ノッキングポイントのこと

 初心者の方から、「ノッキングポイントは最初からストリングには付いていないのですか?」というメイルをいただきました。
 弓を射とうと思う時、弓を買ってきてもすぐに使えるわけではありません。最低限いくつかのしなければならないことがあります。弓にストリングを張ること。レストをウインドウに貼ること。サイトを取り付けることなどと併せて、ストリングに「ノッキングポイント」を取り付けることも、アーチャー自身がしなければならない作業です。特にこのノッキングポイントは、その位置がそれぞれの弓、それぞれの射ち方によって全部違うために、アーチャー固有のチューニングということになります。

 ノッキングポイントとは、矢をつがえる位置に糸などを巻き付けて付ける印(?)のことです。矢(ノック)の上側だけであったり下側だけというように、片方だけに取り付ける場合もあれば、写真のように上下に付けることもあります。(一般的にはこのようにノックの上下に取り付けます。)
 これは弓を引く時や射つ時に、矢がストリングから外れないようにしっかり固定する役目と同時に、発射された矢が上下方向に蛇行(縦揺れ)するのを修正して、真っ直ぐに矢を飛ばす役目を持っています。
 そこで問題になるのは、取り付け位置です。
 ノッキングポイントの位置を言う時、「何ミリ上」といった表現を使います。これはストリングから直角に引いた線がレストに乗る位置を基準として、そこから何ミリ(インチ)上にノッキングポイントを付けるかということです。(黄色い線が白い線より、どれだけ上にあるかということです。)
 ここで疑問が生じます。なぜ直角位置ではなく、それより上にくるのか? 直角より下にはこないのか?
 これはアーチェリーという競技(道具)の特性からきています。アーチェリーの弓の場合、弓の力を支えるグリップ(ピボットポイント)と矢を支えるレスト位置(プレッシャーポイント)が同一線上にはありません。弓を持つ腕の中から矢を発射できれば理想なのですが、それは物理的に不可能です。そこで仕方なくこの2点には距離が生まれるのですが、その距離による誤差を埋める(修正する)ために弓のメーカーはこれらの2点位置を試行錯誤してきました。結果、ほとんどの弓のグリップは弓の長さ方向に対する中心位置より下部に存在するようになり、なおかつ上のリムよりも下のリムが強く作られるようになったのです。(それをアーチャーが目視する方法がティラーハイトです。) しかしそれらは机上の理論です。現実にアーチャーは3本の指という不自然なカタチで弓を引き、リリースでストリングに蛇行を与えます。そのためここで再び発生する発射時の誤差を修正するのが、ノッキングポイントの位置ということなのです。
 そのため現実問題として、上下バランスの狂ったリムや、ノックより上側を引いたりでもしない限り、必ずノッキングポイントは直角より上にくるものです。しかしいくら上といっても、2cmや3cm上ということはまずありません。いくら高いアーチャーでも15mm程度が上限でしょうか。
 
 そんなノッキングポイントの位置を決めたり、計ったりするのには「フィストメルゲージ」と呼ばれる、T 字型のモノサシのような道具を使います。(これはノッキングポイントだけでなく、ストリングハイトも計ることができます。)
 昔から、一般に初心者に教える時、「ノッキングポイントは直角より3ミリ上」と言われてきました(この場合はノックの中心線で言っているのでしょうか)。これは今も変わってはいないのですが、最近はもう少し高めに付けることもあるようです。
 しかし、ここで注意しなければならないことは、この表現(何ミリ上)が実際にはアーチャーそれぞれで異なっているということです。ノックの中心線で計っているアーチャーもいれば、ノックの上側で計っているアーチャーもいます。このことは矢の長さでも同じことが言えます。例えば、「自分の矢は28インチ」と言うアーチャーの矢を並べても、多分全部の矢の長さは微妙に違うはずです。メーカーはシャフトのカット面でスパインを論じますが、アーチャーはポイントの先端を基準にします。ノックの先端から計るアーチャーもいれば、ノックの溝の底を基準とする場合もあります。しかしそれがどうであれ、アーチャーにとっては今自分の使っている矢こそが絶対的な基準なのです。同じように、ノッキングポイントの位置も自分の位置こそが基準であり、それよりもっと高くするか低くするかでチューニングは行われていくものです。
 そのためアーチャーは、まずは初心者の教えに従って1個のノッキングポイントを取り付け、実射を行うことで矢飛びを見て自分に合った位置を探していくしかありません。ペーパーチューニングといった方法もありますが、フィンガーリリースの場合はある程度の距離で飛翔する矢を確認しながら、いろいろと試してみるのが良いでしょう。(自分で矢飛びを見ることができなければ、他のアーチャーに見てもらうのも必要なことです。) 発射時にポイントよりノックが下がって矢が出て行くようなら、少しノッキングポイントを高くするし、逆であれば低くします。
 このようにして、アーチャーは自分だけのノッキングポイントの位置を知ります。ただしそれが3mm上なのか10mm上なのかは、ティラーハイトの差や弓のメーカー以上にアーチャーの射ち方に影響されることを忘れてはなりません。ノッキングポイントの位置は弓具の種類やセッティングで決まるのではなく、ほとんどがアーチャーの射ち方で決まるものと理解するべきです。ノッキングポイントが高いアーチャーは、どんな弓を使っても高めになるのがよい例でしょう。

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