フィストメルゲージとヴィトンのバッグ

 矢とそれを飛ばす道具以外に、どうしても必要なモノというと実際にはそんなにありません。ドライバーや六角レンチや白のサインペンがなくても、家の中をどこかを探せば見つかるものです。ところが「フィストメルゲージ」だけは三角定規では小さいし、製図用のT定規では大きすぎるし、と困ってしまうのです。とはいえ、ストリングハイトやティラーハイトを計るのは30cmのものさしでもシャフト1本でも用は足るのですが、ノッキングポイントのためには不可欠な道具というわけです。
 しかし複雑な機能を有するとか、特別の素材であるとかではまったくなく、これほどシンプルな道具はありません。L字かT字をした板ならよいわけです。そんな道具にこそ定番商品と呼ばれる、昔ながらのモノが存在するのかもしれませんが、フィストメルゲージも然りです。
 
 その話に入る前に、あなたが街を歩いていて歩道の露店でヴィトンのバッグを売っていたとします。それを買っている人がいたとしましょう。そんな光景をあなたは見て、どう思いますか?
 バカじゃないと思うか、いろんな人がいるなぁと思うか、犯罪じゃん、と思うかはそれぞれでしょう。
 なぜこんな話を書くかというと、先日フィストメルゲージのオリジナル商品と寸分違わぬ「偽物」を発見したからです。フィストメルゲージの定番といえば、これは「Potawatomi」しかありません。アメリカ製で1960年代から変わることなく使い続けられる定番商品で、なおかつオリジナル商品です。(一番最初のモデルはインチの目盛りだけが片側に刻んでありました。) それが今回OEM商品(他社ブランド生産品)かと思うくらいのそっくりなパッチモンを見つけたのです。比べに比べて一箇所違いを発見したので、やはり偽物です。
 そこで昔のカタログを調べてみると1960年代に特許があったようですが、当然現在はオープンになっています。同様のものは作っても法的には問題にはならないでしょう。しかしそこでヴィトンのバッグなのです。仮に特許や意匠登録がなかったとしても、ここまで良識も節操もない商品をなぜ作れるのかということです。作るヤツが悪いのは決まっています。しかしある意味、もっと悪いのはそれを売るヤツ、売って儲けるヤツです。当然それは買うヤツがいての話です。
 ではお前は何を使っている?! と言われると、これもパクリモンではありますが、日本製○社の1971年製フィストメルゲージ。○社設立最初のモデルです。高校生の時にテスト(?)を頼まれ、模様を落書きしてそのまま30年以上使ってます。外観はオリジナルをパクッているのですが、当時オリジナルにはなかったミリ表示を裏面に彫り、曲がりやすい板バネを修理できるようにネジ部分を交換可能にするなどの独創性、独自性が付加されています。ただしアルマイト塗装の状態が非常に悪かったのと、バリがあったため角をすべてヤスリで削りました。日本のメーカーがアーチェリービジネスに参入しだした黎明期、日本の技術力を持ってしてもまだまだ試行錯誤でした。
 フィストメルゲージほどシンプルな道具で、定番と呼ばれるくらいに完成した商品なら、似たモノは作られます。しかしそれでも、目盛りを片側に重ねたり、ネジを変えたり、寸法が違ったりと、何らかの工夫(違い)が施されているのが普通です。特許の有無にかかわらず、みんなそれなりにアイデアやオリジナリティー、そしてプライドと自己満足を持ちながら、モノは作られるのです。最初から盗む気なら別です。
 このことはフィストメルゲージに限らず、言えることです。今回は外観も中身もそのままのパクリということですが、リムやハンドルでは、外観はそっくりでも中身は違うもの。中身を真似て外観はオリジナルを装うといった手の込んだ偽物が最近はいっぱいあるのです。しかしこうなると、本物やオリジナルを知らなければ素人には区別がつきません。ここまでくると露店でバッグを売る可愛さではなく、壷や掛け軸を売りつける悪徳商法と呼んだ方がよいのかもしれません。
 とはいえ、まったく同じなら安けりゃいい、という考えもあるでしょう。しかしなんら努力も資金も掛けずパッチモンを作り、売り、買うのは決して良いことではありません。何が悪いと言えば、だから日本のアーチェリーがこんな状態になってきたのです。実はオリジナルを多く持つアメリカも困っています。ただ日本と違うのは、彼らは自国の商品を守り、育てようという風土を持っていることです。誇りも夢も常識も、どこかの上得意様の日本よりはあるのです。
 それにしても、ひとつだけ不思議なことがあります。なぜフィストメルゲージはすべてPotawatomiと同様、そしてこのオリジナル自体「12インチ(30cm)」もの長さがあるのでしょうか。昔、1970年代前半まではダクロンストリングでした。そのため弓の基本設計自体がストリングハイトを今より高く設定していました。普通で10インチくらい。11インチ以上にすることもありました。そのため、最初はこの長さから出発したのでしょう。しかし、現在は9インチくらいが普通で、10インチを越えることはまずありません。コンパウンドの一部でそんな場面もあるようですが、稀です。ティラーハイトはもっと短くなります。にもかかわらず、長いのです。クイーバーに入れる必要性からでも、手で回しやすいからでもないはずです。どうしてなのでしょう。
 途中、Bjorn社(スェーデン製)が樹脂製のオリジナルを作ったり、ヤマハも少し短いゲージを出しました。しかしすべて駆逐され、オリジナルの形状だけが生き残っているのです。そんな凄い「オリジナル」と「定番」に、愛情と尊敬の念、敬意を払っても決してバチは当たりません。モノを買う時は値段ではなく、ブランドとマークをしっかり確認しましょう。ヴィトンの偽者を自慢するなら、仕方がありませんが。。。
 でももし、自分でフィストメルゲージを新しく作るなら、もっと短くコンパクトなオリジナル製品を作ると思います。ヴィトンを超えるフィストメルゲージです。
    注)非常に残念なことに、Potawatomiのゲージは2001年で生産を終了したようです。