リムセーバーに物申す

 以前にも少し書きましたが、この2月に東京でカーボン屋さんに続いてゴム屋さんに会いました。新宿で話が弾んで結構飲んだのですが、、、、その時の話の中で、カーボンの世界と同じでゴムの世界でも日本が世界で一番という話になりました。ただしカーボンの場合は生産設備や品質管理においても技術やノウハウ同様に世界一なのですが、ゴムの場合はやはり生産力やコストにおいては中国や台湾にはかなわないという話でした。しかしだからこそ、その基本になる特許やノウハウ、先端技術は決して国外には出さないとのことでした。作っている国はともかくとして、日本の技術で作ったゴムは世界最高のものだということです。日本の技術をもってすれば、どんなゴムでも作れるし日本にしか作れないモノがあるという話です。
 そこで突然「リムセーバー」です。この商品名とも道具の名前ともつかない代物は何なのでしょうか? 不可思議であると同時に、個人的には非常に不愉快です。
 
 全日本アーチェリー連盟競技規則(2002〜2005年)
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
10 次の用具は使用することができる。
 アームガード、チェスとガード(ドレスシールド)、ボウスリング、ベルトクイーバー、グラウンドクイーバー、タッセル、地上から1cm以下の高さのフットマーカー、リムセーバー、電気または電子によらない風向表示装置(軽いひも状のもの)を用具に付着してもよく、ウエイティングライン後方では電子風向表示装置を使用しても良い。
 
 と、何年か前にベルトや矢を拭く雑巾と同列に、突然この「商品名」が発売とほぼ同時期に道具の名前として、公式ルールブックに政治的商売的背景を含んで登場したことがまずは不愉快です。
 なぜ、多種多様のスタビライザーが登場してきた中で20年近く変更されなかった次の条項で、リムセーバーを許容しなかったのか。拡大解釈の必要もなく、この一形態にしかすぎない道具なのです。
 
 全日本アーチェリー連盟競技規則(2002〜2005年)
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
6 弓に取り付けたスタビライザー(複数)およびTFC(トルクフライトコンペンセーター)(複数)は使用することができる。
 ただし、以下の条件に適合すること。
・弦のガイドにならないこと。
・弓以外のものに触れていないこと。
・シューティングライン上で他の競技者の障害とならないこと。
 
 この政治的商売的背景の中にこそ、世界のヤマハ亡き後の弓具業界の現状が現れているのです。(ヤマハが撤退する2002年以前にリムセーバーは登場しましたが、その段階では伊豆田さんも退職し、すでにヤマハは本気をなくしていました。その表れがフォージド2なのですが。。。)
 本気で弓の性能と的中精度を追い求めたことがあるなら、あるいは考えたことがあるなら、リムセーバーはそれに逆行する道具です。例えば矢速を追求する時(これは性能の一番の基本的要件です)、カーボン繊維などのハイテク素材を使用します。その理由は弾性率(反発力)の高さですが、実はそこには軽量化も含まれているのです。いくら超弾性素材であっても重ければエネルギー効率が落ちてしまいます。その点カーボン繊維はこれらの両立が可能です。では、リムの返りが速くても安定性や耐久性がなければ意味がないという人もいるでしょう。たしかにそうです。しかし、それはリムの構造や形状あるいはハンドルの素材や製法、しいては弓全体の完成度ですべてを解決することこそがメーカーのプライドであり使命なのです。
 ところがヤマハが本気をなくした頃から、そんなプライドや使命感を持たないメーカーがたくさん台頭してきたのです。ヤマハやホイットが元気なら、そんな低俗な製品は相手にもされないはずでした。ところが悲しいかな、、、、です。
 結論から言えば、リムセーバーが必要になったのは、単に弓の性能と完成度が低下したからにすぎないのです。本当に完成されたハンドルとリムの組み合わせであるなら、こんな道具は必要としなくても十分な矢速と的中、そして安定感が得られます。また、それをメーカーは与えなければならないのです。
 先にカーボン繊維は速さと軽さをリムに与えると書きましたが、逆に言えばリムを重くすれば安定感らしき鈍さは簡単に得られるのです。カーボンリムに比べてのグラスリムがそうです。グラスリムは安定感があり、使い易いからこそ初心者には最適です。しかしグラスリムにスピードやシャープさを求めることはできません。グラスがカーボンの下位に位置するのは弾性率の低さからだけではないのです。重いのです。リムセーバーもそれと同じことです。バタツキの大きい、収まりの悪い、安定感のない近年の弓に、リムを重くすることでエネルギー効率を悪くして使い勝手を良くしてやろうとするのがこの道具の狙いなのです。そんなにエネルギー効率を落としてまでも得たい安定があるなら、あるいはそうしないと使えない弓なら、それは結構ですが個人的にこの姿勢が不愉快なのです。メーカーはリムセーバーなど必要としない高性能、高品質の弓を作るべきです。
 
