スタビライザー考 2003

 近年、本当にスタビライザー(安定装置)のスタビリティー(安定性)が低下しています。
 ここで言うスタビライザーとは、ハンドルに取り付けられた棒状の突起物だけではなく、弓本体の出っ張りや重量配分もそれに属しています。(昔々、木製ワンピースボウの角のような突起部分やグリップ下部を重く設計したハンドル形状なども、それ自体スタビライザーと呼ばれました。) 弓とその付属品全体の安定性が低下しているのです。
 ハンドル形状に組み込まれたスタビライザーで言うなら、特にNC製法と呼ばれるアルミニュームを素材としたハンドルになってからがそうです。それまでのマグネシューム合金のダイキャスト製法なら素材自体の比重が小さいため軽く頑丈なハンドルを作ることが可能でした。ところがアルミニュームが素材となると、それまでと同じ形状では重くなりすぎ、折れやすかったりと問題を含んでいました。(そしてダイキャスト製法には金型に莫大な設備投資がかかり、ある程度の生産本数が不可欠です。) そこでメーカーはNC旋盤を使って1本1本作る穴開きハンドルを一般化させました。この製法ならメーカーにとっての金銭的リスクも小さく、クレームに対しても簡単に形状変更などの対策が打てます。その結果、今でこそ普通になった穴開きハンドルは、高性能の追求から生まれたものではなく、単に軽量化の必然性から生まれた形状にすぎないのです。しかしダイキャスト製法の時には不要だったこのような小細工はNC製法では両刃の剣となります。穴を開けて、かつ形状を細くする軽量化は、ハンドル強度(折損や曲がり)との戦いです。どこでその折り合いをつけるかがメーカーの苦心と決断なのです。
 そんな流れの中ではどこのメーカーもセールストークは軽量化と高強度、そしてデザインです。そこにはハンドル本来の性能とも言うべきスタビリティーは含まれていないのです。的中精度やアーチャーの安定感などといった「性能」を語るメーカーはヤマハを最後に消えてしまいました。値段、デザイン、色がすべて。最近では強度のために重さすら語られません。アーチャーに不可欠のスタビリティー効果は、弓本体のスタビライザーでは語られないのです。弓のスタビリティーは確実に低下しています。形状や重量配分からくる安定感もそうですが、不良振動の軽減や微振動の吸収といった性能もそこに含まれています。(蛇足ですが、マグネシューム素材の方がアルミニューム素材などより、素材本来が持つ振動吸収などの特性は高いのです。)

