世界で2番は普通のことでしょ!

編集部: 日本のアーチェリー界の状況は亀井さん、道永さんが銀メダルを取った当時と比較して、あまり進歩していないように思われるんですが、先日確かに1300点は出たんですけど、やはり世界大会で山本くんの6位が最高で勝つことはできなかった。相変わらずペイス、マッキニーのアメリカ勢を追い越せないでいる。亀井さんのよく言う言葉で、日本のアーチャーたちは今燃えていないと言いますが、それではなぜ燃えていないのでしょうか?
亀井: 道永くんも燃えてないと思ってますか?
道永: それよりも先に、現在自分も燃えていないからそうも思えるし、やっぱり自分中心に物を考えると自分が燃えていないから、まわりも燃えていないんじゃないですか。
亀井: 自分が燃えていないというのも含めて、それでは僕はと言われたら1977年を境に燃えていないし、燃えなくしたという現状もありますね。
編集部: 何が燃えなくした原因なのでしょうか。
亀井: 昔は一発、勝負をしてその先に世界があったってことですね。今はいろいろなシステムができたから、そうもいかなくなったでしょう。それまでは少なくとも予選で3番までに入ればストレートで世界に行けましたから。だから高校生にしたって選考会に出る資格さえ得たら、そこで3番あるいは4番内に入ればそこは世界だった。目標がそこにあったってことですよ。それが今はと言うと、ナショナルチームがひとつの大きな目標になっていて、即世界じゃないってことですよ。
道永: 僕がオリンピックに出場した時は、ただ弓さえ射ってたらよかった。他のことは何も考えないでね。でも今は世界へ行くことがすごく大変ですよね。やっと選ばれたと思った時には力尽きて、それで終わっちゃうってこともあるんじゃないですか。
編集部: 何か今のアーチャーたちを見ていると、選考会に通るだけでいいという風潮があるように思われるんですけど。
亀井: そう。ナショナルチームに入ることを目標にしている人が多いからじゃないですか? でも、今冷静に考えて世界で勝つためには、1300点をダブルで出さないとだめなんですよ。そしたら1300点を出すことを教えられる人は誰もいないと思いますね。でも僕たちがこれからトライする、そのためのノウハウも培ってきたわけですから。
編集部: 先ほども言いましたが、1300点は確かに出たが、日本のレベルは1977年当時と全然変わっていないということが言えるでしょうね。
道永: ぜんぜん変わってませんね。
亀井: 変わってないね。
道永: 点数的にもね。僕がオリンピックの時、1270から80点は出していましたからね。そして今は一応1300点は出していますが、あの時の感覚としては、もっと上に行っていたし、練習の時には1300点はどんどん出ていた点だしね。だから今はもっと上に行ってなきゃおかしいと思います。亀井さんの点数にしたってキャンベラの世界大会の時、僕は後ろで射っていたんですけど、もう今のレベルで言うならば、1340ぐらいの感じだと思いますけど。
亀井: イタリアの世界大会で山本くんの1260何点を見た時、道永くんはモントリオールで1270何点を出しているんですよ。これはすごい点数ですよ。5年も前に出した点数ですよ。それで山本くんは、道永くんが5年も前に出した点数を射って6位というのは当たり前のことなんです。だけど現在はまわりの人の感覚が下がっているから、山本くんの6位を「頑張った、残念だ」と思ってるかもしれないけど、それは大きな間違いだと思いますね。もっと分かりやすく言えば、世界記録と今の日本記録との差を考えればいいんです。最初は1971年の中本新二さんの1252点。これは日本記録イコール世界記録だった。大感動ものですね。その後、僕が1262点と1284点を出しているわけです。その時は世界との差が20点前後だったんです。今1300点が出たからってはしゃいでいても、2年前に1341点をペイスが射っていて、40点近い差がある。これが今の現状なんです。この意味から言うと、道永くんがオリンピックで出した点数はすごい点だと思います。
編集部: そうすると、日本のレベルが思うように上がらない原因はどこにあるのでしょうか? やっぱり燃えていないことですか。
道永: あのね、まず日本の中だけで争っているってことですね。それでアメリカというと、自分の頭の中で占める量が多い。世界大会に行っても、アメリカの練習を見ただけで圧倒されちゃう。これではもう勝つことはできませんよ。
亀井: 燃えていないのも事実だし、本気で世界を狙っている人がいない。
編集部: アメリカコンプレックスみたいなものがある、ということになりますね。
亀井: でも我々はそれを抜こうとしてやってきた。今の人たちはアメリカのコピーだけで終わっている。どうやって抜こうかということを考えてないってことです。本当にペイスやマッキニーに勝ちたいと思ってないんです。
編集部: アメリカがいつも頭の中にあるから、世界を本気で目指せないのでしょうか?
