平等院とコンビニ弁当 (なにか勘違いしてません?!)

 先日、縁あって日本で五本の指に入るであろう宮大工の方と寿司屋で夜中まで飲む機会に恵まれました。一見話の接点がなさそうなのですが、棟梁は昔あったという60mにも及ぶ七重の塔を再建することと、自分が育てた弟子を世界選手権(この世界にも世界選手権があり、まだ日本人チャンピオンは生まれていないのです。)で優勝させることが夢だということで話は盛り上がりました。話は世界一から五重塔、矢作り、最後は自然の木の形状を生かしてのリム作りにまで及びました。そんな中で、日本の大工と木造建築をダメにしたのは建築基準法だという話もあったのですが、「木造建築で一番素晴らしいものは?」との問いに棟梁はなんと答えたと思いますか。内心、東寺の五重塔か奈良の法隆寺あたりかと期待していたのですが、意外にも答えは、京都宇治の平等院だと熱く語ってくれるのです。10円玉の表に刻まれているあれです。そのかたちといい、技といい、素材を選ぶ目や使い方など、どれをとっても世界に誇れる最高の建築物だと言うのです。
 そこで、行ってきました。実はウチから車で30分も掛からないところにあるのです。
 今でこそ色はご覧のとおりですが、当時は極彩色に彩られていたようです。ところでこの建築物、何年前に建てられたものかご存知ですか? 平等院は永承7年(1052)、関白藤原頼通によって開創され、鳳凰堂はその翌年の天喜元年(1053)、阿弥陀如来を安置する阿弥陀堂(国宝)として建立されました。ということは、ほぼ1000年前に建てられたものが、風雨や陽にさらされながらも同じ場所に今もこうして残っているのです。1000年ですよ。にもかかわらず、今の建築基準法では最近やっと3階建てが認められたものの、安全を理由にそれ以上は認めず減価償却の期間も25年程度です。とは言え、最新の鉄筋コンクリート工法のビルでも50年で税法上の価値はなくなり、メンテナンスなり建て替えが必要です。100年ももてば良い方でしょう。こんな法律や規制のおかげで、日本には木を扱える職人も技も、素材も育たなくなったという話です。そしてコンクリートや鉄が、木材よりも丈夫で安全で長持ちするという錯覚が定着してしまったのです。
 
 そこでアーチェリーの話です。多くのアーチャーは錯覚や勘違いをしていませんか。化学素材がなんでも天然素材に勝ると思っているのではありませんか。
 ちょっと折り詰め弁当の箱を思い出してください。駅弁でもコンビニ弁当でも、お持ち帰りの寿司でも結構です。最近はこの折り箱も天然木を使わず、発泡フォーム材を多用するようになってしまいました。蓋も薄い木ではなく厚紙になってしまいました。素材こそ違えど、某メーカーの最上級高額モデルの芯材に使われているような発泡材です。
 では折り箱の枠に使われている、リムの芯材と同じくらいの厚さの発泡スチロールを指でたわませていくとどうなります。ある程度曲がったところでぺキッと折れてしまうでしょう。しなりも耐久性もなければ、反発力を求める方が間違っています。それに比べて本当の木でできた折り箱の淵や蓋ならどうでしょう。たしかに高反発を求めるには、竹がグラスに変わり、カーボンへと移行したように最新の化学素材が不可欠かもしれません。しかし、それを支える芯になる部分では、木材こそが最良なのです。リムに求められる性能は、反発力だけでは決してありません。ネジレや曲がりに対する強さや耐久性も必要です。そして発泡材には持ち得ない、腰の強さや粘り、安定性といった不可欠の要素もあります。天然木のすばらしさは、すべて平等院が示すとおりです。
 ではなぜ、発泡材を使うのか。簡単なことです。木造建築の家よりプレハブの家が増えたように、コストダウンであり、大工の技がなくても誰でもが簡単に作れるからにすぎないのです。それらは見た目はきれいで、素材の供給も簡単です。確かに最新の高性能カーボンは高価です。しかし芯材に化学素材を使用することは、素材と製法、量産による単なるコストダウンにすぎません。NC製法がダイキャスト製法を超えられないように、発泡フォームに木芯を超えることは不可能です。普通の家でもプレハブより木造の方が高額である分、それだけ長持ちもすれば住み易いでしょう。ただし木造の家を建てるには、良い素材とそれを生かす技を持った大工は必要です。
 そしてもうひとつ。では木ならなんでもいいのか?
 決してそんなことはありません。平等院もそうなのでしょうが、家を建てる時の素材の理想は、その場所に生えていた木を使うのだと棟梁が教えてくれました。北の柱には北に生えていた木、東には東のその場所に生えていた木をそのままに使うことができれば、木材は温度や湿度、日光など自然の変化に微妙に対応してくれると言うのです。しかし、これは金に糸目はつけない場合です。ヤマハがパワーリカーブ以前に作っていたリムの芯材に使われた楓(カエデ:メープル)は、ピアノ作りを母体とするヤマハでしか入手できない、ヤマハだからこそ弓に使ったすばらしい素材でした。しかしそんな贅沢な弓を作ってくれるメーカーはもうありません。とは言え、ユーザーに手の届くぎりぎりの所で、価格と性能の折り合いを付けているメーカーもあれば、ベニヤ板程度の木で作った弓を高額で販売するメーカーもあります。コストダウンと大量生産しか考えないメーカーもあれば、高性能、高品質のためにしかたなく高価な弓を作らざるを得ないメーカーもあります。これはメーカーのポリシーとプライドと技術力の問題です。
 だからこそアーチャーは、見てくれのキレイさや宣伝、広告に惑わされることなく、本物を見る眼を養わなければならないのです。そして、世界に誇れる日本の技術と伝統、誇りを決して忘れてはいけません。

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