樽型とセンターマーク

 今では「 Beman 」の矢はEASTON社に買収されその傘下に入ってしまいましたが、フランスのBeman社がその独自のオールカーボンシャフトでEASTONの独断場であったターゲットアーチェリーの世界で、巨人を倒し世界を制したのは1989年ローザンヌ世界選手権でした。それ以前にEASTONは1984年ロサンゼルスオリンピックから「AC(Aluminum/Carbon)」と呼ばれる現在の「ACE」の原型となるアルミ素材にカーボン繊維を巻付けた新しいシャフトのプロトタイプでテストは続けていました。しかし、後にその失敗を認めて撤退を余儀なくされたように、アルミアローでは独占状態のEASTONであっても、カーボンシャフトでは後発メーカーの屈辱に甘んじるしかない時代があったのです。
 その状況は1990年代中頃まで続きます。1994年Han Seung-Hun(韓国)の30m360点のパーフェクトもBemanオールカーボンアローによって樹立されています。EASTON社は元来アルミメーカーではあっても、カーボンのメーカーではないのです。

 後発メーカーの常として、追いかける身としては価格だけではなく付加価値としていろいろなセールストークが不可欠となります。ましてや価格で太刀打ちできない(ACEが高価という意味です)となれば、いろいろな特徴を付与せざるを得ません。先端部分(ポイント側のタタミに刺さる位置)にカーボンクロスを余分に巻付けて強度をアピールしたり(これも現在ではやめてしまいました)、「樽型」と呼ばれるシャフトの中央付近を太くした均一なチューブ状ではない形状にしたりなどもそのひとつです。
 ではこんなマークの入った「ACE」シャフトを覚えていますか?
 1990年代に入りEASTONが「ACE」で世界戦略を開始した当初、「樽型」のメリットをアピールするひとつの材料としてこの「センターマーク」がシャフトに印刷されていました。これは単にシャフトのもっとも太い位置を表すだけではなく、シャフトの後方(ノック側)を切り落としてこのマーク位置を動かすことでスパイン(矢の硬さ)を変更するだけではなく、アーチャーズパラドックス自体をコントロールできることを最大のセールストークとしたのです。
 たしかにそれは効果を持っていました。ノック側を最初に2インチ程度カットして矢を作れば1サイズ以上硬いシャフトを使うのと同じくらいのスパインを得ることができました。(今のセンターマークのないシャフトでも、樽型であれば同じことができるはずです。)
 では、なぜそれほどの効果とインパクトがある「センターマーク」が消えてしまったのでしょうか? そして、このことを誰も語らなくなってしまったのでしょうか?
 EASTONは世界で100%近いシェアと実績を持っています。しかしハンティングやコンパウンドを除き、ACE と X-10 に限って言えば日本が最大のお客様であり、その消費のほとんどは日本で販売されているといっても過言ではないのです。そんな日本で販売のために、シャフトの後方をカットしていちいちチューニングしていたのであれば商売になりません。それに、日本のショップで実射のできるレンジを備えているところがいくつありますか。

 実は「樽型」は新しい発想ではなく、アメリカでは昔から実践されていました。ハンティングやコンパウンドの高ポンドの弓で、それも短いシャフトを使おうとすれば木製矢の時代から矢を樽型に削って作ることは誰もが考え付くことでした。また日本においても和弓では「麦粒」や「竹林篦」と呼ばれる前後が細く中央部が太い矢があります。これらも矢の重心を中央に置き、強い弓に適するとされています。
 問題は6本や1ダースといった複数の矢を同じようにつくることは、現在でも至難の技です。ハンティングやフライト競技に使うなら一本の矢があれば十分です。しかしターゲット競技となるとそうもいきません。
 そのため、これらのシャフトに「C5」などというアルファベットと数字を合わせた記号が書かれています。これは同じサイズのシャフトであっても、出来あがったものの重さやスパインを測定しなおして、同じ許容範囲にあるものを集めて分類した結果なのです。これこそEASTON社独自の公表されることのない表記規準なのです。だからこそアーチャーは、決して同じサイズであってもこの記号の異なるものを混ぜて使うべきではありません。そしてこの分類は、机上の測定結果によるものであることも忘れてはなりません。

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