ハンドルのネジレ

 ハンドルが金属になってから、アーチャーは弓のハンドルが絶対基準のように思っています。しかし、NC(アルミニューム)であっても、ダイキャスト(マグネシューム)であっても絶対に曲がらないとは言い切れません。金属だからこそ金属疲労も起こり、折損(折れ)も発生します。あるいは、使用頻度によっての発生ではなく、新品の状態ですでにネジレや曲がりがあるのも事実でしょう。
   普通に見ていては分からないのですが、こんな機械を使って弓を引いてみるとハンドルがたわむのを見ることができます。金属とはいえ、ハンドルは結構曲がるものです。それは別に悪いことではなく、当然と言えば当然のことです。そこで、ちょっとハンドルの形状に注意を払ってみてください。ハンドルというのは結構複雑な形状をしています。実はこれが曲者なのです。ハンドルは上下・左右非対称形で、そのもっとも形状を異にする部分は、ハンドル上部のウインドウ部分の削り込みです。この弓の中心線を外れた湾曲形状は強度だけではなく、製作自体に対し多くの難しさを与えています。
 これは同じモデルのハンドルで、左が初期モデルで右が改良モデルです。これなどは発売当初、軽量化を目的に上下部分ともに側面に削り込みを入れていたのですが、強度不足が原因で折損ではなくネジレが起こりました。そのため途中から金型変更により、削り込みをなくすことで何とか問題は解決しました。ただしハンドル重量は増加しました。

 このように溶けたマグネシュームを金型に流し込んで作る、マグネダイキャスト製法では一旦出来あがった金型を修正するには多額の費用と技術が必要です。しかし強度を増すということから製品の形状を太く(厚く)するのは、型側を削る処理なので細く(薄く・軽く)するよりは安くで簡単にできるのも事実です。そのため、この例のようなトラブルはアーチャーにも分かり易く、納得ではなくとも理解はし易い状況です。問題は素人には分からない問題や対応です。
 現在多く使われている、NCと呼ばれるコンピュータ制御によるアルミニュームの削り出し製法では、製品の形状変更にはフロッピーのデータ修正だけで行えるため、簡単といえば簡単です。しかしその分問題が発生するたびに、簡単に形状をマイナーチェンジされることが多くあります。また、強度保持のために7000系と呼ばれるアルミニューム素材なども使われるのですが、逆に堅さ(もろさ)が出て曲がりに気付く前に折損するという問題もあるようです。
 ここで言っているのは「製法」そのものの特徴であって、出来あがった製品の性能を云々しているのではありません。それを理解したうえで、ダイキャスト製法では最初の金型の精度が出ていれば、まったく同じ形状の製品を安定的に低コストで大量生産することができます。しかし、先の湾曲した形状などにより、メーカーは技術力だけでなくノウハウも要求されます。例えば、いくら精度の出た金型であっても、できたハンドルを取り出す時それが対称形状であれば問題はないのですが、ウインドウ部分が細く、片側に極端に寄っているために「引け」と呼ばれる曲がりが出ることがあります。モデルによっては最初からこの引けを計算に入れて金型を設計したり、あるいはできあがったハンドルを修正することもあります。これなどは使用による曲がり(ネジレ)ではなく、製造段階でのネジレです。同様のことはNC製法でも起こることはあり、工作機械自体の精度や製作工程、設計自体の問題により、できあがった段階での曲がりや使用によるネジレは起こる可能性はあります。

 このような微妙な曲がりやネジレをアーチャーが発見できるのか、というとそれは難しいでしょう。それに予備のリムあるいはリムを買い換えることはあっても、同じモデルのハンドルを複数所有するアーチャーはまれです。アーチャーにすれば、自分の持つハンドルこそがマスターハンドルという意識なのです。
 先日、「右用のリム、左用のリムというものはあるのですか?」という質問をいただきました。
 結論から言えば、メーカーは右用・左用といった区別をしてリムを作ってはいません。しかし右射ち・左射ちのアーチャーがいる以上は、ハンドルには右用・左用があります。そして仮に上記のような曲がりがハンドルにある場合、右用・左用ではその微妙さが倍になって現れることもあります。こんな時は同じリムを右用のハンドルにセットした時は真っ直ぐでも、左用と組み合わせた時はネジレが出る、というようなことはあり得ます。しかし、これなどはリムが真っ直ぐ(ネジレのない)な場合ですが、それでも一般にはハンドルではなく、リムのネジレとして処理(判断)されてしまうでしょう。
 この種の問題に対しアーチャーはどうすればいいのか? 多分ハンドル単体での精度をリムのネジレを見るように確認できないため難しい問題です。もしリムのセンターズレなどが起こっていたとしても、その原因をリムに限定する前に同様の他のハンドルにもセットして状況を確認するのが良いでしょう。
 ひとつヒントを言えば、どんなハンドルであっても図面を引いて設計する以上は、そこにはすべての基準となる線や面が存在します。では、ハンドルにおける測定の基準はといえば、これは常識的にいって「ウインドウ面」でしょう。レストやクリッカーが取り付けてある面です。これが基準となり他の位置関係が成立します。メーカーはこの面を基準に研究室レベルでの測定機材によって、ハンドル単体での精度の確認を行います。これはアーチャーがリムを取り付けて、ストリングを張って、その面に合わすなどといった単純なものではありません。ただし、目視での確認は不可能です。
 高価な買物をするわけです。リムを取り付けてストリングを張って、ネジレのない弓を探しましょう。そして最初は大丈夫でも、形ある物はいつか壊れる現実も知っておくべきです。

 これはトップを目指そうというアーチャーの最低限の知識としてお話しすることで、これらのことが即 クレームの対象や粗悪な品質を示すものでは決してありません。アーチャーならこの程度の知識は身に付けたうえで、自己防衛程度の対処はするに越したことはないということです。また、それによって良いものが何であるかも、見えてくるはずです。
 

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