矢飛びと的中

 アーチェリー競技の場合、「射形点」はありません。どんなフォーム、射ち方であっても当たれば勝ちの世界です。
 逆に言えばどんなに完璧な美しい射ち方をしても、道具が悪ければ決して良い当たり(的中)は得られません。しかし、悪い道具とは安い道具のことではなく、そのアーチャーに合っているかどうかなのです。高価な弓具だから当たるのではありません。
 そこでアーチャーは道具においても試行錯誤を繰り返すわけですが、そんな「チューニング」の中でももっとも多くのアーチャーに支持され試みられるのが、「矢飛び」と「的中(グルーピング)」による評価(判断)です。なぜこれらの方法が初心者からトップアーチャーにまで受け入れられるのかは、多分それがすべてアーチャー自身の眼で見て確認できるからでしょう。
 しかしそんな現実ではあっても、注意しなければならないことがあります。

 「矢飛び」と言う時、アーチャーによってその意図するところが異なる場合があります。あるアーチャーは矢の「飛び方」(飛翔)を指し、あるアーチャーは矢の「速さ」(スピード)を言います。
 しかしより良い的中を求める時に、重要なのは「飛び方」です。「速さ」は軽い矢や強い弓を使えば得られますが、その場合でもいかに「美しく」「きれい」に飛ぶかが大切な点です。ところが近年、より注意を要するようになったことは、カーボンアローでは矢速が速すぎて「飛び方」がアーチャーには見え難くなってしまったことです。そのスピードに幻惑されて「飛び方」を軽視する傾向にあるのです。それだけではありません。本当はきれいに飛ぶ矢ほどゆっくりと飛んでいるように見えるにもかかわらず、あまり経験のないアーチャーは矢飛びの悪い矢にスピードを感じてしまうのです。
 では、美しい飛びを得るためにはどうすれば良いのでしょう。当然もっとも重要なのは、適切なスパインの選定です。アーチャーの技術と使用する弓に適した矢のサイズの選択が大前提となります。しかし、ここではそれとアーチャーの技術は無視して、矢飛びに影響を及ぼす原因(チューニングの要素)を考えてみます。
1)弓が矢に与えるエネルギー
 弓と技術が同じであるなら、もっとも矢飛びに影響を与える道具となるのは「ストリング」です。「ストリングハイト」「太さ(ストランド数)」「材質」等、方法はいくつかありますが、これらは他のどのやり方よりも圧倒的に大きなエネルギーの変化をもたらします。ちなみに他の方法には「タブの素材」や「プランジャーチップの素材」等の摩擦によるものや、弓の重さや形状(スタビライザーを含む)による弓の安定度があります。
2)弓と矢の接触時間
 弓と矢が接触している部分は「ノッキングポイント」と「レスト」(プランジャーを含む)ですが、矢がストリングに触れている時間は、矢がレストに触っている時間に比べれば比較にならないくらいに長いものです。矢はリリースからストリングハイトより数インチ先までストリングに触っていますが、レストは発射の瞬間の2インチ程度しか触れていません。「ストリングハイト」の変更はエネルギー量も含め、もっとも矢に大きな影響を及ぼす手段なのです。
3)矢に与える方向性
 クッションプランジャーの出し入れ(左右位置)や硬さ、あるいはノッキングポイントの高さに代表されるものですが、実は多くのアーチャーが見落としがちなのが「スタビライザー」です。スタビライザーは安定装置として弓を固定するため、その効果が大きければ大きいほど矢をきれいに飛ばすのは難しくなります。逆にダンパーを使ったり、短く軽くすることで(弓が自由な状態に置かれる結果として)矢飛びが良くなることがあります。
4)外部からの影響
 風や雨は考えないとして、致命的なトラブルとして起こる場合があります。もっとも多い例としては「レスト付近」でのトラブル(発射された矢が不必要にレストのツメやプランジャーチップ、あるいはハンドルのレスト下部に当たってしまう)ですが、まれにエクステンションに取り付けられたサイトバーに矢が当たってしまうような場合もあります。
 
 「的中」(グルーピング)とは弓や矢が本来持っている性能(例えばシューティングマシンで発射した時に得られる結果)と、そこにアーチャーの技術が加味された場合では明確に分けて考えなければなりません。そして競技ではアーチャーが射つ以上、アーチャーの能力は無視できないものです。
 となれば、誰もが10点を望んでもアーチャー個々によって得られる的中は技術力の前では千差万別だということです。あるアーチャーにとっては赤以内が妥当な的中であっても、初心者のアーチャーにとっては的の中に当たることが求めうる最高の的中であることもあるのです。
 そこでアーチャーは、まず自分の的中の大きさを知る必要があります。それには数本の矢を射って分るものではありません。より多くの矢の的中を見てはじめて分るものです。そのためアーチャーは3本や6本の矢ではなく、クイ―バーにあるすべての矢を射ちます。そしてできることなら新品の的紙を自分だけで射ちます。そうすることでアーチャーは矢取りのたびに自分のグルーピングを的中孔から知ることができます。
 そんな繰り返しの中で、的中(矢の集まり)に「法則」があることが気付きます。どんな的中であっても、そこには必ず「中心的中点」があるのです。すべての矢をゴールドに入れられるトップアーチャーも、青の中にバラバラではあってもすべての矢を収められる初心者であっても、どちらも中心的中点は10点の中心にある[ + ]印なのです。では、この中心的中点とはどんな位置でしょうか。
1)多数の矢はグルーピングの中に均等に分布せず、中心的中点に近いほど濃密になる。
2)そのように分布した無数の矢は、上下左右すべての方向に中心的中点を中心に対称となる。
 この意味が分れば10点が良く8点が悪いのではなく、的中の中心とその大きさが見えてくるはずです。そしてそこからアーチャーの技術を除けば、道具の能力なりチューニングの状況が分るのです。(余談ですが、的中とはこの法則に沿って作り出されるため、サイトの変更はこの中心的中点を基準に行わなければなりません。たった1本のミスや的中の外側を基準にサイトを動かしてしまうと、すべてが見えなくなってしまいます。)

 アーチャーは自分の理想とする的中と現実の的中の差を埋めるべく、矢飛びを手掛かりに種々の方法を駆使してより良い状態を求めます。しかし、実際のチューニングでは射ち方が悪くても10点に当たったら勝ちのように、矢飛びが悪いのにその方が当たる・・・という現実も稀ではあっても起こる事があります。
 しかしそんな現実を知ることができるのも、すべては意識と努力と経験、試行錯誤の賜物なのです。
 まずは「矢飛び」と「的中」を冷静に意識して、練習場のシューティングラインをまたぎましょう。

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