初心者指導マニュアル Final End

  Lesson 18
 練習で大切なのは、グルーピングの大きさと中心を見ること。
 では、習慣として身に付けておかなければならないのは、弓具のチェック(点検)だけでしょうか。実はもうひとつ、アーチャーも指導者もたえず注意を払っていなければならないことがあります。それはグルーピングの「大きさ」と、その「中心」です。
 スコアを取り始めたばかりの初心者にとっては1本1本の矢の行方に一喜一憂し、そのことに気を取られることは理解できます。しかしそれでは進歩の度合いが極めて遅いものになってしまいます。
 初心者指導とは本来、数本の矢を10点に飛ばすためのものではなく、グルーピングの大きさを徐々にではあっても、小さくしていくための手助けをするものです。「グルーピング」とは矢の集まりのことであり、初心者に限らずどんなレベルのアーチャーであっても、その技術の結果として作り出される矢の集まりの「大きさ」があるのです。例えば、30mで赤を射って不満を感じるアーチャーにとっての本来のグルーピングの大きさとはゴールド(直径16cm)程度の円かもしれません。初心者が的にバラバラに矢を飛ばしたとしても、それは今のレベルにおけるグルーピングの大きさが直径80cmの円に過ぎないだけなのかもしれません。グルーピングとはすべてのアーチャーに共通の大きさではなく、その時々によって異なる技術の結果にすぎないのです。だからこそアーチャーは、そして指導者は今作り出せる矢の集まりの大きさをまず知り、そして次にそれを小さくする努力を始めなければならないのです。それを思えば、ゴールドがすべてでもなければ、数本の矢がゴールドに行ったことなど大したことではないのです。
 例えばこの初心者の的(グルーピング)を見て、ゴールドに当たっていないことを責めるのは間違っています。指導者はグルーピングの大きさを見て、サイトを下げることを教えれば十分です。そのうえで赤に入る今の技術を、どうすれば8点あるいは9点以内にすることができるのかを教えればいいのです。また左右への広がりは弓具から来るものなのか、技術的問題なのか、あるいは今は考える必要がないのかを判断すればいいでしょう。
 ここで知っておかなければならないことがあります。それはどんなグルーピングにも「中心」があることです。意識、無意識に関わらず、このグルーピングを見てサイト位置を下げさせたのは、グルーピングの中心が6時の7点から8点の間にあると感じたからにほかなりません。もし80cmの的に上下左右関係なくバラバラに矢が刺さったとするなら、それは60点出たパーフェクトの的と何ら違いのない、グルーピングの中心は10点(ゴールド)なのです。どちらもサイトを動かす必要はありません。指導者はサイトを動かすことなく、正しい技術指導に専念すればいいのです。
 では初心者にグルーピングを見ることをどうして教えればいいのか。一番簡単でいい方法は、ひとりのアーチャーに1的を与え、いつも新品の的紙を使わせることです。このことはエイミングの練習にも非常に役立ちます。初心者だから適当な的紙で良いのではなく、初心者にこそきれいな的紙でしっかりとした指導に努めるべきです。

 

  Lesson 19
 ミスをカバーするチューニングより、狙ったところに矢が飛ぶチューニング。
 初心者も自分の弓矢を持つようになると、今までのような貸し与えられた道具の時とは違って、自分でチェックとチューニングを行わなければならなくなります。なかでもまずしなければならないのは、矢飛びに関連するチェックとチューニングです。
 とは言っても、初心者が矢飛びを見たり、その現象について判断を下すことは簡単ではありません。そこで近年普及(?)してきた「ベアシャフトチューニング」というハネを貼らないシャフトだけをシュートして弓具の選択やチューニングをする方法があります。しかしここではあえてこの方法は薦めません。なぜならこの方法で結果を出すには、初心者のシューティングが未完成であり、技術的レベルがまだ低すぎるからです。またこの方法自体が、あくまでも目安であり、完璧な矢飛びや的中を万人に約束するものではないからです。
 では、どうするのか。確かに矢飛びをきれいにすることは必要ですが初心者に対しては、まず狙った場所に矢が飛んでくれるチューニングを心掛けるべきです。正しいシューティングをしていないのに、矢が10点に行ったのでは「何が正しく、良いシューティングなのか」が見えなくなり、逆にレベルアップの妨げになってしまいます。
 狙ったところに矢が飛んでくれるチューニングとは、簡単に言えば近年のように多くの道具が登場する以前のシンプルなチューニングと考えれば良いでしょう。昔はプランジャーがなくても矢は飛んだし、適正なスパインの矢を選択しセンターショットを与えれば、矢は思いどおりのところに的中しました。スタビライザーもダンパーを硬くした方が、弓の不自然な動きを抑えられました。弓具はシンプルであればあるほど、アーチャーのシューティングと技術をそのまま的面に反映してくれるのです。
 もうひとつ、指導者が留意すべき点があります。先にも述べたように、グルーピングを知るのと同様に可能な限り新しい的紙を使うことです。そのうえでエイミングの何たるかを教え、リリースの瞬間までゴールドとサイトピンを見切ることを指導するのです。「的中予想点(場所)」と実際のターゲット上での「的中点(矢の刺さった位置)」の一致を確認できるようにすることから、レベルアップは始まります。
 正しいチューニングで正しいシューティングをすれば、矢はサイトピンの付いていた位置に的中する。このことが初心者にとっては、ミスをカバーするチューニングよりはるかに重要であり、後々好結果を導き出してくれるのです。

 

