大口径・複数ロッド

 近年、スタビライザーに大口径のものや、複数のロッドを束ねたものが登場してきました。最大の理由は現在主流にある「ストレートロッド」と呼ばれるセンタースタビライザーが、ある意味で行き詰まってきたことでしょう。実はこのストレートが登場するまで、長い間「テーパー」と呼ばれる先細り形状のロッドが世界に君臨していました。理由は軽量もさることながら、「振動吸収」がその主目的でした。ところが、カーボンやケブラーといった新素材の出現で軽量や振動吸収の目的が一応達成されてからは、アーチャーと業界の目は「剛性」(硬さ)という新たなコンセプトに向けられるようになったのです。それが1980年代中頃からです。
 背景にはカーボンアローの一般化による記録の向上(中級者よりも上級者における)に伴い、より高い精度と的中性を求めるあまりに、アーチャーの技術とは無関係にスタビライザーに本来の役目(安定装置)を徹底的に求める傾向が強まったからです。例えば、アーチャーは人間である以上「震え」ます。技術的レベルが低ければなおさらです。しかしシューティングマシン(機械)でない以上は必ず震えます。そう考えれば、シュート時のショック吸収という振動吸収以上に、エイミング時の微振動吸収はアーチャーにとっての最優先課題であるはずなのです。ところが、ストレートロッドも、そしてこれと同時に提唱されだした「ダンパーレス」は弓の動きを止め固定するという点では理に叶っていても、アーチャーの技術やレベルはまったく無視するものでした。簡単に言えば、カーボンアローを使って1350点前後を射つことができるようになった世界のトップアーチャーが、何とか道具で1400点に近づけないか? と考えた時、シューティングマシンを前提とした硬く曲がらないスタビライザーという理想の発想が生まれたのです。ところが、そんなひと握りのトップアーチャーを見たミドルアーチャー達が、あれを使えば当たるんじゃないか・・・と真似て始まったのが、今の「ストレートロッド」や「ダンパーレス」ということです。
 発想の間違いも、方法の間違いもありません。ただ、問題は機械を前提とした高性能弓具を技術的に未熟な人間が射つ場合は、本来の性能以前のマイナス効果もあり得るということです。F1カーを普通免許で乗り回そうというようなものです。
 このように「硬さ」を求めてきたストレートロッドのスタビライザーですが、いくら素材や組み合わせを試行錯誤しても 「20mm」前後の直径では重量的に肉厚にも限度があります。そして何よりもコスト(値段)的に考えて現行の商品が普通に購入できる上限ということになってしまったのです。ポルシェのようにホイールナットにチタンを使って軽量化を図る高性能スポーツカーを真似て、ネジ部分にチタンを使う軽量スタビライザーなら理解もできるのですが、残念なことに市販可能な価格での新素材の活用は目先は変えられても、性能的には大差がなくなってしまったのが現実です。そこで登場したのが、コンパウンドやハンティングの世界で使われている「大口径ロッド」や複数のロッドを束ねた「パラボリックスタビライザー」に代表されるスタビライザーです。
 これらの形状や発想は、ある意味これまでのような新素材を使用しなくとも、例えばアルミ素材であっても多少重くなる程度で非常に高い剛性が得られるようになります。たしかにハンティングやコンパウンドでは軽量化はあまり重要な課題ではないので、大口径が一般化しているのも理解できます。しかし、リカーブのターゲットアーチェリーでは、まだまだ「軽量」のうえに立った「高剛性」であり「振動吸収」でなければなりません。
 そこでコンパウンドからの転用である大口径ロッドを除いて、各メーカーともに複数ロッドでの新たなスタビライザー開発に乗り出したのです。その中でも特徴的なのが PRO Select が提供する「パラボリック」と呼ぶ中央が膨らんだ形状の複数ロッドスタビライザーです。この方法をとれば同様の太さや本数のロッドでもより硬く、またその部分を任意に変更することができるのです。(これは意匠登録というかたちで法律的に保護されているため、少なくとも日本国内に同様の形状のスタビライザーが輸入販売されることはありません。)
 ともかく、このように各メーカーともに新たなコンセプトでスタビライザーの開発に乗り出しているのが現状です。そこで、アーチャーとして必要なことは、まず自分の力量や技術に見合った道具を選択することが大切でしょう。いくらトップが使っているとか、最新、高性能、高価といった言葉が躍っていたとしても、スタビライザーは道具でしかありません。使うのはアーチャーであり人間です。そのことを大前提として、使い易い(狙い易い・射ち易い)当て易い自分に合った道具を選びましょう。

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