セットアップポジションとシューティングマシン

 ちょっと古い写真ですが、これはヤマハのシューティングマシンです。F-X 曲線の測定から弓に歪ゲージを取り付けてのデータ収集を始めとして、実射による矢の初速やグルーピングの測定も行います。(耐久テストなどには別のマシンが用意されています。) 多分同じような機械で海外のメーカーも、実験や測定を行っているはずです。
 そしてこのような機械によって新しい弓が生み出されます。

 ではどんなテストを行うかというと、この図は現在のヤマハの弓にも採用されている弓のセンター位置(長さ方向に対する)とグリップのピボットポイント、そしてプランジャーの付くプレッシャーポイントの基本の位置関係です。(セットアップポジション)
 なぜこの位置が採用されているかというと種々のテストの結果ではあるのですが、室内30mにおいて上記のシューティングマシンによる実射テストから得られたデータを元に決められたものです。ヤマハの弓をセットして「同じ矢」(これがある意味で重要なのです。同じサイズでも矢が異なると的中精度が異なります。これは弓ではなく矢自体が持つ誤差のためです。)を繰り返し射ったところ、最大誤差10ミリという円の中に的中するからです。

 実際にこの位置関係をいろいろと変化させて同様の実験を行うと、そのグルーピングの大きさも変化します。一番右の例は矢を極力ピボットポイントに近づけることで誤差を少なくし、矢速のアップも図ろうとしたものです。しかしこの場合でも、ハネがレスト部分をヒットしないぎりぎりの15ミリを確保しても現実にはグルーピングの大きさが直径20ミリと倍に広がり、矢速のアップはたった0.2%にとどまります。

 このようにハンドルに限らず、リムやその他の付属品においてもシューティングマシンによってテストが行われ、新製品の開発や改良が行われます。

 しかし気が付いたでしょうか? シューティングマシンだけでは理想の弓はできあがりません。なぜなら、どんな優れたマシンであってもその発射装置(リリースを受け持つ部分)がアーチャーの手の動きを再現することはないからです。どんなシューティングマシンでも発射装置はコンパウンドボウで使われるような「リリーサー」です。この写真であれば、分かり易く言えば「洗濯バサミ」のようなステンレスでできた指が両側からストリングを挟みます。そしてボタンを押せば電気的にそのハサミは解除されます。

 ではなぜリリーサーでは完璧ではないのか? それはマシンのリリーサーは完璧すぎるリリースしかすることができないからです。その結果、矢にはパラドックスが発生しないのです。
 例えば、西洋のアーチェリーでは矢を弓の左側につがえます(右射ちの場合)。ところが、日本や韓国の伝統的な弓は矢を右側につがえます。この違いの理由はアーチェリーが弦を右側からつかむのに対し、和弓は親指を使って左側から弦を引っ掛け引いてくるところから生まれます。要は、洗濯バサミや子供の弓ごっこのように弦を両側から挟み、真っ直ぐ真中から解除できればストリングの蛇行は起こらないのですが、片側からの解除によって必然的に弦は蛇行を起こしアーチャーズパラドックスを発生させ、その最初の力がハンドル(弓)を押すというわけです。(だからコンパウンドボウにはクッションプランジャーを必要としないのです。)
 ということは、人間(アーチャーが手で)が射つ弓においてはアーチャーズパラドックスなどの要素が予測事項として織り込まれている必要があります。にもかかわらず、シューティングマシンはその状況を作り出せないのです。例えば同じリリーサーでも、多くのコンパウンドアーチャーが使うロープ式のタイプではフィンガーリリースに比べれば皆無に等しいかもしれませんが、それでも片側からロープを解除するために弦の蛇行は起こります。
 
 そのために、実際にはこのような完璧ともいえるシューティングマシンと併せて、アーチャー(人間)によるテストが繰り返されることによって初めて多くの人にに受け入れられる弓や道具ができあがるのです。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery