Chapter  7  Aiming (リリース)

 サイトピンがゴールドにあるという前提に立って、矢を毎回同じ所へ運ぶための Aの条件「同じエネルギーを与える」方法はどうでしょう。これこそがここまでに述べてきた一直線に伸びた不動の押し手や真っ直ぐ張られた緩まない引き手、そして安定したアンカー等々となるのですが、これまでの「固定」を目的とした「静力学的仕事」に対し、これから話すリリースは矢に与えるエネルギーに対して唯一「動力学的仕事」でアプローチするものです。
 動力学的仕事とは、筋肉によって身体の特定部分を動かすことで、筋肉は「緊張」と「弛緩」、「収縮」と「伸展」という仕事を行います。ここで重要なことは、筋肉がそれ単独で行える仕事が「緊張による収縮」という作業に限られる点です。綱引きに例えるなら、筋肉は引くことしかできません。元の位置に戻るには自分自身が能動的に緩むのではなく、相手(の筋肉)が引っ張ってくれなければ戻れないのです。

1985年、ソウル世界選手権(50m)。

 このことをリリース時の指(フック)の動きで考えてみましょう。フルドロー時、指は指屈筋や虫様筋と呼ばれる手を閉じるための筋肉(手の内側にある筋群)の働きによってストリングを保持しています。ではリリースの時、指はこれらの筋肉が自ら伸展し手を開くのかというとそうではなく、手の外側にある総指伸筋と呼ばれる筋肉が緊張し収縮することで実行されます。この時手の内側の筋肉は同時に弛緩(力を抜くこと)することで、伸展させられるわけです。
 リリースによって矢に毎回安定的にエネルギーを与えるには、その動作がスムーズに無駄なく無理なく行われることが必要です。もう一度綱引きを想像してみてください。今度は交互に引いたり、緩めたりしている状態です。その場合、一方にいくら強い筋力があっても、相手が力を抜かなければ、スムーズに動くことはできません。また、相手が急に手を放せば、尻餅をついてしまいます。筋肉の動きもこれと同じです。このようにひとつの動作がスムーズに行われるには、単に片方の筋肉が強力に働けばよいというものではなく、相互に拮抗した筋群が協力し合いながら一方が克服的に、そして他方が譲歩的に働いてはじめて達成されます。
 といっても、すべてのアーチャーにおいては指屈筋を弛緩させ、総指伸筋を緊張させるなどということを意識的にやっていたのでは、スムーズなリリースは行えません。だからこそリリースにおいて、アーチャーの主観的事実として必要なのは「手首のリラックス」なのです。矢を支えている2点はレストとノッキングポイントですが、それは言葉を換えればグリップとフックであり、その接点に一番近い可動部位が「手首」ということになります。もしそこに不要な力(動き)が生まれれば、それは直接矢に伝わってしまいます。これまでに意識を置く場所として押し手は肩、引き手は肘、そして背中と述べてきた理由は、それらが矢に対し手首より遠くに位置するからです。いくらそれがリラックスを望むものであったとしても、意識は力を生んでしまいます。意識を手首より遠くに持っていくことは、結果的に手首のリラックスを確保することになり、矢を自然な状態に置いてやる手段にもなるからです。
 マッキニーが人間的なチャンピオンである理由のひとつに、彼が編み出したテクニック(?)があります。押し手を振り、引き手の肘が緩み、決して賛成できるとはいえないシューティングフォームで矢をゴールドに運ぶというものです。結果は別にしてそのフォームだけは一般のアーチャーにも簡単に真似できるため、多くのアーチャーがその影響(イメージ)を受けました。そしてダレルもまた、その悪影響を受けたひとりです。稀にではあっても、マッキニーのように引き手の肘を後ろに飛ばさず(フックがストリングに付いていくことはありませんが)、脇を閉め、押し手を振り、そしてフォロースルーのない(実際にはあるのですが美しくはない)シューティングを披露してくれる時があります。しかし、それでも彼らが初心者のように矢を大きく外さないのは、そこに手首のリラックスが存在するからに他なりません。リリースとは分かりやすくいうなら、1本の張られた糸が真ん中から切られることです。重要なのはその切り方ではなく、最初の糸の張り方そのものなのです。