 そこで話をゴムに戻します。
 今市販されている「リムセーバー」のゴムの試験結果です。
    ゴ ム 材 質  :EPDM(エチレンプロピレンゴム)
    ゴ ム 硬 さ   :20°
    ゴム反発弾性 :52%
 結論は普通のゴムです。通常の耐候性ゴムを少し柔らかくした、なんら特別でもないボールを落とせば跳ね返す普通のゴム素材です。
 重さ16g。これだけの重りと負荷をリムに装着すれば、リムはおとなしくなるでしょう。ハンドルよりもリム先端に近ければそれに越したことはありません。しかしこの普通のゴムは、それ自体が振動吸収効果を大きく持つものではありません。キノコ型の形状から多少の振動発散はするでしょうが、取り付ける位置によっては共振で振動が増幅され逆効果の可能性もあるので注意を要します。
 今回、ゴム屋さんと一緒に普通ではないゴムをいろいろ探しながら試行錯誤していました。そこで行き着いたのが、ゴム反発弾性2%という驚異的な制振性能を持つ日本が誇る「低反発ゴム」です。これまで制振性が良いとされてきたIIR(ブチルゴム)や汎用合成ゴムのSBR(スチレンブタジエンゴム)と比較してみると、10〜30℃、10〜1000Hzにおいて数倍から数10倍もの制振性能を発揮します。リムセーバーの26倍です。すでに身近なところではターンテーブルや精密機械の脚部分、スポーツ用品ではグローブの中などに数多く使われている高性能な素材です。
 ここにその10ミリ厚のシート素材が何種類かありますが、例えば1mの高さからゴルフボールを落としても跳ねないし、生タマゴを落としても、お気に入りのバカラのグラスを倒しても割れないのです。そんな素材でキノコ型を作ったり、スタビライザーの先端に配せばそれこそ振動吸収という求める本来の性能を十二分に発揮するでしょう。新型のTFCを作ることもできます。しかし権利関係の問題はあるでしょうが、そんなこと以前にそんな節操のないことやリムの反発力を抑制して安定を得る方法などは考えたくもないのです。
 このたった2%という反発弾性率をどう生かすか。
 例えばパワーロッド80の中に部分的に挿入するだけでも、発射後の硬さからくる細かい振動を吸収するのには十分効果を発揮します。しかしこの使い方については少し時間を置こうと思っています。なぜなら800ギガパスカルというカーボン素材の登場は、これまでにも書いたようにダクロンストリングの時代にケブラーストリングが登場したようなものなのです。そのインパクトの大きさは、それまでのエクステンションロッドが折損するようなものです。確かにケブラーの時代を飛び越えて、より高性能で耐久性があり使い易い高密度ポリエチレンの時代に入るのも理想かもしれません。しかしあえてもう少しこのインパクトを楽しみたい(?)、と思うのです。陳腐なロッドや低俗な製品が多少は淘汰されるであろう少しの間です。
 では、どう使うか。
 すでに実射テストをしながら、具体的な改善策に入っています。非常に良い結果なのですが、ゴムをそのまま使うわけにはいかず、当然形状もですが、それ以外にもアーチェリー用に作る必要があります。コストのこともあるので、まだ未定です。もう少しお待ちください。弓の反発力を抑えず、無用な不良振動を根元から解消する、そしてパワーロッド80もより使い易くなるような、そんな道具を考えています。多分パワーロッド80以上に多くのアーチャーに、このことを確実に体感してもらえるモノだと思っています。ご期待を・・・。 (^^ゞ

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