実質ポンドと表示ポンド

 それに対して、弓に書かれているポンド(表示ウエイト)は各メーカーが定めた基準によって測定された値であり、その基準とアーチャーのドローレングスが一致しない限りボウレングス同様にひとつの目安にしかすぎません。この基準は国産と輸入品では異なりますが、ピボットポイント(グリップの底)から26インチ引いた時の弓の強さが弓に書かれていると考えればよいでしょう。そして、
 アーチェリーのリムには 「66”-38#」 や 「68”-40#」 といった記号(表示)が書かれています。これは「66インチ-38ポンド」「68インチ-40ポンド」のことを表しているのですが、実は国産(日本製)の弓の場合は「メートル法」を使用しているのでインチやポンドといった「ヤード・ポンド法」を表記できないので、「”」や「#」の記号でそれを表しています。
 そこで最初の66インチや68インチは弓の長さ(Bow Length)を、38ポンドや40ポンドは弓の強さ(Bow Weight)を表します。

 弓の長さはどの部分の長さを測っているのかというと、これは弓を図面上(設計段階)で展開したもので、ストリングの長さなどとは異なります。また、リカーブ部分の形状もメーカーによって異なるため、同じ表示長さの弓であっても、メーカーが異なれば実際の弓の長さも違ってきます。
 そして弓の長さは矢の引っ張り長さ(Draw Length)によって決定(アーチャーが選択)されます。
 では、弓の強さはどのように表示されているのか。この時、2つの表わし方があるので注意が必要です。「表示ポンド」(Bow Weight)と「実質ポンド」(Actual Weight)です。そして表示ポンド数こそが弓に書き込まれている強さ(数値)のことです。
 「表示ポンド」はどのように決まるのか?
 以前は弓のバックサイドから矢を28インチ引っ張った時の強さ(ポンド)を表示するのが一般的でした。しかし、この方法だとハンドルの形状によって統一がとれないことになってしまいます。(とは言っても、ピボットポイントからバックサイドが約2インチのため、結果的には同じくらいの強さにはなるのですが。) そこで近年はピボットポイント(グリップの底)から26 1/4インチを引っ張った時の強さで表す方法がほとんどのメーカーで採用されています。
※ AMO(Archery Manufacturers Organization) と呼ばれるアメリカを中心とした弓具の統一基準を提唱する組織があるのですが、ここでは長い間ピボットポイントから「26インチ」引きを基準としていました。しかし1998年からその基準を「26 1/4 インチ」に変更したために、これに準じるメーカーは1999年モデル前後から仕様変更を行なっています。一般に1インチ=約2ポンド と言われていますが、この仕様変更によって、同じ表示ポンドのリム(この基準長さが異なるリム)を同じアーチャーが引くと、1/2ポンド程度軽く感じられることになります。(ホイットもプロセレクトもすでに、この新しい基準値でリムを作っています。)
 これで分かるように実際にアーチャーが使用する場合に、これと同じ状況が生まれるのはまれなことです。当然この基準よりドローレングスが短ければ表示ポンドより弱い弓になり、これより長く引かれれば表示以上に強い弓になってしまいます。このように、実際にそのアーチャーが使用する時の弓の強さが「実質ポンド」です。実際のスパイン(矢の硬さの選択)はこの実質ポンドと実際の矢の長さで決められなければなりません。(この基準から1インチ前後することで約2ポンド弓の強さが変化します。66インチ36ポンドと書かれたリムはグリップから26 1/4インチ引っ張った時に36ポンドであり、アーチャーが27 1/4インチ引いた場合は約38ポンドあり、逆に25 1/4インチしか引かなければ34ポンドしか弓の強さはないということです。)
 メーカーはこの測定を専用の測定機器を使用して行います。この場合1/100の単位までほとんど誤差なく計ることができます。(余談ですが、普通のアーチャーがバネ秤で計る数値は誤差が大きく、正確ではないと理解しておくべきです。) では小数点以下はどのようにするのか?
 これはメーカーによってさまざまです。切り捨てて表示するメーカーもあれば、四捨五入して表示ポンドを決めるメーカーもあります。そのため、現実には同じ表示ポンドの弓であっても1ポンドの差がある場合があったり、38ポンドと書かれていても38ポンドに達していない場合もあるわけです。(これはメーカーの基準の違いによるものであり、メーカーを責めるわけにはいきません。)

 最近はほとんどの弓にポンド調整機構(リムのハンドルへの差し込み角度を変える)が付いているため実際の使用では同じドローレングスであっても弓の強さを変えることができるようになりました。
 しかし、メーカーはこのリムの差し込み角度においても最良の位置を当然決めているわけで、それが最良の結果と性能を発揮するとしているわけです。よって基本的にはポンド調整(ティラーハイトの調整ではなく)を目的にリムの角度を変更することは、よほどそこに意図するものがなければお勧めできません。特にアメリカ製のほとんどの弓はなぜか、この表示ポンドから強くする方(リムを起こす)にリムが動かせるようになっているのは問題です。なぜなら、リムを基準位置以上に起こすことは、ポンドアップはもたらしても安定を高めることはほとんどないからです。
 また表示ポンドを測定する時にはそのモデルと弓の長さに対する基準の「ストリングハイト」が使われるため、実際の使用では当然同一条件下であってもハイトが異なればポンドも違ってきます。
 そして最後。実質ポンドはイコール矢に伝わるエネルギーではありません。それはストリングの太さ(質量)や射ち方のロスを除いたとしても、リムそのもののエネルギー効率が問題になります。同じポンドのリムでもカーボンリムとグラスリムではカーボンの方が速く矢を飛ばすことができるのはこのためです。また、同じ強さのカーボンリムであってもメーカーによってリムの返りや矢速が異なるのは、どれだけそのカーボン繊維がリムの反発に寄与しているか、あるいはどのように弓の安定を求めそのリムが設計されているかなどによって違いが出てきます。しかし、このあたりになると表示ポンド以前に、メーカーの設計思想や技術力の問題ではあるのです。(弓は色やデザインや値段だけではなく、個性や性能があるのです。)

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