偉そうなクリッカープレート

 「クリッカープレート」と呼ばれる「部品」があります。それも必ず必要とはしないイレギュラーな部品であるにもかかわらず、なぜか近年立派な「道具」のような顔をして偉そうにしているのです。
 もともとクリッカープレートとは、ウィンドウより長い矢を使う時、クリッカーがウィンドウ面より前にはみ出して「カチン!」と音が鳴らないため、それを補うとっても控えめな初心者的部品でした。少なくとも木製ワンピースボウの時代には表立って存在していませんでした。当時のウィンドウが広かったせいもあります。ではテイクダウンボウになってウィンドウが狭くなったからという必然から登場したかといえば、そうでもありません。現在のNC加工ハンドルが登場する前のアルミダイキャストハンドル20数年の歴史末期に、それはそれは恥かしそうに初心者の間に出現した日陰の存在だったのです。クリッカープレートは決して上級者やトップアーチャーが使わない、初心者を助ける補助的な道具だったのです。
 ところが最近はどうでしょう。猫も杓子も、必要がないアーチャーまでもが付けているのです。パソコンを買ってきて、説明書を見る前にまずはプラグを差し込んでみる、あれと同じ神経です。あるから使う。分かることだけする。クリッカープレートは付けられても、レストは真っ直ぐ貼れないし、センター出しもバランス調整もやってない。でも一人前のアーチャー気分にクリッカープレートはしてくれるのです。 あぁカッコ悪りぃ。。。。
 こう書くとまたお叱りのメイルをいただくかもしれませんが、、、しかし、では、なぜクリッカープレートを必要とするくらいのそんな長い矢(シャフト)を使うのですか? これに明確に答えられるアーチャーだけが、道具としてのクリッカープレートを胸を張って使うべきです。答えられないアーチャーは、自分のクリッカープレートを見るたびにそれを使わない日が来ることを望んで、練習の励みとするべきでしょう。
 
 明確な答えのひとつに、「スパイン調整」「矢の硬さを・・・」を挙げるアーチャーが多いでしょう。でも本当ですか? クリッカープレート使用の有無で変わる矢の長さは1インチ(2.5センチ)もないはずです。クリッカープレートを使うことで長くなっている部分は、多分1センチ前後でしょう。それでスパインや矢飛びが変わったり、それで的中が異なる技術と感覚を持っているアーチャーを知りません。もしそれが事実だとしても、それはクッションプランジャーの出し入れと硬さ調整で十分に補える範囲です。
 例えばインドア競技で、エクステンションバーにクリッカーとクリッカープレートを取り付けて2インチ近く長い矢を使用するアーチャーを見かけます。それはそれで明確な理由があります。オンラインのタッチを狙うべく本来のスパイン以上に太い(硬い)シャフトを使うためには、5センチ近く長い矢ならスパインの違いを体感できます。しかしこの時にも注意しなければならないことは、どんな長い矢を使ったとしても、発射時の最初の力(たわみ)はノッキングポイントとクッションプランジャーの2点間で働くことです。ドローレングスが同じであれば、クッションプランジャーの取り付け位置を変えない限りは、プランジャーからポイントまでの長さがどれだけであったとしても関係ないのです。関係するのは、その次のたわみからであり、実際には飛翔中に5センチも長ければ(1センチ程度が効果があるとは思いませんが)スパインに影響を及ぼすでしょう。
 明確な答えその2、「長い矢の方が方向性に優れる」。これはライフル銃とピストルの違い、長い弾丸と短い弾丸の違い、と同じ理論でしょう。確かにそうですが、これはアーチェリーにおいては重量の増加と投影断面積の増大とセットのものです。特にアルミアローの時代では、それがゆえに不必要な矢の長さは風や雨といった外的影響の前では大きなダメージとなりました。しかしカーボンアローになってからは、このプラスマイナスを天秤に掛けて再考するのもいいかもしれません。
 では、これ以外の明確な答えは何でしょう。「切るのがじゃまくさい」、くらいでしょうか。
 
 昔、レストからクリッカーまでの長さはシャフト内外のポイントを考慮したうえで、最短にし不要な長さは残さないことが原則でした。自分に合った矢の長さとは、クリッカープレートなどは使わずウィンドウ内でクリッカーが鳴る位置であり、長さです。初心者を卒業すれば、そんな長さで自分の矢を作るものです。
 では最後に最近よく見かける、明確なクリッカープレートによる弊害。クリッカーは音が大きければいいとカン違いするあまり、厚い(硬い)クリッカーをしっかりプレートに叩きつけるのはいいのですが、クッションプランジャーからポイント先端までが長く、カーボンアローでシャフトも軽いために、、、、てこの原理でクリッカーが鳴った瞬間(リリースの前)に、矢がレストから跳ね上がっている一人前アーチャーをよく見かけるのです。
 道具に高い金を掛けるのはいいですが、付属品はなんでも使えばいいってものではありません。偉そうな初心者にならないよう、ご注意ください。

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