「VAP」と「ACE」と「ピンポイント」

 個人的には、尖ったポイントは嫌いです。が、それはここではさて置いて。。。
 ここ数年、こんな鉛筆の先のように尖ったポイントがコンパウンドのインドア競技で多く使われているのをご存知ですか。一般に「ピンポイント」と呼ばれるポイントです。
 このポイントがなぜ使われるのかは詳しくはないのですが、最初にこれが作られた目的は、的面で矢がガシャガシャとグルーピングしても後から来た矢が先に刺さっている矢に弾かれないというものでした。継ぎ矢になれば矢はつぶれますが、後の矢は先の矢と同得点になります。ところが継ぎ矢にはならなくても、ノックを壊すくらいに同じところに刺さった場合、これまでのポイントならポイントの肩部分で矢が弾かれて異なる的中孔を作るのに対し、肩のないピンポイントでは弾かれることなくほぼ同じ孔に並んで刺さるというわけです。これ以外にも、畳の硬さやいびつさに関係なく真っ直ぐに突き刺さる貫通力や直進性とか、それによって的中時にブレないとか、見た目にカッコイイとか、理由はいくつかあるようです。
 そこで今回もまたまた突然の思いつきで、このピンポイントをアウトドアでも試してみたら、、、ということで、作ってみることにしました。
 最初はVAP用かEASTON用のどちらかにと考えていたのですが、これらのシャフトに互換性があることと、EASTONのポイントがVAPのシャフトに使えないのに対し、VAPのポイントはEASTONのシャフトに共通で使えるというアドバンテージを生かして、「PSポイント」同様に両方に使える仕様で作ることにしました。どちらもフルレングス140グレインから10グレイン刻みでブレイクオフできることや、何よりも国産で高精度であることに変わりはありません。
 これらのシャフトの内径(シャフトの穴の大きさ)については以前書きましたが、外径(シャフトの太さ)に関しては少しバラツキが出ます。というのは、ACEシャフトが樽型であることから、カットする部分で多少の外径の異なりが出ることもそうですが、もうひとつ問題があります。
 普通はまず気づかないのですが、よほどその部分に自分が当てはまると発見するようです。例えばこれはVAPの仕様表です。シャフトの内径とフルレングス(最初の長さ)はすべて同じですが、スパイン(硬さ)ごとに見ていくと、「600」の外径と1インチあたりの重さが「700」と前後して記載間違いのように見受けられます。これと同じことはEASTONのあの細かいチャート表を丁寧に見ていくと、数ヶ所で発見することができます。
 しかしこれらは間違いではありません。カーボンアローのカーボンはCFRPと呼ばれる、カーボン繊維をプラスチック樹脂で固めた素材です。それをサイズが同じで異なる硬さに作るということは、中のカーボン繊維の質を変えるか量を変えるしかありません。ほとんどの場合、繊維の量で調節します。繊維が多くなればおのずと硬くなりますが、樹脂の量は減ります。その結果軽くなります。この逆は柔らかい矢ほど繊維が少なく樹脂が多くなるので、柔らかいのに重い矢ができることになります。このバランスなり組み合わせなどによって、柔らかい方が必ず軽いとか、硬い方が必ず太いというようにいつも一律に変化するとは限りません。一部のサイズでこのような逆転現象が生まれてもおかしくはなく、サイズ(スパイン)によってシャフトの外径は微妙に変化します。ACEの場合、外径を表す仕様表はないのですが、同じことはいえます。そこでEASTONの純正ポイントも1サイズですべてのシャフトサイズをカバーしなければならないので、シャフトの外径最大値より少し大き目のポイントを作っています。これはポイントの頭(最大径部分)同様、段差ができてもシャフトを保護する意味からも有効な方法です。
 そんな理由から今回は、EASTONよりコンマゼロ数ミリ太いVAPのシャフトに合わせてポイントの寸法を決めました。その結果、ACEや柔らかいVAPのシャフトにこのポイントを使う時は、誤差程度の範囲ですがシャフトとポイントの間(繋ぎ目)に段差が生まれる場合があります(これはACEシャフトにACE純正ポイントを装着しても起こることです)が、ここはポイントの角にアールを取ることで(角を丸くすること)クリアしました。
 寸法と形状(図面)が決まれば作るのは簡単ですが、もうひとつ大事なことは素材です。最初、大口径シャフトに使われるピンポイントを見た時、先端の変形や磨耗を考えるとよほど特殊な金属を使っているのかと思いました。例えばジュラルミンのような高強度な素材(すごく高価)です。そこで調べてもらったのですが、意外にもジュラルミンでもステンレスでもなく、どちらかといえば一般的には「鉄」と呼ばれる素材でできていました。言われてみれば、使っていないポイントをよく見ると、表面に錆が浮いているものもあります。
 とはいっても、鉄でもステンレスでも混ぜ合わされている金属の割合で性質は変わってきます。ジュラルミンもアルミニューム合金の一種です。ステンレスも鉄をベースにした合金です。そこでいくつかの素材で試作品を作りテストをしたのですが、今回のポイントはアウトドアでの使用が前提になります。雨の試合の後ケースに片付けた矢を次回取り出したら錆びていたというのでは困ります。そこで鉄のメリット(価格の安さや加工のしやすさ)を理解したうえで、あえて錆びないステンレスで作ることにしました。
 ところで余談ですが、、、小学校の時か鉄は磁石にくっ付くが、ステンレスやアルミニュームは磁石にはくっ付かないと習いませんでしたか(?)。そこで、磁石をPSポイントに近づけるとくっ付かないのですが、EASTON純正のステンレス製ACE用ポイントに近づけると、くっ付くのです。実はステンレスにも合金の種類や割合によっていくつかに分類ができます。中でも素人にも簡単に分かる別け方として、磁石にくっ付く種類とくっ付かない種類に大別ができます。磁性があるか、ないかです。そして大雑把にいうと、磁性のある方がないものより値段が安く、加工がしやすいとされています。そこでこれは想像ですが、EASTONを含め海外の製品の多くは、コストと切削性(加工のしやすさ)を考えて400番台と呼ばれる、磁石にくっ付くステンレスを使っているのだと思います。
 というわけで、今回作る「PS-Pポイント(VAP・ACE用)」は従来の「PSポイント」と同じ300番台と呼ばれる磁石にくっ付かないステンレスで作りました。もちろん強度や磨耗性も配慮したうえでです。ただし、ピンポイントの形状からコンクリートの上に先端から落としたりすれば変形が考えられます。また、長期の使用ではおのずと先端が磨耗することもあります。これらは従来のポイントも同じですが、形状を踏まえ消耗品としてのポイントであることを配慮してください。
 ところで、写真の一番上がEASTON純正のポイントで、下の2つがPSポイントです。どれも先端(シャフトから出た部分)の長さは同じに作っています。使用の際に長さを気にする必要はありません。そこでシャフトの中に入る軸の長さですが、PSポイントの2種類はどちらもフルレングス(まったく折らない写真の状態)で「140グレイン」あり、10グレイン刻みで折って重量調整ができるようになっています。が、今回の「PS-Pポイント」は従来のポイントより1段長くなっています。これは間違いではなく、先端形状によって軽くなった分が約10グレインということで、その結果Pポイントは140グレインから70グレインの範囲で調整ができます。
 普通のポイントがいいか、尖っていないポイントがいいか、尖っているポイントがいいか、VAPでもACEででも使えます。一度お試しください。このあと「X10用ピンポイント」の試作に掛かっています。。。。作っているのはすべて、新潟県燕市です。日本の技術と精度と品質は、ご存知のとおりです。

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