ユニバーサルモデルのこと

 「プロショップ」「専門店」というのはアーチェリーに限らず、そこで物を売るだけでなくそれ以外のノウハウや知識、そして技術を売る店だと思います。物だけを買いたいなら、同じものなら量販店でも普通の店でも行けばいいのです。消費者、お金を払う人が望むのは、そこでなら物以外のなにかが得られる、そして得られるものには物とは別にお金を払っても値打ちがあると感じることです。それがノウハウや技術でなくても、満足や安心、納得といったモノの場合もあります。ともかくカタチはなくとも、そこから得られるものが大きければ物以上のお金を払ってもなんら惜しくもないし、満足も納得もしたうえで気持ちよくお金を払えるのです。プロショップ、専門店とはそういうお店のことです。
 そんなお店なら当然、何10万円もする弓や何万円もする矢を買えば納得のいく何かを与えてくれるのでしょうが、、、、とはいえ弓のチューニングやセッティングをしてくれるのは当然としても、ノッキングポイントを取り付けてくれる店は稀かもしれません。そして最近の状況を考えると、ある程度はアーチャーの責任で行わなければならない部分ができてきたのも事実です。
 その最大の理由がテイクダウンボウであり、「ユニバーサルモデル(システム)」や「International Limb Fitting」「ホイットタイプ」等など呼び方はさまざまですが、ともかくは写真のようなハンドルとリムの接合方法の登場です。ここではテイクダウンボウによる捩れやセンター出しの問題は別のページにまわすとして、ユニバーサルモデルそのものの問題です。
 「ユニバーサルモデル」とは1982年にヤマハのEXに対抗してHOYT社が投入したGM(Gold Medarist)から採用されたリムの接合方法で、特許がオープンとなっていたためその後ヤマハとニシザワを除くほとんどすべてのメーカーがこの方法を採用し現在に至っています。競技用の弓で純粋な国産(日本産)を除けば、まずこの形状(方法)であると思って間違いはないでしょう。
 ところがだからこそ問題が複雑になりました。これは差込の形状を共通化したものであり、世界標準ではあってもその基準を示したものではないのです。このことを多くのアーチャーは忘れています。そしてこの接合方式が最良最善であるという考えも間違っています。ただ多くのメーカーが、商売に都合がいいがために使っているにすぎないのです。
 例えばあなたがプロショップや専門店で弓を買ったとします。ハンドルとリムをセットにしてです。その時、お店の人は知識やノウハウ、あるいは常識としてセンターショット程度は教えてくれたとしても、その弓の基本位置を教えてくれましたか。あるいはそのデフォルトの位置にセッティングしてくれましたか。
 なぜ問題が複雑かというと、接合方法が共通化されたことでHOYTのハンドルにはHOYTのリムが使われるとは限らなくなったのです。(HOYT同士の基準位置も知らないアーチャーは多いでしょうが。) ハンドルとリムの組み合わせでいえば、多種多メーカーのハンドルとリムが無限の組み合わせで存在することになってしまったのです。スタンダード(標準位置・基準位置)もなしにです。
 どういうことかといえば、例えば↓この「プロセレクトリム」の表記を見てください。
   ■ 表示ポンド数はAMO規格に準じ、Explorerハンドルではポンド調整ネジをいっぱい
     に締め込んだ位置(ボトム位置)から5回転緩めた位置。 Hoyt 社エランハンドルで
     はボトム位置から3回転緩めた位置が基準となっています。
     ただし、メーカーやモデルによってハンドル形状はすべて異なります。リム角度やティ
     ラーハイト調整、およびセンター調整等はお客様の責任において、必ず行ってください。
 これで分かると思うのですが、リムとハンドルに互換性があって使えるとしても、差込角度はメーカーやモデルによってすべて異なるのです。そこには品質や精度の誤差や個体差としてのバラツキも加わります。あるいはリムの元々の精度や品質管理、許容範囲も影響します。
 このことは単に表示ポンド数(弓の強さ)の問題だけではありません。弓そのものの基本性能にかかわる重大問題なのです。
 各メーカーは当然、ハンドルを作るにしてもリムを作るにしても、基準になるマスターハンドルを持っています。そのマスターハンドルによって捩れや強さを計り、許容範囲を設定しています。そしてそれ以前に、リムを設計する段階からマスターハンドルで決められた角度にリムをセットすることで最良、最高の性能を発揮すると考えているはずです。ところが、そんな最高で高価なリムであってもまったく違った角度でハンドルにセットされたのでは表示されたポンドが出ないだけでなく、性能そのものが発揮されないばかりか、まったく逆に悪影響や最悪の結果すら招いてしまいます。
 そこで自慢ではありますが、なぜヤマハが採用していた「ダブルアジャストシステム」(これは接合そのものにかかわる伊豆田さんが考えた「タックレスインサートハブ」方式に、ポンド調整機構として私が考えた方法です。)が優れているかです。
 この方法はポンド調節とティラーハイト調節を別の部分に担わせているのです。ユニバーサルモデルではネジ部分に両方の機能を持たせていますが、ヤマハはネジ部分にはティラーハイト調整のためだけの微調整を付与し、大きくリムを傾けるのは接合板と呼ぶスペーサーを交換することでポンド調整を行ったのです。この方法だと、デフォルトの基準位置がすべてに明確であることで、基本性能の維持とアーチャーのチューニングを容易にしました。
 そしてここでも注意してほしいのですが、ヤマハに限らずすべての弓はリムを基準位置(メーカーが考えるベストポジション)から起こすことにメリットはないのです。ポンドダウン(リムを寝かす)のメリットはあったとしても、リムは起こすことで性能的に向上することはありません。ポンドがアップする分で矢速が向上したとしても、安定性や的中性能は確実に低下します。このことも多くのアーチャーは知りません。起き上がったリムは不自然な応力集中とバタツキを生みます。
 それに加えて、今のスタンダードである25インチハンドルは、ユニバーサルモデル同様特に日本人の体格に対してベストの長さとはいえないのかもしれません。元々HOYTも24インチハンドルであったにもかかわらず、ヤマハの性能に及ばないハンディを補うために(リムを短くして矢速を上げる)無理矢理作った長さです。しかし結果的には体格の大きい、リーチの長いアーチャーのスタンダードとして定着しました。その結果ほとんどのメーカーは、25インチハンドルにMリムを組んだ68インチを設計の基準に置いています。
 そのため、23インチハンドル(ショートハンドル)とセットする64インチ(Sリム)の弓もそうですが、25インチハンドルとセットした66インチ(Sリム)の弓の特に低ポンドが問題です。腰がないのです。メーカーが基準位置として推奨するリム角度からほんの少しリムを起こしただけでも、安定感も収まりもなくなりバタバタの弓になってしまいます。作る側とすれば、66インチは23インチハンドルにMリムを組んだ方が最近は安心なのです。
 しかしその場合、ハンドルに問題が起こります。男性の場合ウインドウの長さが短いために短距離でサイトがとれないなどがそうです。しかし問題はそんな表面的なことだけではありません。どのメーカーも23インチハンドルを本気で作っていないのです。単純に25インチハンドルの両側を1インチづつ切っただけのショートハンドルを作るため、デザインや形状だけでなく弓としてのバランスや重量配分、安定といった完成度そのものが低下するのです。
 というわけで、日本人が日本の弓で世界の頂点を目指す意味を今一度考える時期ではないでしょうか。そして日本人のために物を作ってくれるメーカーがなくなった今、アーチャーはまず物を選び、与えられた物をそのまま使うのではなく、自分にあったより良い物に変えるチューニングなりセッティングをすることが不可欠のように思います。

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