ユニバーサルモデルのことで余談

 「公差」をご存知ですか? 中国から飛んでくる砂ではありません。
 穴を開けるにしても、棒を作るにしても、材質や形状は問わずに物を加工する時、必ず図面には記載される重要な数値です。しかしその完成品を見るユーザーにとっては、ほとんど知らされない情報でもあります。
 例えばハンドルにクリッカーの穴を開けようと思えば、多分アーチャーはハンドドリルで4ミリ弱の穴を開けて、そこにタップを立てます。なんの不自由もなくクリッカーが取り付けられるでしょう。では仮にそれが4ミリの穴だと仮定して、開けられた穴が4ミリかといえば決してそうではありません。曲がっていたり、斜めになっていたり、そして穴は4ミリより大きいでしょう。しかし、使用にはほとんど問題ありません。
 では、直径9ミリのステンレスの棒を作ってみるとしましょう。こんな単純な円柱形を削りだすにしても、完璧に9ミリ寸法で作るのは難しいのです。これは機械の精度の問題もあれば、それを扱う人間の熟練度の問題もあります。そして出来あがった物全部をOKとするのか、その中から良い物を選び出すのかの問題もあります。いくらコストを掛けてもいいのであればできるでしょうが、値段とのバランスも重要な問題です。
 そのため製作段階では、図面には「±0.5mm」や「−0.3mm +0.5mm」といったこの範囲(誤差)までなら許されるという指定がされているのです。これが公差です。逆にいえば、9ミリのステンレスの棒と指示をしてもぴったり9ミリの棒ができあがることはないのです。もし公差を「±0」で指定するなら、製造業者は無理と答えるか、とんでもない価格になることを覚悟しなければなりません。
 そこで「ユニバーサルモデル」です。公差はあらかじめ加工寸法の許容範囲として、JISなどの統一規格で決められています。しかしアーチェリーのユニバーサルモデルと呼ばれるハンドルとリムの接合方式自体は、特許がオープンであることを踏まえメーカーの都合で広まった規格でしかありません。AMOなどで細かく規定されているものではないのです。メーカーは「互換性」の名の下、勝手にその寸法を測り、それらしいモノを作っているにすぎません。公差のとり方がメーカーによってまちまちなのです。そこで問題になるのは、異なるメーカー(あるいはモデル)のハンドルとリムが組み合わされる場合です。当然統一規格がない以上、他社との組み合わせを前提ともしなければ、保障もしていないと理解するべきでしょう。
 例えばユニバーサルモデルの付け根にあたる「U溝」を考えてください。品質の誤差(悪さ)は別にして、仮に公差±0.25mmで出来あがったステンレスピンが−0.25mmでリムの溝が+0.25mmであったなら、リムの根元に0.5ミリものガタが出ることになります。逆の誤差であれば最初は硬くても、リム側のU溝が逃げることで収まります。しかし遊びが大きい方に出会ったなら、これは何らかの対策を考えなければなりません。それはステンレスピンにテープを巻くとか、リムのU溝にほんの少しエポキシ系接着剤を付けて硬化してから加工して溝を狭くするとかです。
 これは最悪の状態を想定しての話ではありますが、ないとは言えません。どのメーカーも他社との組み合わせにおいて、そこまでの保障はしていないということを理解して欲しいのです。文句を言えば、純正品(同じメーカーなりモデルの組み合わせ)を使うように教えられるでしょう。しかし、今の世の中、そんな組み合わせは少数派です。そして実際には、ここに品質管理とメーカーの姿勢という誤差も重なってきます。
 実はユニバーサルモデルでもうひとつ重要な寸法があります。それはU溝が入るステンレスピンあるいはリムのU溝の底からリムのもうひとつの金具、スプリングで押さえられているピンあるいはそれが収まるハンドル側の穴までの距離です。これがステンレスピン同様にメーカーによって微妙に違う場合があるのです。また実際に同じモデルであっても、生産時期によって異なるメーカーがあるのです。意識的なのか、精度の悪さなのか、品質管理のずさんさなのかは知りません。当然この距離の組み合わせとリムのセッティング角度はU溝本体の精度と連動します。極端に2点間の長いリムをその距離の短いハンドルでリムを絞め込んで(ポンドアップ状態)使用した場合、スプリングピンがハンドルの穴に入らない場合もあり得るのです。
 ということで、「相性」の問題と言えばそれまでですが、ユニバーサルモデル=ユニバーサルデザイン にあらず。自己責任を求められることもありますので、ご注意ご了承を、お願いします。

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