1978年、全米選手権(30m)。決して賛成できるフォームではないが、「手首のリラックス」が確保される限り、矢は大きくゴールドを外すことはない。
矢の延長線を人差し指がなぞって耳の下へ
 ダレルは賛成できないシューティングよりも稀に、リリースの時タブを落としてしまうことがあります。これはタブの指通しのループを大きいからではありません。彼自身の無意識の中で、偶然の結果として起こっていることなのです。
1977年、全米選手権(70m)。タブを落としてしまうくらいに首に沿って行われるリリースを、ダレルであっても先天的に身につけていたのではない。
 その理由は、彼のリリースがそれほどまでに速く、引き手が首に沿って首から離れることなく行われているという事実の証明ともいえるでしょう。ダレルのリリースの通り道は、顎の下に収まったフックから、人差し指が矢の延長線をなぞって耳の下まで1本の真っ直ぐな線を首に引くものです。グリップと引き手の肘の間に真っ直ぐ張られた糸が、平面の中で真っ直ぐに解き放された結果です。しかし、この動作は今でこそダレルの中で無意識に行われていますが、それを獲得するまでには長年の「意識」と努力がありました。彼は初心者の頃、フルドローを作り出した後、目を閉じてシュートする練習を繰り返しているのです。目的は「自分の頭の中で自分のリリースを見る」ことと、リリースという動作を「意識から獲得し、無意識に変える」ためでした。
 押し手のグリップも肘も肩も、ほんの少し視線を下げれば頭を動かすことなく見ることができます。しかし、引き手は肘も手首、またリリースもアンカーリングしてからフォロースルーに至るまで見ることはできません。だからこそリリースの瞬間からフォロースルーまでの引き手の動きを、頭の中で見る(感じる)必要があるのです。それもゴールドを見詰めたまま、頭を動かすことなくです。ダレルが目を閉じてシュートする練習を繰り返したのも、その重要性と必要性を痛感していたからにほかなりません。

1977年、キャンベラ世界選手権(90m)。セットアップからフォロースルーまで、人差し指は1本の直線を描く。そしてダレルの場合、フルドローからリリースにかけて、矢の延長線を首に沿って人差し指がなぞる。(この大会、初めてマッキニーは「世界チャンピオン」となり、ダレルは4位に終わる。)

 一度ターゲットの前で目を閉じてシュートしてみてください。人差し指(あるいは中指)の通り道とスピードを、はっきり感じることができるはずです。これをダレルは1射1射確実目を開いて行っています。そしてその1射1射のリリースを頭の中で見ているのです。ところが多くのアーチャーはそれができません。理由は明白です。普段のシューティングにおいて、クリッカーの音と同時にその意識を矢と一緒にターゲットへ飛ばしてしまうからです。
 よく「リリースが取られてしまうのですが、どうしたらいいでしょう?」という質問を受けることがあります。しかし、考えてみてください。あなたが初めて矢を放した(リリース)時のことを。最初からスライディングリリースができたでしょうか。昔の事で思い出せなければ、初心者に初めてリリースをさせる時を考えてみてください。その初心者は充分に素引きをマスターし、先輩達のフォームを見てリリースがどんな動作であるかを知っているはずです。にもかかわらず、手を開くことができず、できてもほとんどがデッドリリースです。この現実は、スライディングリリースとは人間が持って生まれた能力ではないことを証明しています。もし潜在的に持ち得る能力なら、美しくはなくとも手は後ろに飛ぶはずです。
 シューティングラインをまたいでスタンスをとる時、それがストレートであれオープンであれ、いちいちつま先を結んだ線をどう向けるとか、その角度をどうするとか考えますか。あるいは矢をノッキングする時、初心者のようにハネを見て、どうつがえるか考えるでしょうか。そんなことは今さら意識しなくても、自然に同じようにできるはずです。これは「意識が無意識に変わった」最もわかり易い例でしょう。
 アーチェリーの動作はすべての部分において、最初は意識するところから始まります。しかしそれはずっと意識し続けるためのものではなく、その先にある無意識への第1ステップにほかなりません。多くのアーチャーはクリッカーを鳴らす動作とリリースは、最初から何の努力も意識もなく獲得できるものと錯覚を起こしています。しかし今、無意識に行っているそれらの動作も、最初からあったものではなく、初めはクリッカーを鳴らそうとして鳴らし、「リリースを取られないように」と意識していたはずです。それが練習を繰り返すうちに、自然に無意識にできるようになったにすぎません。
