ワイエス-ゴの思い出

 「YS-V」(ワイエス-ファイブ:我々はワイエス-ゴと呼んでいましたが)。この「ヤマハ」のサイトが発表され、販売が開始されたのは1978年の秋です。それまでこの種のサイト(現在のようにエクステンションバーの的側に上下スライドのサイトバーが付いているのとは逆の、ハンドル側に上下スライドバーが付いて、そこからサイトピンだけが前方に伸びているという形式のサイト。)は、他のメーカーでは存在していませんでした。2009年の今から思えば、31年前の出来事です。しかし、実際にこのサイトのプロトタイプがテストされるのは、それよりも1年前になります。
 ヤマハ西山工場の研究課にあった測定室で、ある日伊豆田さんが「カメこれどう思う?!」と言って、サイトを見せてくれました。まだ誰も実射していない、アイデアをそのまま試作品にしたものです。最初、伊豆田さんはサイト調整を前後でもできるようにと思っていたようなのですが、いろいろアドバイスや新しいアイデアを出し合ったのを覚えています。まだ名前もなく、「トランペットサイト」などと二人で冗談を言い合っていました。伊豆田さんの最初のヒラメキは、サイト重量をグリップに近づけることで、肩への負荷を軽減すると同時に弓の不良振動とモーメントを解消しようというところからこのサイトを思いついたようでした。
 その後、改良した試作品を何度かテストして1978年の発売にこぎつけるのです。が、実はこの頃、このサイトを試合では使っていませんでした。本来ならヤマハの競技用最上級モデルなのですから、使うことが当然だったのですが、、、、どうしても試合で使うには精度面で納得がいきませんでした。翌1979年には海外選対でマッキニーやライアンといった世界チャンピオンも使用しだすのですが、当初サイトを固定(ネジを締めた時)した時に、サイトピンの位置に微妙なズレを感じたのです。(当時、騙したのではなく、失礼な言い方で申し訳ありませんが、一般に使うにはまったく問題のない範囲の誤差でした。) そこで、市販品とは異なる特別仕様を作ってもらい、テストやプロモーションを行い(このことは、現在でも当たり前のことでしょう。世界チャンピオンとあなたが買った商品が外観以外にすべて同じと思う方が間違っているでしょうから。)、そのノウハウは以後のマイナーチェンジに反映しました。
 最終的には1985年頃までこのサイトは販売され続けます。カーボン素材をエクステンションバーに使用したのも、これが世界で最初だったと思います。
 
 伊豆田さんの名誉のために言っておきます。このサイトのアイデアは伊豆田さんが考え、作ったものです。その後、国内外でこれをコピーする製品が多く出回っていますが、それらはすべてこの伊豆田さんの発明を真似たものです。
 知らない昔のことなら、言わなくていいです。ましてや、知らないことをさも正しいように言うのは感心しません。特に「ヤマハ」については、、、、例えば、セバスチャン・フルートはヤマハと弓具使用に関する契約をしていました。しかし、現在彼がW&Wに作らせて彼のブランド名で出しているハンドルは、一切ヤマハとは関係がありません。デザインを適当に真似ただけのモデルです。ヤマハが2002年にアーチェリー部門から撤退し、W&Wに売却した金型やそれに関連する資材を使っているのではありません。単にW&Wの既存の金型を、フォージドに似せて修正しただけのものです。品質も精度もノウハウも、すべて韓国のものです。
 昔のことを知らないなら言っておきます。覚えておけばいいです。日本のアーチェリーが道具面において世界の頂点にあった時代があるのです。世界の新しい時代を切り拓いた時があります。1982年、ヤマハはハンドル「EX」の発表でHOYTを抜き去りました。「Forged」の1990年代後半まで、世界はヤマハが中心でした。世界がヤマハをコピーしたのです。
 1972年ミュンヘンオリンピックで、アーチェリー競技は52年ぶりにオリンピックに復活。日本からも初めて4名の選手が派遣されています。これに向けての強化合宿に世界で始めて「ケブラーストリング」を持ち込んだのは伊豆田さんです。しかし、当時の日本選手のレベルでは、サイトが緩む、音がうるさい、切れ易いが優先課題でした。1975年、インターラーケン世界選手権でペイスがケブラーストリングを初めて使い、驚異的世界記録で優勝します。カーボンリムを最初に市販品としたのもヤマハです。今、多くのアーチャーが使っている道具の原型はヤマハが考えたものです。1974年、民間レベルで初めての日韓親善試合にソウルに行きました。日本の圧勝です、勝ちました。1978年、中国で北京、太原、広州で親善試合をしました。白衣の連中が置いてある弓の長さや重さを測りに来ました。。。。勝ちました。
 今、バイアメリカン(buy American)が再び話題に上っていますが、「buy Japanese」、今こそ考えてもいいのではないでしょうか。アーチェリーの世界では。

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