亀井: アメリカうんぬんだけではないと思います。
道永: 僕の場合、大学を卒業した時から点数が落ちてきてます。もちろんあまり射たなくなったからですが、やっぱり自分の環境が変わりますよね。汚い話ですが、金銭的なことも当然入ってきます。全日に出場すると言っても仕事を休まなければ行けないし、全日が九州、社会人が北海道なんてことでは行けるわけないですよ。試合は全部出たいですよ。でも九州や北海道でやられてはねえ、かなわないですよ。やっぱりアマチュアはこの辺を常にかかえていく問題であるから、本当に勝とうと思ったら2〜3年すべてほったらかしにして、弓だけに専念できればまた変わってくると思います。
亀井: 道永くんの言うことは、本当にその通りだと思いますね。
編集部: 世界的なレベルと言うことで話していただきたいのですが、現在レベルは世界的に上がってきているのですか?
亀井: 上がってきてますよ。さっき言ったように、記録というのは絶対破られるものです。でも、1341点なんて言っても、どうやって射とうかと言うと僕も考えちゃいますから。でも、そのくらいの記録であっても、何年か先には絶対破られる。だから、ほっとけば記録はどんどん伸びてくるということです。だけど今日本人の意識が低下しているから、ペイスのまねをしなくちゃいけないとか、マッキニーのまねをしなくっちゃなんて思うんですよね。僕はこのことをすごく恐れています。なぜかと言えば、1341点を超える時はペイスやマッキニーのあの射ち方ではないと確信しているからです。やっぱりジョン・ウイリアムスやハーディー・ワードの射ち方、あるいはアメリカンフットボールやベースボールをやる人間が本気でアーチェリーに取り組んだら、一発でやられるんじゃないですか。それだけアメリカ国内でもアーチェリーはマイナーであるし、その中で我々が低いレベルで見てすごいなと思っているから届かないところにあるけど、あの点数を破るヤツが出てくる時は、我々はどうしようもない所に追いやられてしまうしね。だから正しい理論を知った上で、絶えずトライしていかなければいけない。その超えるヤツというのは、僕らの足のような腕のヤツが射つ時ですよ。
今、マッキニーやペイスがあんな射ち方をしているから、僕らでもこれで行けるかなと思って、みんな間違ったやり方でやってますね。それを感じたのは、先日ウイリアムスが来日した時で、やはり彼もペイスやマッキニーに対する評価はそういう不安を持っているし、もっとはっきり言えば今度の世界大会で2人は負けたでしょう。それがひとつの前触れじゃないかと思います。あのチャラチャラした射ち方では、もうきつくなってきてるんですね。彼らを超えるヤツらが、ここ数年のうちに絶対出てくるでしょう。
道永: 本当に腕がこんなにある人にやられたら脅威ですよね。まだペイスがやっていれば、体型的には変わらなくて、技術と感覚の差なんだから付いて行けるということはあるけど、腕が僕の足くらいの人がやったら、たまんないでしょう。だから、現在なら2、3年弓だけやるとしたら世界チャンピオンになるくらいならできると思います。ところがそんなごつい人がボーンと射ったら、どうやって僕らが射っていいか分からなくなっちゃいますね。
亀井: それが僕らが弓を始めた1969年頃のレイ・ロジャースとかハーディー・ワードの出現と同じでね。今の人たちは、ペイスが射とうがマッキニーが射とうが脅威なんて感じないで、こんなまねして射ってるんでしょう。もう一度言うけど、絶対に彼らの点数を超えるヤツは出てくる。その時に我々が付いて行くことを考えなくてはいけない。そのための準備として、基本射形とか正しい知識を身に付けるってことになると思います。
道永: 僕はそんなに基本射形にこだわっていませんね。ただいわゆる、個人にとっての基本射形はあるだろうけど、いかに矢をノッキングポイントにつがえて、引き始めてからリリースするまでの時間を短くするか、僕はこれに尽きると思います。
編集部: 現実問題としてペイスやマッキニーに勝てないでいるわけですが、具体的に彼らと日本人アーチャーたちとの差は何でしょうか?