 本来、無意識で行っているはずのリリースが取られていることに気付いたなら、「リリースを取られないようにしよう」と意識すればいいだけのことです。人差し指が矢の延長線をなぞっていない時は、のどを引っかくようにリリースを心がければいいだけのことです。リリースは弾かれ(取られ)だせば限りなく弾かれます。そんな時、もし外側にではなく内側に弾かれたらどうでしょう。あごの下に収まっているフックは、内側にどんな弾かれても、そこには首があって止まってしまいます。意識として、リリースは喉を引っかくように切るのです。そうすれば手は必ず首に当たり、それに沿って毎回同じ所を通ります。
 引き手は肘で引きながら、リリースは手を首に沿わせる。これを意識して練習すれば、やがて無意識に首に沿ったリリースができるようになるはずです。リリースとは、指で矢の延長線に1本の線を引く動作なのです。
1977年、キャンベラ世界選手権(90m)。リリースはのどを引っかくように、決してあごの下に収まった手を首から離さない。
アーチェリーは緩まず大きく思い切って
 ダレルのシューティングをBasic“T”Bodyから掛け離れたもののように見せている部分のひとつに、リリースからフォロースルーにかけて、肘が落ちる(下がる)ことが挙げられます。それはウィリアムスやワードをはじめとするチャンピオンには、見られなかったことです。彼らはリリースの後、フォロースルーでも“T”の形を保っていました。
 ではなぜダレルの肘が下がってしまうかですが、もう一度スタンスの基本を思い出してみてください。腰から上を45度以上のオープンにとって、ゆっくりとシャドーシューティングをすると分かります。ダレルは意識的に肘を下げているのではなく、自然に下がってしまうのです。基本を守り極端なオープンにした時、人差し指(中指)を矢の延長線に沿わせながら肘をターゲットと逆方向に引いていくと、その肘の先端はある位置から自然に落ちざるを得ないのです。極端なオープンスタンスで“T”を保ったままで肘を下げず、緩ませず、人差し指を耳の下に持ってくることは生理学的(骨格上)に不可能なのです。
 実はこのことは、結果的にダレルのリリースを合理的なものにしました。リリースを切った時、肘が自然に落ちる(落ちざるを得ない)ことで、肘の後方(背中方向)への回転が途中から下方向に変化し、そのため身体の動きが平面内に限定されるのです。事実、ダレルの上半身は、完全に平面の中でフルドローからフォロースルーへと移行しています。
 どんなスタンスであっても、アーチャーはリリースした指先をフック位置からフォロースルーかけて、必ず身体のどこかに触れさせておく必要があります。というより、あごの下に収まった手が矢の延長線をなぞれば、首から離れることはありません。このことは極端なオープン以外のスタンスでは、特に重要なチェックポイント。ストレートスタンスで意識して、思い切りリリースを切って(肘で抜いて)みてください。それが極端であればあるほど、肘の先は後ろ(背中側)に回転し、その反動で指先は首筋から離れ、肘も手もフルドローで作り出された平面からはみ出してしまいます。さらに悪い場合は、押し手が引き手の回転に伴って内側に入り、身体の軸がブレてしまいます。このような悪いシューティングを避けるために、フォロースルーの指先は矢の延長線をなぞって「耳の下」に付けておくのです。この位置は、アンカーポイントからのリリースの距離としては十分であると同時に、矢の延長線上にある引き手の回転を、平面内に止める最後のポイントとなるべき場所なのです。

1977年、キャンベラ世界選手権(90m)。「伸びて」「大きく」「思い切って」、そして決して矢を支える2点間を縮めることなく、シュートする。


(50m)
 そしてもうひとつ、ダレルの特徴的な部分がここにあります。ダレルはリリースと同時に“T”の軸ともいうべき身体の中心線を平面内で、ターゲットとは逆方向(リリースの肘の引き方向)に倒して(傾けて)しまうのです。このことだけを見ると決して基本に忠実とはいえません。基本は身体の中心線(ここでは背骨と考えれはよいでしょう)を動かすことなく、そこから平面の中で、左右に真っ直ぐ押し開かれるべきです。
