「貫通矢」と「跳ね返り矢」の名誉のために

 40年近くアーチェリーをやっていると、もう何100試合も出場しています。となれば、当然自分でも貫通矢や跳ね返り矢は経験しているのですが、それ以上に多くのそんな場面を見てきました。そして最近、「PSポイント」(先端が尖っていない矢)のお陰で、再び「跳ね返り矢」が注目を集めているようです。
 しかし実は、昔アルミアローの時代には跳ね返り矢は普通に存在しました。1試合に1本や2本あっても普通でした。まずこのことは理解しておいてください。そのうえで、近年カーボンアローの時代になってからは、跳ね返り矢こそなくなった(正確には少なくなった)ものの、逆に貫通矢が普通の存在となってしまいました。試合で畳を2枚3枚と重ねたり、国体などでは最初から畳の後ろにネットが垂らしてあるのが普通です。それくらいに貫通矢は現在においては多いのです。そんな時代だから、アーチャーは久しぶりに見る跳ね返り矢に性能以上の注目を注いでくれるのでしょうが、そんな跳ね返り矢が貫通矢に比べ、ダメモノ扱いされているように感じるのは私だけでしょうか。。。。ところで「PSポイント」は跳ね返り矢は発生することもありますが、併せて確実に貫通矢を防いでいるのも事実です。
 
 そこで、「跳ね返り矢」と「貫通矢」の名誉のためにひとこと言わせてください。
 跳ね返り矢は70mを飛ぶ元気もない、的まで届かない矢とは違います! これは非常に大事なことです。「跳ね返り矢」も「貫通矢」も的面に「的中孔」を残したということと、それでいて的面に矢が残っていないという事実において、まったく異なるものではないのです。的の後ろに転がっていようが、前に落ちていようがどちらもルールに則って、的中孔から「得点」になり得る、「普通に刺さった矢」となんら変わるものではないのです。矢がどこにあっても、差別されるいわれはありません。それに的中孔チェックがなされている的面において、的中孔から判定を得る場合、跳ね返り矢と貫通矢においての差もありません。
 しかしそれでも跳ね返り矢や貫通矢を=「M」と考え、10点か0点かの究極の選択で差別する人がいます。そのひとつの原因に、(試合に出たこともない。弓を射たない。ルールを知らない。偉そうにしている。)ごめんなさい、適当な言葉が見つかりませんが、「ジャッジ」(審判員)にも責任があります。
 例えば、的の後ろに突き出た矢を押し返す行為は、すべての責務と努力を行った後にジャッジに与えられた最後の確認行動です。そこに至るまでにしなければならないことがいくつもあります。まずはチェックが付いていない的中孔を探すことです。では、この時チェックが付いていない的中孔が「2個」見つかったとします。仮にそれが究極の「10点」と的紙の上ではあっても、1点の外の「0点」に発見されたとしましょう。しかし余談ですが、多くのアーチャーは的面の得点圏外(1点の外の四角い紙の端までのスペース)においても的中孔チェックを付けます。悪くはありませんが、FITAのルールブックにある「標的面」とは、得点帯の内側を指し外側は紙の上も畳の上も同じなのです。そのため実際このスペースにチェックをするは必要なく、逆に仮にここにチェックがない的中孔が1個発見されたからといって、選手への不利な判断に利用されるべきものではありません。ということで分かり易くするために、ここではチェックがされていない孔が「10点」と「1点」で発見されたとしましょう。
 あなたがジャッジなら、この場合どう対処しますか? ジャッジと呼ぶに値するジャッジであるなら、まずこのチェックがなされていない2個の孔の状態をよく観察するはずです。
 なぜなら確かに今のルール(2007年時点)では、「標的面に2個以上の印のない的中孔がある場合は、最低得点帯にある的中孔をその競技者の得点とする。」となっています。しかしこれはジャッジが矢を押し戻して判断するのと同じように、杓子定規に運用されるルールではありません。押し返された矢がゴールドから出てきたのに、得点を1点と判定するのはあまりにも不自然だからです。(ここから先はルールブックではなく、ジャッジマニュアルの範疇です。)
 