亀井: 頭でしょう。
道永: そう、まず意識が違いますね。彼らが日本に来た時もそうですけど、「そら!おれの射形を見んかい!」とことなんですよ。その自信はものすごいし、その差は大きい。僕らが彼らの目の前で射っても、プイッと横向いて話なんかしてますもの。ところが彼らが射つ時、僕らは見てますよね。この差です。
亀井: どうやってペイスやマッキニーに勝ってやろうかという問題なんですよ。その意識がどこまで個人に出てくるかってことじゃないですか。
道永: 僕が小さかった頃なんですが、運動会なんかでリレーがあるでしょう。それで、僕はいつも先生に言われたんだけど、「お前ミギヒダリ見て走ってるだろう。だから負けるんだよ。」ってね。いつも走るたびに横のやつのことを見ていて負けていたんですよ。でも直線なんかでタイム取ってみると負けていないんですよ。だから本番の時、横を見ないで前ばかり見て走ったら勝ちました。これが日本とアメリカの差に当てはまると思います。ペイスだろうとマッキニーだろうと、意識しないで自分のペースで射てれば勝てるんじゃないですか。
亀井: 今彼が言ったことをよく理解して付け加えるとすれば、その自信が今逆にペイスなんかが勝てない状況に追い込んでいるんですよ。彼らは本当に練習していないでしょう。でも彼らは勝てると言う自信で今までやってきた。でも今回の世界大会で負けたし、本当に練習さえやってさえいれば、あんな点数に終わらないはずですよ。
道永: 亀井さんでも、彼らが練習さえすればあんな点数じゃないと思っている。亀井さんでさえ思うんだから思ってない人はいない。それだけアメリカに対して脅威を持ってるってことです。
編集部: このアメリカに対する脅威を拭い去らなければ、アメリカには勝てないってことですね。
道永: そういうことです。
亀井: 一番手っ取り早いのは、日本人がチャンピオンになればいい。なぜなれないかってことですが、最後の一本でチャンピオンって時、アメリカ人ならスーって射って勝っちゃいますよ。自分のまわりにチャンピオンが一杯いるから変な意識もないですから。でも僕らが射つ時はものすごいプレッシャーがかかる。だからもうまぐれであろうとラッキーであろうと、相手が食中毒でひっくりかえろうと弓が折れようと、世界チャンピオンに日本人がならなければダメなんです。だけども、世界チャンピオンにはラッキーってことはないですがね。それでもひとり勝てさえすれば、後に続くと思います。そしてやっぱり僕がチャンピオンになりたいと思いますね。
編集部: 日本のアーチャーでも、世界チャンピオンになる可能性があるとは思うんですが。
亀井: だけど今は、日本の1位でも昔のように世界で5番なり6番に必ず入るという状況ではないでしょう。これじゃだめですね。日本で1位ならば世界で3位以内に入るというぐらいじゃないと。
道永: 僕がオリンピックが終わってキャンベラの世界大会に行った時、国内予選は3位でした。そして世界大会で11位。その時すごく調子は悪かったんだけど、こんな調子でも11位になれるんだって思いましたね。でも今回の結果を見たら、出場してない自分が言うのもおかしいけれど、1200点がでないとかボードに乗らないだとか、20何位だとかいうのは恥ずかしいことだと思います。ちょっとやる気があれば、世界10位くらいに入ることは簡単なことですよ。確かに身近に強い人がいないので燃えられないのかも知れないけど、僕のそばにそんなのがいたら、「何だと」って顔を真っ赤にして弓を射つでしょう。
亀井: 少なくともこれからも僕は世界を目指していると言えますし、そのためにできうる範囲で最大の努力をして行こうと思ってます。これは道永くんも同じだと信じてますが。
道永: それはそうです。僕は今このまま終わりたくないし、もう一回どこかで世界を狙うと思う。
亀井: 僕らは今世界を狙うっていいましたが、本当はいろいろなことは言わないで、勝った時は「ありがとうございます」と言って、負けた時は「実力がなかったんです」と言って終わりたいんですよ。自分にとってアーチェリーはそういうものでありたいと思いますから。
道永: 勝っても、また負けるってことですね。
亀井: だからその時、日本で一番強いやつが世界へ行けばいいってことです。
道永: またオリンピックが近づいてくれば、みんなもっと燃えるんじゃないですか。目指しがいがありますから。
編集部: 最後にまとめとして、これから自分のアーチャーとしての方向性は?
道永: 今までの僕はアーチェリーを自分の楽しみに置いてやってきました。これからは勝つために弓を射っていきたいと思いますし、それなりの練習をしていくつもりです。
亀井: ただ一生懸命に弓をやっていく、それに尽きます。
編集部: よくわかりました。今日は長時間ありがとうございました。

 
「雑誌アーチェリー 1981年7月号」
 先日、服部緑地で10数年ぶりに道永に会いました。元気で何より。息子が高校でアーチェリーをやっているとか。本人も年に数回は弓を射つとか。ぜひ彼のような素晴らしいアーチャーが、一日も早く試合場に戻ってきて欲しいものです。
 それにしても、この対談は20年前のもの。世界を目前にした、「本気」がそこにあった頃です。どんな試合でも、世界で2番は何も怖くはないのです。すでに得たタイトルです。だからこそ、どうにかして世界の頂点を目指していたのです。昔も今も・・・・

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