 では次に、一般に言われる棒状の後付けスタビライザーです。
 昔々、スタビライザーはチューブ(パイプ)ではなく無垢の金属棒でした。アルミニュームの棒に重りを取り付けたものでした。これがチューブ(中が中空)に変わり、素材が金属からカーボンに変わり、形状が棒状からテーパー状(先細り)に変わり、そしてなぜか再び現在のカーボンのチューブ(ストレートの棒状)になったのです。
 しかし正直これはおかしな話なのです。なぜかというと、今一般化し最も受け容れられているチューブですが、これはカーボンアローが一般化しだした1980年代に、より一層の的中精度を求め、弓の動きを完全に固定しようと思う意識から生まれた幻覚です。なぜならスタビライザーにはこの幻覚とは別に、求めなければならないいくつかの性能があるからです。
 たしかに弓本体に「棒」を取り付ける目的は、弓の動きを止めることです。それも矢の発射時の動きを止めることが第一の目的です。しかしこれは仮に100kgのハンドルで矢を発射するなら必要はありません。決してハンドルは動かないからです。ところが100kgのハンドルを片手で支えてエイミングできるアーチャーはいません。だからこそ軽いハンドルに効率良く、棒を取り付けるのです。しかし考えてみてください。よくある例え話に野球のバットを持って水平に保持する時、普通にグリップを持つのとバットを逆さまに持つのとでは、同じ重さのバットであるにもかかわらず肩に掛かる負荷がまったく異なるということがあります。(肩への負荷は長さ×重さで効いてきます。) ということは、100kgは無理でも100グラムのスタビライザーでも、その100グラムが棒の先端にあるのと根本にあるのとでは弓を止める働きだけでなく、アーチャーの負担(疲労)がまったく違うのです。アーチャーが100kgの重さを支え144射を平気でこなせるのならいいのですが、そうでないなら風や雨の中でも同じように一日中その弓をコントロールし、なおかつ弓の動きを止めてくれる長さや重量配分や形状のスタビライザーをアーチャーは選択しなければなりません。弓が止まればいいのではなく、コントロールして止めなければ意味がないのです。それがスタビライザーの第一の目的です。
 ではそれだけでいいのでしょうか。違います。ここで言っている弓の動きは、矢が発射された瞬間の大きな動きのことです。ところが実際にはアーチャーも知っているように、この大きな動き以上にアーチャーを悩ませ、的中に悪影響を及ぼす微震動があります。それはアーチャー自身が発生させる、押し手の震えです。ここで間違わないでください。この微振動は練習量や技能によって解消できると思っているアーチャーが多いことです。確かに努力やフォームによってこの微振動は軽減はされます。しかしゼロになることはあり得ないのです。生きた人間が弓を射つ限り、必ず発生する動きであることを前提に物事は考えなければなりません。ましてやあなたがオリンピック選手でないのなら、なおさらのことです。押し手は震え、弓も震えるのです。スタビライザーはこの微振動に対しても効果を発揮しなければスタビライザーではありません。先に言っておきます、このアーチャーの震えを増幅させてサイトピンに伝えるスタビライザーなら、それはスタビライザーとは呼びません。
 そこで話を戻しましょう。1980年代前半まで、世界中のアーチャーはより一層の的中精度を求めて、この微振動の解消に努力していました。(先の弓の大きな動きを止める中で、同時にこの微振動も止めようと試行錯誤していたのです。) それがカーボン素材であり、先端の細くなったテーパー形状のスタビライザーやダンパーやTFCと呼ばれるスタビライザー根本の可動化やハンドル形状でした。相反するようにも思えますが、スタビライザーを動かす(振るえさせる)ことによって、アーチャーの震えを消していたのです。ところが、なぜかカーボンアローによって高得点やパーフェクトが現実味を帯びだしてからというもの、世界のアーチャーは自分もスーパーマンになったような錯覚にとらわれだしたのです。矢がゴールドから外れるのは自分の震えが原因ではなく、発射時の弓の不良振動こそが原因であると思うようになってしまったのです。その瞬間からスタビライザーはストレート高剛性ロッドへと変化しました。人間の微振動は無視され、図面上の剛性とモーメントの解消だけが言われるようになりました。そこには個々のアーチャーの技能や技術は加味されていません。みんなが一握りのオリンピック選手と同じ道具を使って、ゴールドを外すようになってしまったのです。
 
 そして、ここでも「性能」は無視されました。メーカーの研究不足と利益追求、そしてアーチャーの無知がアーチェリーの進歩を遅らせたのです。
 例えば、あなたはスタビライザー(ロッド)をどのように選びましたか。メーカーですか、ロゴマークのデザインですか、色ですか、値段ですか、なんとなくですか?! 性能を考えましたか、性能を確認しましたか、性能を比較しましたか、性能と値段を天秤に掛けましたか? それはあなたに適したロッドですか???
 今、ロッドがストレート(すべての部分が同じ太さ)のロッドになってから、素人には外観がすべてになってしまったのです。そこにカーボンと書かれていればカーボンロッドだし、違う素材名が書かれていれば、それが入っているのかなぁと言った程度です。しかし同じカーボンと言っても、それは千差万別です。弾性率や破断強度、反発力や捩れ剛性は使うカーボン繊維や使い方によってまったく異なります。当然コストも天と地の差があります。しかし素人には見た目は同じカーボンロッドなのです。
 例えばストレートロッドになってから唯一語られる性能に「剛性」があります。弓の動きを止めるためにロッドがテーパー状からストレート状に変わったのですから、そこに求められたのは硬さです。曲がらないようにしたかったのであり、それが剛性が高いと言う表現になります。では、カーボンロッドはすべて剛性が高いかといえば、決してそうではありません。一番簡単な方法なら、センターロッドを折るつもりで膝に掛けて思いっきり曲げてみてください。本当に曲がらないロッドと結構柔らかいロッドがあるはずです。ストレートロッドで知る限りで一番硬かった(剛性が高かった)のはヤマハのURSと呼ばれた商品でしょう。値段が高いだけあって、本当に高剛性の高性能なカーボン繊維が多用されています。こんな性能にお金を払うのは許せるのですが、汎用のカーボンロッドをアーチェリー用に転用してデザインを施しただけの高価な高性能(?)カーボンロッドに投資をするのは、、、、です。
 しかしこれにしても剛性という特徴を買うのであって、求める性能が他にあるなら無駄使いだけでなく、金を払って矢をゴールドから外しているだけのことです。
 このことは単に複数ロッドだから剛性が高まるものではありません。確かに外径が大きければ(太ければ)剛性は高まるでしょうが、本数や1本1本の太さや硬さが重要な要素になります。また、本数が少なければセット位置によっては不良振動の原因にもなりかねません。
 「剛性」とは単に硬さであり、弓の大きな動きを止めるための性能にしかすぎません。シューティングマシン(機械)が矢を発射するなら、非常に有効な性能です。しかし生身のアーチャーにとってはここでも両刃の剣になります。これらのストレートロッドに書かれている NON RESONANCE などの宣伝は「共振を抑える」という意味です。しかしその性能を有するロッドは少なく、逆に硬いだけのロッドはアーチャーの震えを共振させてサイトピンやレストに伝える役目を果たします。あるいは高性能ロッドであったとしても、未熟なアーチャーにとってはそれが逆に悪影響を及ぼす道具以外の何ものでもありません。