 では例えば、ジャッジを呼んだ時に同的の選手が「ゴールドで跳ね返った」と言ったとしましょう。もしそうなら、ジャッジは貫通矢なら、畳が貫通する状態にあるかどうかを確認したうえで、的中孔をもう一度観察するでしょう。使っているハネによって孔の形や孔の周りに痕跡が残ります。跳ね返り矢なら、孔の縁の的紙の状態で今できたものか以前のものかの判断ができます。それでも2個の孔が同じであったらどうでしょう。その場合でも、同的の選手の意見によく耳を傾けるべきです。不自然さを残し、選手に不利益を与えるべきではありません。
 もしこのチェックのない孔が「10点」と「9点」にあったのであれば、ルールどおりに「9点」と判定されるでしょう。もしその「9点」の孔が10点との境で、容易に9点と判断できない不確実な位置であれば、「10点」が与えられる可能性が大きいはずです。「得点が確かでない場合は、選手に有利なように高いほうの得点とする。」と、FITAのマニュアルに明記されています。
 それでは、もうひとつの場面を考えてみましょう。的面ではなく、シューティングライン上での話です。仮に貫通矢や跳ね返り矢が発生した場合、アーチャーであるあなたはどうしますか? 多分その時点でジャッジを呼び、結果的にはあなたは衆人環視の下、過度のプレッシャーを背負って射つことになります。いくら時間をもらったとしても、通常のシューティング同様の得点を得ることは難しいかもしれません。(緊張や目立つことが好きで、高得点を上げられるアーチャーは別です。) だからこそ、貫通矢や跳ね返り矢は不利だという考えもあります。
 そこでこれは「確信犯」も含めての話ですが、貫通矢や跳ね返り矢はその場でアピールしなければならないことなのでしょうか? 「垂れ下がり矢」は違います。明らかに垂れ下がって、次の矢の標的となるような場合は別です。しかし、明らかな貫通矢、明らかな跳ね返り矢であっても、気付かないことはよくあります。矢取りに行って初めて気づく貫通矢や跳ね返り矢は普通にあります。確かに跳ね返り矢は射った時点で気付き易いということはあるでしょうが、逆に言えば貫通矢は終わってみなければ分からないということでもあります。
 1980年頃のルールでは、仮に2人のアーチャーが同時に同じ的を射っている場合、片方のアーチャーの矢が貫通したり跳ね返ったのが分かった時、そのアーチャーはジャッジにコールしますが、シューティングを中断されるのは、もう1人の相手の選手でした。貫通や跳ね返った選手は、そのまま残り矢全部を時間内に普通に射てばよかったのです。なにもしていない相手が、その後時間外処理で1人プレッシャーの中で残り矢を射たされました。
 おかしいと思われるでしょうが、これがすごく理に適っているのです。もし相手が射って貫通矢や跳ね返り矢が出た場合、2個の的中孔のどちらがどの選手か判断できなくなるからです。しかし同じ選手が何本貫通して跳ね返っても、それらはすべて1人の選手の的中孔ということになります。一見意外であっても、非常に的を射たルールです。
 現在のルールでは、1人1的の場合は最後までシューティングを行うことになっています。全部の矢が貫通しようが跳ね返ろうが、ともかくは全部射てばいいのです。問題は1的に2人以上が同時に射っている時です。この場合、「気付けば」コールすることになっています。コールがあれば、その的の全員のシューティングは中断させられ、時間外処理を命じられます。ただしコールもしていないのに、ジャッジから中断を言われることはありません。この時、仮に「気付かなかった」なら、コールすることもなく全員が普通にすべての矢を射ち終えられます。少なくとも相手の選手にプレッシャーが及ぶことはありません。ただし、非常に小さな確率ではあるのですが、もしも相手もその回で貫通矢か跳ね返り矢を出してしまったらです。これは本当にごめんなさいなのですが、2人がそれぞれ1本の矢を的面に残せなかったとしても、その時は的前でジャッジを呼んで、跳ね返り矢か貫通矢が発生したことと、その位置を告げればいいのです。チェックのない的中孔が複数残されていたなら、決して「M」(0点)の判定はありません。それぞれの得点は、それぞれが射った的中孔から判断されるべきです。
 このことは80年代のルールが変わり、数年続いて数年前になくなった「セカンドコール」「サードコール」のルールとも関連していると思います。それを表しているのが、このような場合の対応を記した現在の「フィールドラウンド」ルールです。
 
第411条(得点記録)
9 矢を得点記録し、標的から抜き取るときには、すべての的中孔に適切な印が付けられていないときは、バットレスから跳ね返り、または完全に貫通した矢は得点とはならない。ただし、以下の場合は除く。
(1)もし、そのグループ全員の競技者が、バットレスから跳ね返り、または完全に貫通した矢の得点について同意した場合は、その矢は同意された得点とする。
(2)もし、そのグループ全員の競技者が、バットレスから跳ね返り、または完全に貫通したことに同意したが、その得点について同意できなかった場合は、標的面上の印のない的中孔の最も低い得点をその矢の得点とする。
(3)もし、そのグループ全員の競技者が、バットレスから跳ね返り、または完全に貫通したことに同意しなかった場合は、その矢は得点とならない。
 この記述は「ターゲットラウンド」にはありません。しかしジャッジマニュアルの精神同様に、素晴らしいルールです。アーチェリー本来のスポーツマン精神に立ち返った結果だと思います。ある意味同的の選手同士で決着(判断)が付くのであればジャッジが介入する必要はないということです。それは採点の時、コールしないのにジャッジが介入してはいけないのと同じことです。(それにしても最近、得点の判断がつかない矢がある時、同的の選手に聞くこともせず一方的にジャッジを呼ぶ選手がいかに多いことでしょうか。) 的に残っていない矢を勝手に選手同士が採点することは許されません。しかしすべての選手が理解し納得する場面において、ジャッジはルールに則ってその精神を貫くべきです。的中矢には、貫通、跳ね返りの区別なく点数が与えられなければなりません。「疑わしい場合は、選手の有利な方に判定する」、それがFITAのジャッジマニュアルにも書かれている、採点におけるジャッジの基本であり大原則です。
 
 ちなみに、この文章は「貫通矢」と「跳ね返り矢」の名誉のために2級審判も1級審判も取る気はない、それでいて選手として3級審判だけは持っておこうと、30数年間3級審判員の資格だけは持っているarcherの独り言です。ご了承ください。

copyright (c) 2008 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery