ノックのカタチの話(前編)

 矢をストリングにつがえる部分が「ノック」です。この小さなパーツにはたくさんの種類があるのですが、今回はこの取り付け方の変遷から見えてくるノックとシャフトの大事な話です。以前、少し書いたのですが、もう少し書いてみます。
 近年、ノックのサイズもそうですが、シャフトへの取り付け方も数種類あります。ところが昔、アルミシャフトの頃は一通りしかありませんでした。その理由はアルミシャフトではEASTON社がほぼ100%市場を独占していたことを背景に、今でこそアルミシャフトもカーボンシャフトに習ってシャフトの両端が切り落とされたチューブ(パイプ)状になっていますが、昔は違っていたからです。
 昔、アルミシャフトのノック側の端は溶けたアルミを引き抜いてチューブ(パイプ)を作る時に、片側の端を絞って「テーパー状」にしていたのです。パイプの片側が尖った状態で閉じられていました。その理由は今も同じで、的面の矢に後から来た矢が当たった時、シャフトの中に入ってシャフトを壊すことのないようにとの理由からです。テーパーならポイントはノックを壊しても、シャフトの外側にすべりシャフトは壊さない(ど真ん中に当たれば「継ぎ矢」になって記念品にはなっても使い物にはなりませんが)ということです。
 そのためこの時代の取り付け方は、接着剤を付けてノックを右回転にテーパーに押し当て固定するものでした。テーパーの最終加工でサンダー(研磨)を掛けているのですが、それが右ネジと同じ向きに掛けられているため表面の溝(傷)が右回転で入っていたからです。とはいっても、ネジ切りのように正確ではないため、固定にはアーチャーの神経質な性格が必要でした。単純にねじ込んだのではノックが真っ直ぐに付かないことが多かったのです。
 そんな時代、ノックのサイズは今と同じでストリングの太さに合わせて「溝」(つがえる部分)の大きさは「S」と「L」の2種類でした。ところが今と違ったのは、アルミシャフトではテーパーの切り方やシャフトの外径がスパインによって大きく異なるため、ノックの溝部分だけでなく外観の大きさも違っていました。高ポンド(選手)の矢は太くなるため、おのずと大きいノックが標準とされていました。それもシャフト自体が太いので今のノックの倍くらいの大きい大きさになりました。そうなると実際の試合では、先の矢に当たって外れる矢(確率)が今とは比べ物にならないほど大きなものでした。そのためトップ選手はあえて小さいノックを付けたり、素材の柔らかいノックを選んだりしていたのです。
 前置きが長くなりましたが、そんなEASTONのアルミシャフト100%の時代に突然、世界記録でEASTONを駆逐しプライドを踏みにじったのがこれです。世界初のカーボンシャフト(アロー)の「BEMAN」です。このフランスの小さなメーカーが起こした革命は、近代アーチェリーにおいて他のどんなカーボン素材の道具やルール変更をもしのぐものです。1989年、これは1969年と併せてアーチャーの記憶に留めなければならない重要な年です。
 この後EASTONはこのトラウマから立ち直るべく幾多の努力するのですが、結局はいつものように最後は金の力で1995年にBEMANを買収し貶め、今では二流ブランドとして名前だけを利用しています。
 このBEMAN、商品名「DIVA+」に最初付けられたオリジナルのノックを覚えていますか。このあとBeiter社のノックも付けられるようになりましたが、これも世界初ともいえるオーバータイプの今で言う「アウトノック」です。この時初めてシャフトにかぶせる形式のノックが登場したのです。
 その理由こそがカーボンアローの製法から来るものです。詳しくは別のところで話しますが、簡単に言えばオールカーボンシャフトの場合テーパーを作ることはできず、両端は切り落とされ、その切り口は割れやすいということです。そのために刺し込みタイプの「インノック」の発想もあったのでしょうが、割れ(クラック)を避けるために最初に作られたのが「アウトノック」だったのです。
 そこで少し話を戻しますが、EASTONの矢を使うアーチャーはご存知のように、EASTONのメインは「A/C」と呼ぶアルミコアシャフトです。これはアルミのチューブにカーボンを巻き付けたものです。このことも他のページで何度か書いていますが、「アルミコアシャフト」が「オールカーボンシャフト」に勝るということでは決してありません。単にEASTONがアルミのメーカーであり、それにこだわっているから以外の理由はありません。
 それが証拠に、1989年の大革命以前に1982年ロサンゼルスオリンピックでEASTONはプロトタイプのアルミコア/カーボンアローをデビューさせています。しかし商品化できませんでした。再度アルミへの回帰をもくろんでいた矢先の「BEMAN」登場だったのです。
 これが最初のEASTON「A/C」アローです。ノック側のアルミコアには一体でテーパーが切られています。アルミ矢と同じノックを使い、それでいてカーボンアローです。実はこの後に登場する「インノック」の背景はこのアルミコアがあったのです。アルミシャフトだから刺し込み式ノックが使えたのです。とはいっても、アルミコアはシャフトにクラックが入らないことはありません。インでもアウトでもオールカーボン同様に簡単に切れ端は割れます。
 アルミなら丈夫で長持ちというものではありません。ダメージはアルミもカーボンも、そしてアルミコアでも受けるのです。
 しかしともかくは、カーボンアローの登場によって、切り落とされたシャフトに取り付けるノックとして「アウトノック」と「インノック」が生まれました。その後、「ピンノック」や「ピンアウトノック」「インアウトノック」なども生まれるのですが、この背景として「Beiter」社の存在を忘れてはなりません。
  (続く)

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