スパイン ( Spine )

spine という単語を辞書で引いたことはありますか?
 小さい辞書では載っていないかもしれませんが、大きい辞書になると [ spain ] n. 1.脊柱、背骨 2.[動](やまあらし・硬骨魚のひれにあるような)とげ 3.[植]棘、針茎 3.(一般に)とげ状突起 4.(土地・岩などの)突起、山の背 などの意味が出てきます。
 これからも分かるように「スパイン」は「アーチャーズパラドックス」同様にアーチェリーにおける専門用語で、矢の強さや硬さを指し、一般には細長く、硬く、尖ったようなイメージを表しています。
 「スパインが合わない」「スパインが硬い」「スパインが弱い」・・・などと使われるのですが、実際には感覚的あるいは相対的な表現がほとんどで絶対的数値としてこれを使うことはあまりありません。
 なぜなら、スパインとは矢(シャフト)をたわめた時の弾力的な硬さ(比剛さ)の度合いを表すもので、シャフトの両端からそれぞれ1/2インチのところを支えて、そのシャフトの中央に2ポンドの重さを掛けた時の「シャフトのたわみ量」を測定したものを言います。

 ということは、当然スパインはシャフトの材質や形状(外径や肉厚)、そして矢の長さで違いが出てくるわけで、例えば太く短いような強いシャフトの場合はたわみ量が小さくスパインの測定値は小さく、これを表して「スパインが硬い」というわけです。
 しかし分かると思いますが、ここで注意しなければならないのは、このスパインとして表される数値はあくまで静的状態での測定値にしか過ぎない点です。実際のシューティングにおいて矢はアーチャーズパラドックスに代表される複雑な動きを繰り返します。そのため同じスパインの測定値であっても、アルミシャフトとカーボンシャフトではまったくその復元のスピードや形態が異なり同等の評価はくだせないのです。また、均一なチューブ状でないシャフト(意識的に使ったものや品質のバラツキによって出来たものも含めて)ではなおさらこのような測定方法では比較のしようがありません。そのため実際にアーチャーが必要とするのは動的スパインの状況であり、それを表す客観的数値です。しかし、それを単純なデータとして表せないからこそアーチャーは経験則としてスパインを矢飛びと関連付けて曖昧な表現で語るしかないのです。

 そこでアーチャーはこの現実的でない測定値とは別に、矢の「サイズ表示」でスパインを語ります。例えば、ほとんどのシャフトには4桁の数字が印刷されています。
 アルミシャフトであれば「2112」「1916」「1814」などといった数字(サイズ)がそうです。これらの数字は前の2桁が「シャフトの外径寸法」、後の2桁が「シャフトの肉厚」を表しています。そして外径は1/64インチで、肉厚は1/1000インチで表記されます。「2112」のアルミシャフトを例にとれば、シャフトの太さが21/64インチ(約8.33ミリ)でシャフトのアルミの厚さが12/1000インチ(約0.304ミリ)ということです。
 ややこしい表示規準だと思いませんか? これはアメリカのシャフトメーカーであるEASTON社独自の規準なのです。例えばEASTON社以外のPRO Select やその他のメーカーはほとんどがライフル銃やピストルの弾丸のサイズの規準である1/100インチ表示を採用しています。PRO Select の「220」というサイズは銃の弾丸でいう「22口径」と同じ22/100インチで約5.58ミリの直径のシャフトサイズということになります。
 これからみてもEASTON社がアーチェリーのシャフトメーカーとしてはいかに独占的で、寡占状態に置かれているかということが理解できるでしょう。(良いも悪いも・・・・)

 では最近多く使われるEASTON社のアルミチューブにカーボン繊維を巻付けたシャフト(ACEやX10と呼ばれる)のサイズはどうでしょう。ここにも4桁の数字が印刷されていますが、これはあくまでもコア(芯)となるアルミシャフトのサイズであり、実際にはこれにカーボン繊維の厚さがプラスされます。そして実際に矢の硬さを決定付けるのはカーボン繊維の量や質、そして巻かれている方向のため、この数字はまったく意味を持ちません。
 そこで、カーボンシャフトにはスパインの測定値(たわみ量)がそのまま3桁の数字で書かれています。(520のシャフトは0.52インチたわんだというように。) ただこの測定値は先の測定方法では、実際に使用するシャフトの長さから1インチ(1/2+1/2インチ)引いた長さが支点間の長さになっていたのに対して、ここでは一般的な硬さを表す基準として使われるため、シャフトの長さを一律に28インチ(支点間長さ)として測定しています。しかしこの表記方法もEASTONらしい傲慢さであり、あくまで比較の対象としての意味合いしか持っていません。(数字が大きい方が小さい数字の矢より柔らかい、というように)
※EASTON社はカーボンアローについては各サイズ共通で、支点間距離「28インチ」、掛ける重さを「1.94ポンド」(880グラム)を基に測定しています。
 このようにアーチャーは「スパイン」という言葉で矢の硬さを表現します。しかし、実際には矢には硬さだけではなく、太さや重さ、それにポイントの重さや長さ、そしてハネの形状やノックの長さや形状など多くの要素があり、これらが複雑に絡み合いながらアーチャーズパラドックスを経て90mから18mの空気中を飛翔しているのです。

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