有弓休暇(12)

 年末も近づいてきて、いろいろなことが聞こえてくる中、目の前に「2007年度版イミダス」(集英社)があったので、ちょっと思い立って「定番商品」を引いてみました。その語彙はなかったのですが、「ロングセラー商品」という項のなかに「定番」として出ていました。
 
「ロングセラー商品」(long seller items)
長期間にわたってユーザーの支持や愛用を得ている商品のこと。一方で顧客の願望の変化、他方で新製品導入の激しさのために、一般的には商品寿命はどんどん短くなっている。そのような事態の中で、ロングセラー商品は企業の利益の源泉として貴重な存在となる。ロングセラー商品には、神話的認知構造づくりに成功したものもあるが、多くは不断の改善努力を通じて競争優位を維持した結果である。アサヒ「スーパードライ」、ハウス食品「バーモントカレー」、武田薬品工業の「アリナミンA」などはその典型である。これらは定番とよばれる。長い間の市場のテストを受けて生き残った主力商品という意味である。
 
 アーチェリーの世界から定番商品が消えてどれほどの時間が経ったことでしょうか。いろいろご意見はお持ちでしょうが、個人的感想を述べるなら、それはヤマハが消えて、HOYTのAvalonが折れ続け、その後に今の混沌が始まったような気がします。ちょうど、韓国製品の台頭と時を同じくするのです。
 HOYTの「TD2」もヤマハの「EX」も定番商品であると同時に名機でした。では今、定番、名機と呼べる製品が存在しますか。その名前を挙げられますか。新商品や現行商品について言うと、いろいろ利害が絡んだり角も立つので控えていますが、正直近年の状況はあまりにもひどすぎるとしか言いようがありません。だからこそ定番商品が生まれないのです。後になればなんとでも言えるというかもしれませんが、口頭や個人的にはずっと言っているはずです。
 長さ方向でない方向に湾曲したリムがモノになるわけがないでしょう。プラスチックの下敷きをそのように湾曲させて長さ方向にたわませれば、そこに何のメリットがあるというのですか。カーボンとアルミを合わせてハンドルにすれば、安いカーボンでもアルミより硬いのは自明です。だから外側にカーボンを使えば剥がれます。それでも使うならグリップの外側で分割しかないでしょう。リムのチップ側を短くして矢速をアップさせても、リカーブがなくなってストリングハイトを少しでも高くすれば、バタバタになるでしょう。ハニカム構造は圧縮に対して強い構造であり、反発を求めるものではありません。それにそれを接着するなら接着面積が圧倒的に小さくなり、特に夏場は中に熱を含むでしょう。マグネの鋳造でアーチを掛けることは湯の回りを考えれば不可能です。ベタで作って、後で穴を開けるのなら強度が持たないでしょうし、意味がありません。。。。。
 だからこんな商品は1シーズンすら持たないのです。38年間、アーチェリーのことばっかりやって考えているのです、毎日。とはいっても難しいことではありません、常識で考えれば分かることばかりです。
 ではこんなくだらない陳腐な子供騙しのトリックが今に始まったものかというと、実はそうではないのです。30数年前からヤマハやニシザワ、そしてHOYTおじさんたちはとっくに思いついて、試作して、テストして、答えを知っていたから商品にしなかったのです。だから今、注意してあげているのです。
 こんな状況に拍車を掛けたのが、アルミNCハンドルというコンパウンドボウから生まれた、コンパウンドに適した技術のリカーブへの転用です。トータルで考えれば、アルミNCは決してマグネ鋳造を超えることはできません。しかし悲しいかな、マイナースポーツのリカーブアーチェリーでは数量が最大のネックとなり、アルミNCに駆逐されているのです。
 パソコンが出だした頃、どんなソフトウエアも一応は完成品でした。「バグ」という言葉が存在し、それは不良品を意味しました。不良品を世の中に送り出して金を取ることはなかったはずです。ところが最近は、最初からバージョンナンバーが付いて、不完成品であることが前提になっています。不良や不具合があれば、修正していけばいいのです。それがさも当たり前のように言われています。今のアーチェリーも同じです。NCなる金型への初期投資が必要ない製法によって、折れれば形状変更、曲がれば調整機構、売れなければモデルチェンジの世の中なのです。そしてこの実験の場が日本ということです。それに日本のアーチャーは上得意様です。どんな試作品でもテスト品でも、新製品、最新と銘打てばありがたがってとんでもない高価な値段でも買ってくれるのです。こんな商売やテストのやり易い市場は、世界広しといえども他にないでしょう。もし上手くいけば、次に世界に向けて販売すればいいし、ダメでも元は取れるのです。ハンドルだけではありません。リムにしても、矢にしても同じことです。オリンピック選手がショップで売っているものと同じ製品を使っていると、本当に思っているのですか。あんな折れたり曲がったりする商品と同じモノを、テレビで世界に放送させますか。まして自国の選手より良い製品を敵国の選手に使わせると思いますか。いい加減に目を覚ましてはどうでしょう。
 
 鮫は泳ぎまわっていないとエラに水が回らず死んでしまいます。どんなくだらない、どんなメリットのない、どんなインチキ商品でも、出し続けなければ死んでしまうような、定番を持たない定番を持てないメーカーがいっぱいあるのです。技術もノウハウも資金も、そして情熱もないのに生産コストだけは安く、金儲けだけは上手なメーカーです。
 ということで、そろそろ鮫の餌食になるのはやめにしませんか。もし最新の道具を使っていることと、お金を持っていることを自慢したいのでないなら、そして本当に良い商品を使いたいなら、3年間は生きている商品から選んではどうですか。そうすればきっとそれは、10年間生き続けるでしょう。
 そこで小学館の「食材図典」で、「鮫」を見てみました。
 「食用として利用される種類は少ない。サメ類ではステーキ、田楽、ぬたにされるものもあるが、練り製品の材料や、中華料理に使われるフカひれは有名、また深海性のツノザメ類の肝油が健康食品や薬用、化粧品の材料とされている。」ということで、鮫は浸透圧調整のために多量の尿素を含み、死後はそれが分解してアンモニア臭を発生させるということです。そのため新鮮なもの以外は調理には向かないそうで、多くがかまぼこやはんぺんの材料になるようです。
 そんなこんなで、今日の休みは、チョウザメのタマゴを肴に定番のブーブクリコを、お気に入りの定番のバカラのグラスで飲みながら、、、、インドアの弓の準備でもします。
 (ちなみに、チョウザメはサメの仲間ではないそうです。そして浸透圧調整に尿素を使わないので、アンモニアに起因する臭みを出さず、キャビアをはじめとして高級食材に使われるんですって。)  (^o^)/

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