 ではダレルは中心線を後方へ倒すことで何を得ているのでしょう。これも非常に重要なことですが、彼は決してリリースの瞬間、アンカーポイントをターゲット方向へ移動させることがないのです。ヘッドアップしないといえばそれまでですが、ダレルのシューティングを正確に表現すれば彼はフルドローで確保したアンカーポイントとピボットポイントの間の距離を、平面の中で「拡げて」フォロースルーに持っていくのです。この2点間を絶対に縮めることがありません。それどころか、押し手は肩から真っ直ぐターゲットに押し込んでいます。もし初心者がダレルのように身体の軸(中心線)をこれだけ動かしてしまえば、矢を支える2点間の距離を縮めるだけでなく、平面内に身体を残すことはできないでしょう。
 アーチェリーは紛れもなくスポーツです。「緩んで射つより伸びて射つ」「小さく射つより大きく射つ」そして「微々って射つより思い切って射つ」これがアーチェリーの大原則です。ダレルのシューティングを迫力あるものとしているひとつにチェックポイント以外の空間においてこれらの原則を忠実に守っていることが挙げられます。そしてこのことはオリンピックや世界選手権といった特別な状況下で勝利するには不可欠の要素です。
空間を埋めるには必ず音が必要
 これまで話してきたことは、すべてビジュアルな目で見える現象です。「この積み木はこの場所に、このように置いて」、といったチェックポイントの確認です。しかし、実際のシューティングでは、ドローイングでも述べたように、これらのチェックポイントとチェックポイントの間には空間が存在しています。ここに重要な要素が隠されています。
 例えば自分のリリースのスピードを速く、鋭くしたいと思った時どうすればいいでしょう。当然、肘を後ろに抜くスピードを意識的に速く、力強いものとするでしょうし、その努力は必要です。このような意識がひいては無意識を生み出すわけですから、怠るわけにはいきません。ただし注意しなければならないのは、多くのアーチャーが自分の努力の結果を目先の点数で判断してしまうことです。今リリースを直すことが将来的に好結果をもたらすとは分かっていながらも、現時点で矢がゴールドを外すことを嫌がるのです。
 しかし意識的にフォームを変えたなら、矢が飛んでいく場所が変わるのは当たり前の結果です。たとえそれがゴールド以外であっても、まずその場所に矢を集めて、次にサイトを動かせば矢はそれまでより小さいグルーピングでゴールドに集まります。「何か」をする時、それまでと感覚やサイト位置が異なるのは当然であり、決して目先の結果だけで判断するべきではありません。
 ではフォームを改善する時、具体的にどのようにして自分自身の身体を動かしてやればいいのでしょう。まずしなければならないのは、ビジュアルの部分からです。必ず自分のやりたいこと(目指すシューティングフォーム)を頭の中に描きます。自分を写したビデオを見るように自分自身に目指す動作をさせるのです。最初からそれが難しければまず目指す、あるいは理想とする人のフォームを思い出すのです。ダレルのように射ちたければ、頭の中で何度も何度もダレルにシュートさせるのです。自分の身体を動かすのは「イメージ」です。しっかりしたイメージがあれば、理想のフォームを身に付けるのは、そう難しいことではありません。メンタルプラクティスやイメージトレーニングのの重要性はここにあるのです。
1977年、キャンベラ世界選手権(50m)。セットアップから始まる流れやコンセントレーションをターゲット上に止めてしまうのでなく、「意識の中のターゲット」はいつも現実のターゲットより遠くに置き、それを狙い「射ち切る」イメージが必要。
 現在では長すぎるエイミング(あるいはフルドロー)が好結果を導き出さないことは、誰もが知り、経験していることです。それは筋肉疲労といった身体的マイナス面だけでなく、精神的マイナス面が大きく作用します。簡単な例では、エイミング中に「外れるんじゃないか?!」といった疑問や不安が一瞬でも頭を過れば、それだけでミスを犯してしまいます。不思議なことにもっと具体的に「リリースが引っ掛かる」とか「左下の青に飛ぶ」と思えば、不思議にそれが現実になってしまいます。だからこそ、このようなマイナス要因は絶対考えるべきではなく、考える余地を与えないためにインターバルをも含めて速くシュート(エイミングを短く)することが主流となったのです。
