30何年もアーチェリーをやっているとたくさんの新しい道具と出会うのですが、そんなモノを見ただけで直感で良いか悪いもそうですが、流行る流行らない、消える生き残るかもほぼ間違いなく分かるのです。これは長くやっていれば誰でも分かるようになるというものではなく、人間個人個人には持って生まれた才能のような部分があります。例えば、絵を書くのがうまい人、唄がうまい人、走るのが速い人がいるように、弓が当たる人が分かるとも限らなければ、当たらなくても分かる人は分かるのです。
 そんな前提はあるのですが、モノを作り出そうとする時にも、そこには情熱も努力も知識も経験も必要ですが、何よりも必要なのは「想像力」です。しかしそれは才能以前に、まずはそのことを一生懸命考えることです。
 
 ということで、ちょっと大昔話です。1975(昭和50)年7月。大学4年の時、信州野辺山の学習院大学の夏合宿に遊びに行っていました。当時は当然インターネットなどはなく、地球の裏側からの情報が画像付きでリアルタイムで入手できるというようなことはありませんでした。数日遅れで新聞に写真が載れば、それが最も早い情報でした。そんな時、学習院の友人が「凄い世界新記録!」と「弓の前側に付いたヤジロベーのようなスタビライザー」という2つの信じられないビッグニュースをくれたのです。この時、スイスのインターラーケンでは18歳のダレル・ペイスがアルミ矢とグラスリムで驚異的な点数で世界の頂点に立っていたのです。
1975年6月 インターラーケン世界選手権
2548点(1266-1282)世界新記録

この年の8月、全米選手権で1316点の世界新記録を樹立。(309-333-327-347)

 ここで初めて使われた道具が、ケブラーストリングとVバーと呼ばれるスタビライザーシステムです。そしてヤジロベーとは1970年代初頭に日本人が考え出したVバーとそっくりなスタビライザーです。ただし違うのは取り付け位置が弓の手前であったことです。しかし今でこそあたり前のVバーですが、それがない時代に友人の一言だけを手がかりに、今で言う1400点にも等しい想像を絶する点数に思いをはせながら必死で考え出したのがこのスタビライザーでした。安定を第一に考え、Vバーの開き角度は90度とし、写真の上に分度器を置いて前方下向きに45度を保つにはどの角度がいいかを一生懸命考えたものでした。
1976年5月9日 日本記録更新
1284点(289-324-323-348)
 ダレル・ペイスのVバーの写真を見たのはそれから一ヵ月後。それを待てずに、クラブにいた旋盤屋さんに絵を書いてアルミを削り出して作ってもらったのです。彼とはまったく異なるこのスタビライザーが世界のスタンダードになることはありませんでしたが、その年の9月14日全関西選手権で日本で初めての90m300点を含む1262点の日本記録を樹立しました(300-311-305-346)。これは1971年に中本新二さんが射ち立てた1252点の世界記録を4年ぶりに更新するものでした。
 ダレル・ペイスは後に、あのスタビライザーは自分が考え出したと話してくれましたが、その時彼の頭に日本人が作ったヤジロベーがあったとは思えません。ヤジロベーが日本で商品化された時、そのセッティングがグリップの中に重心を置くというものであったことから考えると、彼の発想は異なるものでした。
日本製ヤジロベー
1971年8月1日 インターハイ優勝
600点
 しかしともかくはこの時期、それまでスタビライザーは本数や取り付け位置にかかわらずすべてが平面の中に収まっていたものが、立体的な構成に変化したのです。このことはスタビライザーの歴史の中で革命的な出来事でした。この発想を思えば、スタビライザーの素材の変化(鉄やアルミからグラスやカーボンに)や形状の変化(無垢からパイプに、ストレートからテーパーに、そしてまたストレートに)などの進歩は、単なるマイナーチェンジ的出来事にしかすぎないのです。もし同じような革命があったとすれば、それはウエイトスタビライザー(単に重りを弓に取り付ける)の時代にロッドスタビライザーが発明されたことでしょう。
 あれから30年。今ほとんどのアーチャーが使っているスタビライザーは、Vバーとハンドルの間にエクステンションロッドを配し、角度を水平に保つという、リック・マッキニーがダレル・ペイスのスタビライザーを1976年にアレンジした形状そのままのありふれたモノです。
1978年7月23日 全日本実業団優勝
651点(大会新)
 ダレル・ペイスを真似てこんなフレーム形スタビライザーも作りました。こんなテトラシステムも作りました。
1983年 ラスベガスシュート
 そして、インドア競技では、必ずインドアチューニングで臨みます。
 しかしそれでも、あれ以来、革命は起こってはいないのです。
 
 では、そんなありふれた形状での重量配分や素材の変更とは別に、性能や機能においてスタビライザーの何が変わったのか?
 それを話す前に、考えているモノのヒントとしてキーワードを差し上げましょう。11月19日、特許の出願手続きを終えました。そんなこんなを話す前に、ちょっと頭の体操をしてみましょう。「想像力」です。一生懸命考えてみてください。いいアイデアやヒントがもっと見つかるかもしれません。そして革命も。 (^^ゞ ちょっとお付き合いください。
 

「スライディング ウエイトシステム」

「フローティング ウエイトシステム」

「パワーボールウエイト」

 
 さぁこの言葉から、あなたならどんなスタビライザーと性能を想像できますか?
 
 では、次に。。。
 

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