弓と矢のクリアランス

 

 

 
 多くのアーチャーは「矢飛びを見る」と称して、飛翔中の矢を目視することでチューニングを行ったり、的中を予測したりします。それはそれで重要なことですが、実はそれらの原因のほとんどは発射の瞬間に起こっているのです。特に「矢飛びの悪い」原因や「的中に悪影響を及ぼす」出来事は矢がレスト部分を通過する時に発生します。そのため矢を置くレスト部分およびウインドウ部分は可能な限り深く削り込み無用な接触を避けることは弓のメーカーにとって重要なポイントでもありました。
 しかし木製ワンピースボウの時代では、ハンドル部分の強度と弓全体のバランスからウインドウ部分の削り込みを極端に深くすることはできませんでした。ところが1970年代に入って登場した金属製のテイクダウンボウはこの問題を解決へと大きく前進させました。その結果、この写真のような弓まで登場したのですが、残念なことにこの種の弓は「一般通念および語義に適合」していないという理由から我々の競技での使用は現在でも認められていません。
 とはいっても、現在のハンドルは昔の弓に比べウインドウの深さは遥かに深くなっています。またレストを取り付けるクッションプランジャーの位置を動かせるなどの配慮もなされているものまであります。ところが、昔のアルミアローより極端に細くなったカーボンアローを使用しても、このレスト部分で発生するトラブルは昔以上に深刻な問題となり、多くのアーチャーにとっては致命傷となっています。理由は矢の軽さとパラドックスのストロークが小さくなったことです。

 矢が通過する空間の大きさ、あるいはその時の矢と弓の距離(間隔)などを総称して矢の「クリアランス」( Arrow Clearance )などと言います。では、アーチャーがそれを確認する方法はあるのでしょうか。
 近年のカーボンアローのスピードは時速250キロにも達します。1秒間で70m近くを飛んでしまうのです。当然これだけの速さになると人間の目で直接その動きを見極めることは不可能です。市販のビデオカメラでも無理です。見ようとするなら1秒に10000コマを超える特殊なハイスピードカメラでなければ、正確な動きを確認することはできません。しかし、そのような機材を使用しなくとも、矢の発射の瞬間を間接的にではあっても確認する方法はあります。
 例えば、カーボンシャフトでは分かり難いために意識することはないのですが、アルミシャフトを使用(上級者でもインドアでは使う機会があるでしょう)していると、ポイントから数センチの所にアルマイト塗装が磨耗して「線(筋)」が入ってきます。
 これは異常な状況や現象ではなく、アーチャーズパラドックスを理解していれば当然であり、まったく正常な結果です。矢は発射される瞬間にこの部分を強くプランジャーチップに押し付け、出て行くのです。問題はその反発として、どれだけ後方に位置するハネからノックのある部分が、レスト位置でそこから離れて通過するかということです。この距離がクリアランスです。
 アルミシャフト同様に、昔はプラバネと呼ばれる硬いプラスチック製のハネを使っていたため、もしハネがウインドウにヒットするなどのトラブルがあれば的中と矢飛びに極端に反映されるため初心者でも問題を発見でき、技術の改善なり矢のサイズ変更を試みることができました。しかし今ではカーボンシャフトに加え、ソフトベインやクッションプランジャー、そして深いウインドウなどによって、どんどんこれらのトラブルが発見でき難い状況になってきています。それに加えての矢の高速化です。目視が不可能になることで、致命傷である弓具のトラブルが正確には認識されずに、単にアーチャーの技術的問題だけにその原因があるように言われてしまうのです。しかし現実には矢のサイズ(スパイン)や種類、あるいはストリングを含めたレスト回りの道具やチューニングを変えれば、的中や矢飛びは大幅にそして簡単に改善される場合がほとんどなのです。そうでなければ、あれだけ高価な最新のカーボンアローを使用していながら、こんなに当たらないはずがないでしょう。
 まず普段使用している弓や矢を、注意深く点検してみましょう。
 同じ位置のハネばかりが剥がれたり、同じ所にキズや汚れが見つかれば要注意です。それに併せて、レストのツメやプランジャーチップ、ウインドウ下部にハネやシャフトが当たっている跡はありませんか? もしこのような状況が見つかったり、見つからないにしても不安があるなら、こんな方法も試してみてください。
 当たっていそうな場所が分かっているなら(例えばのような所)、そこに口紅や印鑑の朱肉などを塗って射ってみます。そうすれば、そこがどこに当たっているのかが発見できるでしょう。また逆にウインドウ下部やレストにベビーパウダーを降りかけ、粉の膜を作って射てばハネが擦っていれば発見することができます。
 実際、カーボンアローになってからは素材の特性として振動吸収性がアルミに比べて飛躍的に向上したために、特に矢の後部がレストとぎりぎりの所を通過するようになりました。そのため、ほんの少しのスパインの違いやちょっとしたチューニングの不手際がここでのトラブルを発生させます。あるいは、上手くシュートすれば問題ないのに、ちょっとしたミスが大きく的中に影響を及ぼすということが普通に起こりうるのです。

 ではどの程度のクリアランスが存在すればいいのか。
   ひとつの方法として、矢を逆につがえて射ってみるのはどうでしょう。普通右射ちの場合、コックフェザー( cock feather )と呼ばれる位置にあるハネを左側につがえ、ヘンフェザー( hen feather )と呼ばれる残り2枚のハネをレスト側につがえます。これはレスト部分を矢が通過する時にハネを当たり難くするための配慮からです。これを逆にして射ってみるのです。但し、バイターノックの場合だけはノックが逆になると的中位置が異なるので、ノックのつがえ方はそのままで、シャフトを180°回転させてやる必要があります。
 こうすると、シャフトがレスト(プランジャーチップ)ぎりぎりに通過している場合はコックフェザーがまともにヒットしていき、矢飛びやハネのキズなどでその状況をすぐ把握できます。
 すべてとは言いませんが、一般的にはハネの高さくらいのクリアランスがレスト部分では必要であり、アーチャーズパラドックスの結果としてこの程度の距離が弓と矢には存在してもおかしくはありません。もしこれでヒットしていく場合で、普通につがえて射つ時にはなんら問題がないとすれば、それはそれで問題はありませんが、しかしアーチャーは射ち方が悪かったり、チューニングに変化が起こった時などは急に的中や矢飛びに変化が現れるかもしれないことは理解しておかなければならないでしょう。
 ともかくは、これがクリアランスであり、ほとんどのトラブルはこの部分で発生しているのです。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery