シューティングマシンとテストシューター

 雑誌「アーチェリー」の企画で1981年5月15日にヤマハの浜松中沢レンジでシューティングマシンによる的中精度を確認するテストが行われました。(1981年8月号)
 この時の条件は、北東の風、風力2.3m、曇り、気温20.3℃、湿度70%。そして50・30m72射の結果は、
   10-10- 9-10-10-10 = 59
   10-10- 9-10-10-10 = 59
   10-10- 9-10-10-10 = 59
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10-10-10-10-10 = 60 50m 357点
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10-10-10-10-10 = 60
   10-10- 9-10-10-10 = 59
   10-10-10-10-10-10 = 60 30m 359点 
合計 716点
 今でこそ30m360点の世界記録が存在する状況から考えれば、359点やマイナス4点はさほど意味を感じないかもしれません。しかし、ここでシューティングマシンがアウトドアでパーフェクトの720点を逸した理由を考えると、50mでのマイナス3点は風なのです。(ただしこの時はまだアルミアローが使われています。)マシンは外的状況の変化に対応してのサイトの変更やエイミングポイントの変更ということはできません。そして30mでの一本のミスはその前回にノックが破損したために矢を交換した、その矢が10点を外しているのです。弓やマシンの精度の問題ではなく、矢の精度による誤差からの9点でした。

 弓を開発するメーカーにとっては、シューティングマシンと呼ばれる機械は不可欠です。しかしそれだけで良い弓は決して生まれません。そこには機械とは別に「テストシューター」と呼ばれるアーチャーの存在が必要なのです。彼らは社内の人間である場合もあれば、一般のアーチャーである場合もあります。しかし彼らは必ずしもトップアーチャーである必要はありません。例えば発売間近の新製品を宣伝するなら、トップアーチャーに使わせることが効果的です。あるいはオピニオンリーダーと呼ばれる、弓が当たる当たらないとは別の影響力のある人間にその販売促進を依頼すればいいでしょう。しかし、開発段階においては当たる当たらないよりもっと重要な要素があります。なぜなら、基本性能も耐久性能も、そして的中性能についても研究室段階で十分にマシンにより確認できるからです。
 では、テストシューターに求められるものとは? 例えば新しいリムをテストシューターがテストする時、シューターは与えられた何種類かのリムを射ちながら、その違いや特徴を感想として「言葉」にしていきます。その言葉を手掛かりに開発スタッフは次なるプロトタイプの試作へととり掛かります。しかしここでシューターに要求されるのはグルーピングの大きさを小さくすることや記録を出すことではありません。いかにマシンによる測定や図面からだけでは分からない「フィーリング」や「感じ」(主観的事実)をつかみとり、スタッフにも理解できる客観的事実としての言葉で正確に表現できる能力があるか、がテストシューターに求められる資質であり、チャンピオンとテストシューターの決定的違いがそこにあります。
 「軽率な飛び」「飛びが軽い」「左右に振れる」「奥が不安定」「重さがない」・・・・・。多分多くのアーチャーには理解できない言葉であり、また教えられても感じることのできない状態でしょう。しかし、こんな繊細な感覚をプロトタイプから見つけだし、言葉にできるのがテストシューターです。これらの言葉を受けて、いかに次なるプロトタイプに反映させ具現化することができるかが開発スタッフとのチームワークなのです。いくら的確な評価も、その言葉を理解できないスタッフでは意味がありません。

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