フルメタルジャケット

 「フルメタルジャケット」(Fullmetal Jacket)。スタンリー・キューブリック監督のベトナム戦争を描いた名作です。
 ところでこのフルメタルジャケットの意味ですが「完全被甲弾」などと訳されます。ライフルの弾丸(飛んでいって的中する部分)は鉛でできているのですが、それを真鍮メッキなどで完全に覆った弾頭のことを指します。言葉通りのフルメタルジャケットです。戦争時には人間に当たった時に変形せず貫通力を高めると言われますが、実際にはメッキがないと身体の中に鉛が飛び散るため殺傷力が高く、ダメージや苦しみが大きいのでハーグ条約でも戦争ではフルメタルジャケットを使用することが原則決められています。
 そこでアーチェリーの「フルメタルジャケット」です。最近日本では余り見かけませんが、EASTON社にあってはめずらしいシャフトです。弾丸同様にメタル(アルミニューム)でシャフトを被っているのですが、中身はカーボンシャフトです。A/C(アルミ/カーボン)シャフトがアルミを芯として、それをカーボンで被っているのとは反対に、このフルメタルジャケットはカーボンをアルミが被っています。
 A/Cもそうですが。こんなシャフトを作っているのはEASTONしかないのですが、だからかもしれませんがアメリカでは結構売れています。どこで売れているかと言うと、ハンティングに使用するのです。熊や鹿などの動物を射ちます。獲物に刺さった時、A/Cを含めたカーボンシャフトでは骨などに当たると体内でシャフトが砕け散り、調理するのが大変です。また、当たればいいのですが、地面や木を射ってしまった時にはシャフトが壊れることもあります。そんな時、表面がメタルの方が壊れにくい、というか壊れるのですが外側にカーボンが飛び散りにくいというわけです。
 オールカーボンシャフトやA/Cの作り方はこちらに書きましたが、これらはアルミをコア(芯)にして作ります。コアを残すことが良いか悪いかは別にして、作り方としては理にかなっています。金属の芯に柔らかいカーボンシートを巻き付けて、後で焼き固めます。最新のレーシングカーやジェット機と同じ製法ですが、矢の作り方を例えれば「ちくわ(竹輪)」です。最後に竹を抜いたちくわがオールカーボンシャフトで、竹付きのちくわがACEやX10です。
 ところがフルメタルジャケットの製法は個人的にはちょっと想像ができません。竹の中に練り物を塗るわけです。詰めるのではありません。オールカーボンシャフトにどうやってアルミチューブを巻き付ける(被せる)のか、ずっと疑問です。それがEASTONの技術だ!というならそれはそうなのですが、、、誰も調べないので、ちょっと調べてもらいました。「X線CT」を使った、通常の断面組織観察での横断面です。
 フルメタルジャケット「内側がカーボン、外側がアルミコアの構造です。剥離らしき箇所は確認できませんでした。内側のカーボンは偏肉しており、良い状態とは言いにくい成形状態です。製法は推定となりますが、アルミチューブにカーボンシャフトを挿入しているのではないかと考えます。その際両者の間に接着剤が介在しなければなりませんが・・・」。ACE「表面にクラックがあるサンプルで観察しました。クラック近傍にカーボン層を貫く微細なクラックが存在していました。しかし、写真からは内側のアルミコアとの間に剥離があるとは断言できませんでした。」
 判断はお任せします。正解はEASTONに聞いてみてください。
 ところで今回ポイントの重さを変えるために、インドア競技で使っている2212のアルミシャフトのポイントを抜くことになりました。偶然なのですが、その中に練習時にシャフト同士が当たってシャフト表面が凹んでいるものがありました。その位置が先端の方だったのですが、ポイントを抜いてちょっとびっくりです。当然2212は大口径シャフトなのでその分肉厚は薄くなっているのですが、凹んだ場所がポイントのスリーブが入っている境目でした。
 分かりますか。矢が的面でグルーピングした(ガシャッと聞こえた)時、ポイントの分厚いアルミのスリーブ(チューブ部分)が変形↑するほどのダメージを受けるのです。その威力を今回偶然見ることができたのですが、カーボンシャフトはそうもいきません。カーボンがアルミより強いといっているのではありません。カーボンはアルミのように凹む(変形)ことなく、外観上は復元するからです。それでいて、A/Cのアルミコアは12厚よりもはるかに薄いのです。
 この時クラック(割れやひび)が大きければ目視で発見できます。ところが小さい傷程度であれば、割れていても発見できません。そこで各メーカーともに、こんな方法↓でチェックして割れやひびのあるシャフトは使わないように注意を呼びかけています。EASTONのオールカーボンシャフトも同じです。曲げれば、クラックがあれば音がしたり一気に裂けて発見できます。
 ところがA/Cやフルメタルジャケットは少し状況が違います。カーボンは素材の特性から、シャフトを曲げても変形することなく元の状態に復元するのですが、そこにアルミチューブがあると曲がったままです。このようなチェックができません。
 技術屋さんが言うようにレーシングカーでもジェット機でも、カーボンと金属を貼り合わせることは決してしません。理由は強度も熱伝導率も違う素材を合わせること自体に無理があり、カーボン本来の性能を発揮できない以前にひっ付かない(剥がれる)のです。
 それでもやるのがEASTONの技術なのでしょうが、複合材の場合クラックとは別に「剥離」を考える必要があります。カーボン層とアルミチューブの間の剥がれです。これはクラック以上に発見は難しくなります。というより、目視を含めアーチャーでは見つけられません。外観上は凹みも割れもなく、シャフトを転がしても真っ直ぐです。
 スパインが机上の測定数値であり、大事なのは動的スパイン(実際に飛んでいるときの挙動と硬さ)であるのと同じように、手の中では完璧な矢でも剥離があれば飛びが変わります。当然、的中位置も変わります。しかし、その的中位置の違いを分かるアーチャーは限られます。重さと曲がりは測定できても、中身は測定できません。実際に射ってみないと分からないのです。
 
 世の中、A/Cが良いか悪いかは別にして、値段が高ければ壊れにくかったり良く当たると勝手に思い込むのはやめませんか。そして近射も含めて畳の上でガシャガシャすることも、決して自慢できないことだと知っておきましょう。
 何よりも一番大事なことは、矢は「消耗品」だということです。6万円の矢を2年も3年も使うなら、2万円の矢を1シーズン2ダース作る方がよっぽどスマートかと思うのですが。どうでしょう。
 ところで、ハンティングは想像すれば分かるように、木の上や茂みや雪の中などいろいろな状況から距離も分からないところにいる獲物を射ちます。1本射てば獲物は動きます。同じ状況、同じ距離から2本射つことはないのです。ターゲット競技のように距離の分かっている同じ距離を平地で何本も射つことは決してありません。1本勝負です。そのような競技においては、弓もそうなのですが、矢も6本あるいは1ダースパックでの均一性(?)はさほど求められないことも知っておきましょう。

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