場合、Vバーやエクステンションロッドは取り外します。センタースタビライザー1本で確認します。センタースタビライザーのネジが曲がっていれば仕方ないのですが、間にネジが多くあればそれだけスタビライザーは横を向く確立が増えます。しかし、ここでもっと不幸なことは、弓によってはハンドルに開けられたスタビライザーの穴自体が、真っ直ぐではないものまであることです。そして先のセンター通りを見るためのブッシュがハンドルの中心線上に取り付けられていないハンドルもあります。もうここまでくると、、、 (-_-;)。
 最後に、もうひとつ付け加えるなら、これも最近良く見かけるのですが、ティラーハイトを合わせるのに、ポンド(ティラー)調整用のネジを片側だけ極端に締め込まないと調整できない弓があることです。これもリムに問題がある場合もあります。しかし、それだけではない場合も多いのです。そこでこの調節用ネジもデフォルトにして、上下同じであろう位置にセットします。そして上下のリムを逆に取り付けてストリングを張ってティラーハイトを確認します。もしこの時同じようにティラーハイトの差も上下逆転しないのなら、ハンドルとリムの接合部の精度に疑問を持ってもいいでしょう。ネジレや曲がりは一方向や一部分だけで起こるのではないのです。
 ということで、アーチャーは与えられた道具をそのまま使うのではなく、与えられた条件を最大限に生かして自分にあったより良い状況、状態を作り出さなければなりません。そうする努力の中から経験則が身に付いてきます。

 これは同じように「センターが通った」弓です。同じハンドル同じリムです。ところが左のセッティングではスタビライザーもセンターを通っていますが、右のセッティングではセンタースタビライザーはここまで右を向いています。(ちょっと見にくいかもしれませんが。調整によってはこんなことが起こるのです。) 実際この弓で射ってみると、サイト位置は極端に出さなければ矢はゴールドに飛ばず、ハネはレストを擦って出て行きます。しかし、真っ直ぐに見えるようチューニングされた弓なのです。
 経験則をひとつ言うなら、センタースタビライザーが向いている方向とは逆にリムを少しづつ傾けていくと、事態は好転するでしょう。どちらのリムでやるかはあなたの経験則です。

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