「鉄」⇒「アルミ」⇒「無垢」⇒「チューブ」⇒「カーボン」

 Stabilizerとは、読んで字のごとく「弓の安定」を高めるために開発された道具です。しかし、最初は今のようなロッドの先に重りの付いた棒状のものではなく、弓本体に直接重りだけを取り付けたものでした。
 それが現在のように変化してきたのは、より一層弓を安定させ的中精度を高めようとする当然の進化の結果です。ところが近年、その進化が性能向上の行き詰まりから本来の性能とはかけ離れた部分で語られる傾向にあります。例えば、素材が金属からカーボン繊維に替わったのは理解できるのですが、それがチタンと言われるとネジ部分であればポルシェのホイールナットのように軽量化が目的と分かるのですが・・・・。あるいは、それがロゴマークやウエイトのデザインを変えることで、あたかも性能が向上したような錯覚をアーチャーに与え、それに伴って価格だけが上昇するのであればアーチャーは時間だけでなく、無駄な出費までも強いられていることになります。
1960年代中頃 - 「ツイン スタビライザー」と呼ばれる 上下2本の短いスタビライザーが登場
1960年代後半 - 「T.F.C.」と呼ばれる スタビライザーの根元部分が動く機能が開発
1972年 - 「トリプル スタビライザー」と呼ばれるシングルとツインを組み合わせたタイプが登場
1970年代前半 - 無垢棒に代わり「アルミ チューブ」が登場
1970年代中頃 - アルミチューブ(空洞でストレート)に「テーパー」がかかり、先細りのロッドとなる
1970年代中頃 - それまでのアルミ製に代わって「カーボン製」が登場
1980年 - スタビライザーの「本数制限 解除」(それまでは最大4本まで)
1980年代後半 - 「テーパー」に代わって「ストレート ロッド」が登場
1990年代後半 - 複数ロッドを束ねたスタビライザーが登場
 1950年代に登場した「ウエイト スタビライザー」が現在のような「ロッド(棒)状 スタビライザー」になったのは、1960年代に入ってからです。最初は「シングル スタビライザー」と呼ばれる1本のアルミニュームなどでできた金属の無垢棒にウエイトを取り付けただけのものでした。それも長さは長くて20インチ程度しかありませんでした。
 では、あれから30数年 素材や形状の変化とともにアーチャーがスタビライザーに求める性能はどのように変化してきたのでしょうか。

 スタビライザーは弓の安定度を高めると同時に、押し手にも負担を強いります。その時の押し手への負荷は、単に弓の重さ(総重量)だけでなく 「慣性モーメント」を考慮しなければなりません。アーチャーへの負担は 「長さ×重さ」 で両肩にのしかかってきます。そこで最初はその負担をより小さくすべくスタビライザーは軽量化へと向かいましたが、新素材の開発にともない単に 「軽く」 だけではなく、いかに 「効率良く」 「より高い安定度」を得るかにその目標が変化していきます。
 例えば1980年、それまで4本までと限られていたスタビライザーの本数制限が撤廃された後、一時は5本スタビライザーを使いより弓の動き(モーメント)を抑え解消しようとする動きが世界のトップアーチャーの中でありました。しかし、結局1年ほどでその流れは途絶えスタビライザーはルールにかかわらず最大で4本、1980年代に入ってからはエクステンションロッドの一般化により、逆に3本スタビライザーが主流を占めるようになったのです。
 このように、スタビライザーが仮に同じ効果(モーメントの解消や不良振動の吸収による的中精度の向上)をもたらすのであれば、アーチャーにとっては より軽く肩への負担が小さいほど効率は良く、長時間の試合や大きい緊張の中では一層有利な条件となるのです。
 現在、一般に販売されているスタビライザーは ほとんどが 「カーボン製」 です。これが主流になっている理由は「軽く」 「強度に優れる」 だけではなく、「振動吸収に優れる」 などの理由はあります。しかし「カーボン」だからすべての製品が優れる、あるいは同様の性能を有すると考えるのは大きな間違いです。アーチャーがもっとも注意を払い選択しなければならないのは、「カーボン」それ自体の中身(繊維の種類やその構成)と そこから生み出される性能なのです。
 例えば、「カーボンリム」 と呼ばれても そこには木やグラスファイバーも一緒に張り合わされています。スタビライザーにも同じことがいえるのです。カーボン繊維の量やその方向や品質によって性能は一変します。問題はそのスタビライザーが生み出すパフォーマンスが自分の射ち方に適しているかどうかということです。ぜひ、それを見極めてください。カーボン製だから、値段が高いから、というだけで高得点が得られるというものでは決してありません。逆に、カーボンだからうまくいかないということもあるのです。

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