リムの寿命と品質

 リムはどれくらいもつのでしょうか。
 先日、結構気に入っていたリムが折損(折れ)しました。とは言っても、リムの真ん中から折れたのではなく、チップが折れたのです。

 数日前からシュート時に異音(異感覚)があったので見てみると、こんな状態でした。多分、後200〜300射も射てば、完全にチップは飛んでしまうでしょう。状況としては表面のフェノール(樹脂)板にストリングのループが食い込んでいるのですが、うまくいけばメーカーでのチップ貼り替え修理によって直すこともできます。しかし多くの場合は、チップの補強材を超えてリムそのものにヒビが達しているため、もう使用することはできません。

 昔、1980年代中頃までのリムは多くのクレームを抱えていました。原因は1970年代に登場したテイクダウンボウが、まだまだ未完成だったからです。あるいはその間にも、多くの新素材による改革があったこともあります。ケブラーストリング、カーボンリム、ダンパーレススタビライザー、高密度ポリエチレンストリング・・・・極めつけはカーボンアローでした。これらの新兵器パワーの前に、リム製造の技術がついて行けない時期が何度かあったのです。当然そこには生産コストと販売価格の問題もあり、作ることはできても製品としての販売はできない、というものもありました。
 しかし最近、これだけ矢やストリングが軽くなり、弓へのショックが大きくなったにもかかわらず、このようなチップ部分だけでなく、リム本体の折損をあまり見ることが少なくなりました。(起こっているのは知っていますが。) トラブルが減少した理由は、技術力の向上とその間に蓄えられたノウハウの結果です。昔、折損が多発した時には、接着技術の未熟さに加えて、接着剤の選択やノウハウにも問題がありました。木芯(芯材)とFRPの接着は問題ないにもかかわらず、同じ接着剤でFRPとCFRPを接着したためのトラブルや接着剤自体を木芯が吸い込んでしまうなどの初歩的なミスもありました。ところが近年は接着剤も進歩し、設計や品質管理上の問題さえなければ、まず折損するということはありません。もし購入しての早い時点(例えば保証期間内)で折損が起こるようであれば、メーカーが保証しているようにメーカーの製造上の問題か、あるいは根本的な品質や設計上の問題です。

 例えばぶつけてもいないのに、このようにFRPあるいはCFRPにヒビが入ることがあります。この写真ではすでにFRPの折損から強度不足に陥り、木芯にまでヒビが入っています。FRPのササクレも1ヶ所ではありません。多分、FRP自体の品質の悪さ(強度不足)か、あるいはポンド調整のためにリム表面を研磨しすぎたためにFRPのガラス繊維の多くが切れてしまったことが原因です。

 このようなリムになると塗装時の品質管理に問題があっただけではなく、塗料そのもの、あるいは仕様自体がおかしいのではないかと疑いたくなります。
 この種のトラブルに対して、メーカーが保証規定の中でどのように対処するのかは知りませんが、少なくとも本質的にこのような問題を持たない素質の良いリムであれば、多分アーチャーが納得して使用をやめる時まで十分にその性能を発揮してくれるはずです。最近のリムは通常の使用では、まず折れることはないということです。

 では今回チップが折れたリムは、どこに問題があったのか。
 ヤマハのパワーリカーブを除いて、ほとんどすべてのリムは今回のタイプ同様にチップ部分を補強するために樹脂、あるいは樹脂に加えてFRP(グラスファイバー)を積層させています。しかし、実は今回折れたリムは1984年に製造されたもので、インドア用に使っていたものをちょっと改造して最近も使っていました。15年以上前といえば、まだカーボンアローや切れないストリングが一般的ではなく、強度的にまだそれらの状況に対応していなかったのです。チップが細かったと言えば、それまでです。ただし、しっかりと品質管理されている製品なら、基本的にはこの程度の使用には十分耐えます。やはり今回はちょっと長く使い過ぎたのでしょう。
 よくリムを長期間使っていると、ポンドが落ちたりするという話しを聞きます。しかし経験からいうと、それが折損や剥れの前兆としてのものでなければ、経時変化によってポンドがダウンするということはほとんどないと思います。確かにグラス(FRP)リムはカーボン(CFRP)リムに比べれば疲労し易い素材ではあります。しかし、素材の耐疲労性の問題を通常の使用においてアーチャーが感じることは稀なはずです。アーチャーが経時変化として感じる問題は、変色や接着剤の劣化でしょう。それでも年間2万射程度使っても、使用方法さえ間違わなければ3年や4年は平気で使えるはずです。今回も15年以上前の接着であっても、剥れや性能上のトラブルはなかったのです。例えば、10年近くもまったく使わないと逆に問題ですが、今回のように適度に使用すれば接着剤の劣化もあまり問題ではないということです。

 最初の質問に戻りますが、リムがどれくらいもつか。という時、それが「使えない、射てない」という「折損(折れ)」や「剥離(剥れ)」が頭に浮かびます。確かにそれは最終段階であり、交換・修理、有償・無償、クレームなどアーチャーにも納得なり我慢、あるいは諦めの判断がつく部分です。
 ところが最近のリムを見ていると、このような最終段階に至る「寿命」は必然的に考えさせられるにもかかわらず、そこに達する前段階での問題が増えているように見受けられます。それは使用する以前の購入時点での「品質」の問題です。リムはストリングは張れて、射つことができれば、それで良いというものではありません。
 近年この種の問題が起こってきた背景には、逆の意味での技術革新があります。テイクダウンボウが一般化し、そこに「ポンド調整機構」が1980年代後半から搭載されるようになってからです。簡単に言えば、昔は製品として提供される個々のリムをアーチャーは同一条件(同じハンドル)で使用することが前提でした。しかし、近年はリムとハンドルの接合部分の角度をアーチャーが調整することが可能になり、弓の強さやティラーハイトといった弓の基本性能にかかわる部分を変更できるようになってしまったのです。モデルによってはネジレに対しての調整機能まで有するハンドルがあります。それに加えて、最近はひとつのメーカーのリムを複数メーカーのハンドルで使用できるようになっています。
 これは技術革新であり、アーチャーのチューニングの幅や可能性を広げるものではあります。しかし、逆に言えばこれほどメーカーにとって楽な状況はないのです。少しくらいバランスが悪くても、あるいは少しくらい捩れたリムであっても、出荷して後はアーチャーの責任に任せることも可能になったのです。すべてのメーカー、すべてのモデルがそうだとは言いません。しかし、そのようなリムが市場に出回っていることも事実です。
 すべてをメーカーやショップの責任にすることは正しくないでしょう。家や車ほどは高価ではないにしても、10万円単位のお金を払うのですからアーチャー自身が知識を持って、品質やリムの素質を見極めることこそが必要なのではないでしょうか。決してリムは折れなければ良いのではなく、折れないのは最低条件にしかすぎません。リムもハンドルもです。

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