 ただし、速く射つだけでは不十分です。外れると思って外れたのなら、その裏返しとして一生懸命「当たること」を頭と心の中で考える必要があります。リリースが矢の延長線をなぞって真っ直ぐ耳の下までくる。そして、矢は真っ直ぐに10点に吸い込まれていく、その画面を頭の中で繰り返し繰り返し見るのです。
 次にしなければならないのが、「音」のイメージです。あなたはシュートする時、自分のリリースにどんな音を感じていますか。「シュッ!」ですか「パッ!」ですか、それとも「ビュン!」ですか。僕自身、自分のリリースに感じ、理想とする音は「ズンッ!」です。そして僕がダレルのリリースにイメージする音は、「ガシン!」です。ではそれがどんな音であっても、今度はあなたがリリースをするたびに頭の中で「ボワ〜ン」「ボワ〜ン」と呟いてみるとどうでしょう。するとどうなるかは、実際にレンジに行かなくても想像がつくはずです。リリースは徐々にそのスピードを遅くしていき、最後にはクリッカーと同時に指先を弾いてしまうようになるはずです。
 では、その遅くなったリリースを再び、速く鋭いリリースに戻すにはどうすればいいのか。それにも「音」を使います。今度は「シュン」「シュン」と思ってリリースを切れば、徐々にリリースは速くなっていくはずです。
 分かりますか、イメージこそが、リラックスを損なわず身体を動かす手段であるということが。そしてイメージは単にビジュアルだけでなく、そこに音が重なってより効果的に働くということです。では、なぜ理想は「ズンッ!」や「ガシン!」なのか。それらの音には、「速さ」と「鋭さ」に加えてリリースをより安定したものにしてくれる、「重さ」があるからです。
マッキニーの賛成出来ないフォームの原因
 マッキニーやダレルが決して賛成出来ないフォームでシュートしても、そこには手首のリラックスがあるため矢が大きく外れることはありません。このことはすでに述べました。それではなぜ、彼らにこのようなシューティングが生まれるのでしょう。その答えとして彼らは、「ターゲットフェイス(的面)上でコンセントレーションが止まってしまうから」と話します。これを裏返せは彼らのコンセントレーションは常々ターゲットフェイスの上には存在していないことになります。たとえコンセントレーションをエイミングという作業の中で語ったとしても、実際の意識はサイトピンが置かれているゴールド(的面)にはないのです。
 彼らのイメージの中では、コンセントレーションはゴールドを突き抜けてもっと先の空間に存在しています。例えばインドア競技や30mといった近距離では、アーチャーは当てなければならない、外してはいけないといった意識が強すぎて、エイミング自体に神経質になります。その結果、コンセントレーションをサイトピンの置かれている位置に固定してしまいます。流れが止まりクリッカーが鳴らなくなり、リリースが取られうまく射てなくなる原因は、実はサイトピンに対する強すぎるコンセントレーションにある場合が多いのです。そんな時、意識の中でターゲットをあと5m遠くに離してやるとどうでしょう。これは30mを90mのような気持ちでシュートするのと同じで、アーチャーは矢を遠くへ飛ばそうと、流れを止めず大きく思い切ってリリースすることができます。 
 リリースは、ドローイングから引き出した、1本の線(流れ)の途中の動きにしかすぎません。この後には、フォロースルーも残っています。美しいリリースという「動き」は、スタンスから始まるすべての行為の結果なのです。フックの条件、ドローイングの流れ、フルドローの意識、ロープの張り、イメージ・・・そういったものすべての積み重ねによって、完璧なリリースは作られていくのです。だから、「リリース」を他の部分と切り離して、単独の動作と考えるべきではありません。
1977年、キャンベラ世界選手権(50m)。フルドローの時、すでにリリースは真っ直ぐうしろに解き放され、押し手はゴールドに伸び、「イメージの矢」は10点の中心に向かって吸い込まれていく。

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