 こんな画一的で一方的な性能を証明しているのが、リムセーバーやロッドの先に取り付けるゴム製の可動部品の登場です。とはいえ、これらは新しい発想や発明では決してありません。
 1970年代にすべてのアーチャーが使ったといっても過言ではない「カウンターバランス」と呼ばれたハンドルに付けた短い可動式スタビライザーとリムセーバーは同じものです。ハンドルが重くなった分、ゴムで軽量化を計ったのと取り付け位置がリムに移動したにすぎない道具です。あるいはセンタースタビライザーの先に取り付けられるゴムの可動部品も、1980年代にはヨーロッパの北欧の選手を中心に普通に使われていた道具です。ただあの時はゴムホースをスタビライザーの先に重りと一緒に付けていた違いはあります。しかしあの時の方が、今より微振動の吸収にも効果を発揮した高性能弓具だったのです。
 余談になりますがリムセーバーなるものが、その名称とともに競技ルールブックに2年余りで登場するなどは、これまでには考えられなかったことです。ところが某最大手弓具メーカーの社長がFITA(世界アーチェリー連盟)の会長に就任してからの不自然なルール変更は普通になってしまいました。今の競技やルールは選手不在であり、メーカー主導と言われても仕方がない状況です。それほどに近年、アーチャーや選手、消費者はメーカーに踊らされているのです。
 そしてこんな道具が必要になってしまった原因こそが、最初に述べたハンドルのスタビリティーの低下とスタビライザーロッドの高剛性化という偏った性能追求の証明なのです。良い弓、良いスタビライザー、良いセッティングの弓具にこんな取って付けたような付属品は必要ないのです。

 こんな愚痴ばかり言っていても仕方がないので、現実味のある夢のスタビライザーについて考えてみましょう。どんなスタビライザーなら、あなたの的中の手助けになってくれますか。
 まず第1の性能は、やはり矢の発射時の弓の大きな動きを止めることです。これは高剛性なロッドということでしょうが、長くなればなるほどあるいは先端を極端に重くしたのでは肩への負荷が大きくなります。そこで特に根本部分に超高剛性の素材を配することで、弓の動きを止めます。その時も、ロッド全体の重さは極力軽くすることで、先端の重りが一層効果を発揮するようにしなければなりません。
 第2の性能は、ロッド自体が微振動を吸収発散する構造を作ることです。これは根本部分の高剛性とは逆に、先端部分にしなやかさを持たせることです。しかしそれだけなら、昔のテーパー形状のロッドが有利ということになります。そこでここでは、第3の新たな性能としてスタビライザーが受けた振動を、揺り戻しというカタチでハンドルやサイトピンに伝えない振動減衰性能を素材とその組み合わせによってロッドの中に配することです。
 そしてもうひとつ。これらの高性能を25インチ程度の棒の中に共存させるのです。近年、例えば女子や非力なアーチャーにもメーカーは10インチものサイドロッドを売りつけます。センターロッドにしてもエクステンションロッドを加えれば30インチ近いロッドを使う高校生は普通になっています。これではアーチャーのコントロール性はすべて奪われてしまいます。同じ性能を得られるなら、道具は扱い易くコントロール性が高いことは、身体への負担を軽減し安定したシューティングを約束する重要な第4の性能です。高性能でコンパクトこそが求めるものです。
 これでどうですか。最後に第5の性能は低価格です。本来、高価であっても目指さなければならなかったこれらの性能が10数年置き去りにされてきました。そろそろ低価格でこの性能を手に入れてもいい時期ではありませんか。日本のアーチェリーのために。そして日本が世界のアーチェリーを変える第一歩として。。。。 (^o^)丿

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