お気に入りのレストを替える

 久しぶりにレストを替えます。どれくらい久しぶりかというと、インドアではカーボンより太いアルミ矢を使うので、冬の間だけほんの少しツメを曲げて(下げて)使うという小細工をしながら、多分このレストで3シーズンは射っているので、3年6万射以上は使ったことになります。針金(ツメ)のシャフトが載るところが少し磨り減っているだけです。
 今の世の中にあるレストを大別すると「金属レスト」と「プラスチック(樹脂)レスト」に分けられますが、これほど長く使える(多く射てる)のは金属レストのお陰です。プラスチックならとっくに磨り減ってなくなっています。10数年前にここに書きましたが、これらのレストにはそれぞれ長所と短所があり、どちらが良いとは一概には言えませんでした。そしてそれぞれの特徴の何にアーチェーが重点を置くかで、結果的には半々の使用率で長く推移してきたのです。ところが最近は「金属レスト」が特に競技用としては多くを占めるようになり、「プラスチックレスト」は備品や練習用の弓に多く使われています。
 このように金属レストが台頭するに至ったのには、当然理由があります。たぶんこれが最大の理由だと思うのですが、それはレスト側ではなく弓(ハンドル)側の問題です。大昔、ワンピースボウ(木製)の時代には、ハンドル部分の強度を考えるとウインドウ部分を深く削り込むことができませんでした。同時にクッションプランジャーが使われだす1970年代中頃まではレストそのものに矢を載せる必要があったので、プラスチックレストが最適でした。(レストのベース部分が今のクッションプランジャーの役目を果たし、シャフトのサイド面を支えていました。) そして1970年代中頃からクッションプランジャーが使われだすのにあわせて、金属ハンドルであるテイクダウンボウが登場します。しかし当初それらのハンドルはマグネシューム製でダイキャスト製法で作られたため、強度や変形の点からウインドウを極端に深くすることができませんでした。(木製ハンドルよりは深くなりましたが。) ところが、1980年代後半から現在のアルミニューム製のNC製法が台頭することで、アロークリアランスを確保するうえから、極端にウインドウが深いハンドルが出てきました。とはいっても、それらが今では一般的なハンドルになります。
 その結果、センターショットとアロークリアランスを確保して、プランジャーチップの先にシャフトを保持するには、ツメの長さがある程度必要になったのです。それはプラスチックでは物理的に難しく、強度と剛性のある「針金」(金属)をツメに使うことを必然としたのです。プラスチックレストでは、ツメの長さを長くできないのでベース部分を持ち上げるため、ハネが当たりやすく(アロークリアランスが確保しづらく)なってしまいます。
 しかしもう1つ、金属レストが主流を占めるだけの理由があります。先にも書いたように、これらのレストにはそれぞれ長短があり、当初はツメの可動のテンション(ツメをへこませる力の強さ)とへこませた後の収納クリアランスの点では、金属レストはプラスチックレストに勝てませんでした。それはより小さい力でツメが出っ張りなく収納されることを意味し、金属レストはレスト部分でのトラブル(矢がレストに当たることにより的中精度を低下させる)を起こしやすいという致命的な欠点(短所)を持っていたのです。
 ところが1990年代に入り、ツメの可動(収納)部分に「マグネット」(磁石)を使うレストが登場します。ただしこれは新しい発明ではなく、1960年代後半の木製ハンドルの時代から、Bear社が「ビルトインレスト」として使っていたアイデアです。しかし、ともかくはそれまでの板バネやコイルスプリングで針金のツメを動かす金属レストに比べ、より小さなテンションで出っ張りがなく、そして雨でもその硬さが変わらないレストが登場したことが、プラスチックレストにとどめを刺しました。
 
 しかしだからといって、金属レストの欠点がすべて解消されたわけではありません。また同じマグネット方式の金属レストであっても、メーカー(モデル)によって長所短所があることも忘れてはなりません。
 例えば今回交換するレストは特に壊れたり不都合があったわけではまったくないのですが、長く使いすぎたので気分的に交換するだけです。まったく同じモデルに交換します。この種のレストは、動きもスムーズでテンションも適度で、非常に動きの優れたレストです。そんな中でも、このモデルは個人的に一番のお気に入りレストです。
その理由は、まずは「安い」。金属レストの欠点の1つは、プラスチックレストに比べて高価なことです。が、性能が良ければ金はいくらでも出す、というアーチャーも多いでしょう。
 そのうえで個人的に金属レストが嫌いな最大の理由は、「壊れやすさ」です。ハンドルカバーに引っ掛かったり、スリングに引っ掛けたりといった予期せぬトラブルに対し、プラスチックレスト以上に神経を使います。その点このレストは、非常に頑丈です。それだけではありません。同じマグネット方式でも、ツメを「上下に可動」できると謳うレストがあります。ツメの上下動をネジで固定するレストです。確かにシャフト径やノッキングポイントに対する調整ができていいのですが、動かせることは動いてしまうこともイコールです。引っ掛けたりしなくても、知らない間に緩んだり、動いていることがあります。この種のレストでは、何度も失敗をしました。
 レストに求める性能は、「壊れにくさ」=「扱いやすさ」=「シンプルで確実な構造」です。このレストはマグネット方式ですが、ネジ止めでもなく、別パーツでツメを保持しているのでもありません。見ればわかりますが、これほどシンプルかつ確実なツメの留め方はないでしょう。
 そしてもう1つ。そのツメを支えている2点間の長さ(-)です。特にネジ止め方式がそうですが、この2点間が短ければガタツキの精度は針金の穴の大きさに依存します。しかしこの間が長ければ、精度が維持されると同時に動きのスムーズさも確保できます。
 壊れにくく、安く、安定していて、そして接着面積が広く確実にハンドルに固定されれば、言うことはありません。安心こそが性能です。違いますか。現に、弦より長く使えて、トラブルは一度もありませんでした。長くアーチェリーをやっていると、いろいろなレストを使いましたが、正直いくら注意して引っ掛けたり壊したりしなくても、知らない間に動いていたりすることがあります。繰り返しますが、練習ならいいのですが、それが試合で起これば終わります。それほどレストは神経を使わなければならない、大きな小物なのです。

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