  Lesson 20
 悪いシューティングを叱る前に、グッドシューティングを誉める。
 フォームや技術が確立していない初心者に対し、指導者の仕事は当然その欠点の指摘と矯正が多くなるのですが、実際初心者に欠点を指摘するだけでは期待するほどの向上は望めません。事実、指摘された欠点自体が理解できない初心者は少なくありません。そこで、良いシューティングができた時に、そのことをアーチャーに伝えてやることが指導者の最も大切な仕事となります。
 良いシューティングを教え、そこから発展させていくことこそが指導とレベルアップの目的です。もちろん悪いシューティングを指摘することも必要ですが、それだけで良いシューティングを教えることはできません。最初は漠然としたカタチであっても、指導者は初心者の目標となるような良いシューティングを提示する必要があります。初心者は指導者の「グッドシューティング」の声に、それが最初は一日1射であったとしても、それをイメージしそこに近づく努力をすることで、少しづづ本数を増やせるのです。
 目標を見つけ、目標に向かってシューティングを繰り返すことで、初心者の頭の中には理想のシューティングフォームとイメージが組み立てられていくのです。

 

  Lesson 21
 矢は柔らかめより硬め。ノッキングポイントは低めより高め。
 弓具のチューニングは目的が同じであっても、やり方や内容は個々のアーチャーによって千差万別です。そんな中にあって、まず間違いのない万人に共通する間違いのないチューニングを紹介しましょう。
 まず矢について。初心者のスパイン選択にあたって、多くの指導者が参考にするのがシャフトメーカーが提供する「スパインチャート表」と指導者の経験則です。しかし実際には、実質ポンド数が同じで使用する道具がすべて共通であったとしても、アーチャーの射ち方や技術によって状況は一変してしまいます。
 そこでスパイン選択に迷いが生じた時には、カーボン、アルミに関わらず「柔らかめより硬めの矢」を選ぶ方が良いでしょう。柔らかめの矢をチューニングするより、硬めの矢をチューニングする方がキレイに飛ばせる範囲が広いばかりか、ターゲット上での小さいグルーピングを導き易くなります。
 そしてもうひとつ。ノッキングポイントに関しても正確な取り付け位置が決められない時、分らない時は低めより高めに取り付けるようにしましょう。その方がスパイン選択同様に矢のバラツキを小さいものにしてくれるはずです。
 初心者にとっての完璧なチューニングは、技術が完成してからでも決して遅くはありません。まずは自分のシューティングがそのままターゲットに反映できるチューニングのなかでレベルアップを図りましょう。

 

  Lesson 22
 意識の中に壁を作らず、壁を取り払う練習。
 この頃になると、そろそろ初心者も試合を経験するようになります。そうなると当然練習でもスコアが気になり、的中位置に対する意識が高まってきます。そんな時期にあって、指導者は初心者に対して無意識に壁(限界点)を作っているということはないでしょうか。
 例えば、30mであれば300点。もう少し後になれば、50+30mで600点といった点数を通過点としての目標ではなく、最終目標のように設定してはいないでしょうか。ところが指導者の中には、知らず知らずのうちにそれらの点数が何か特別の点数であるかのように初心者に教え込んで(意識付け)しまっている人も少なくはありません。
 確かに1970年代なら30mの300点は初心者にとっても、とてつもないスコアだったでしょう。しかし今では、正しい練習さえすれば何ヶ月かで記録できる普通の点数です。600点も然りです。そのことを指導者はまず十分に理解するべきです。そのうえで無意味な壁は極力排除し、より高い目標に初心者を導く必要があります。
 初心者のスコアノートを見ると、各エンド(6射)ごとにプラスマイナス計算で記入していることがよくあります。それは決して悪いことではないのですが、例えば52点であれば+2のように、そのほとんどが自分が射てる点数を基準にしています。50平均で付ける場合は、300点前後というようにです。多分これは計算のし易さからそうしているのでしょう。しかし、このやり方ではアーチャーは無意識に300点、あるいは50点を自分の中の目標に置いてしまいます。それはイコール300点の壁なのです。
 そんな時、例えば毎回マイナスが続いたとしても55点平均でスコアを付けさせてはどうでしょう。最初はマイナス30点を越える点数であったとしても、ある時期から平気で300点は超えるようになり、やがて330点の目標に徐々に近づくようになるはずです。
 初心者にとってはフォームだけではなく「心の訓練(練習)」も、指導者は与えなければなりません。

 

  Lesson 23
 クリッカーを新たな技術と考えない。
 試合に出るようになると、初心者は新たな道具(ステップ)に遭遇します。それがクリッカーです。
 この道具は初心者にとって、魔法の道具のように映っているのかもしれません。先輩たちはみんなそれを使い、試合に出て好記録を出している。あれを使えばフォームも安定し、試合にも出られるし、凄い点数が出せる・・・・、と錯覚しているかもしれません。しかし先輩や指導者は、それが魔法でないことを知っているはずです。現実には、クリッカーは矢尺(引きの長さ)を一定さす道具であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。
 では、そんなクリッカーを指導者は「いつ」初心者に付けさせればよいのか。その前にひとつ注意しなければならないことがあります。それは少なからぬ指導者が、クリッカーとはそれまでの初心者指導とは別の部分に存在する新たなテクニックであると考えていることです。確かに新たなステップではあるのですが、新たな技術と考えるのは間違いです。クリッカーは、ここまでに教えてきた初心者指導の延長にあり、それまでの基本がしっかりマスターできていれば簡単に使える道具だと理解するべきです。伸びることも、張ることも、すべてこれまでに教えてきたはずだからです。
 例えば初心者が近射で矢を射ち始めた頃、指導者はその矢先が必ず引き込まれてから発射するように教えたはずです。そのために必要なのが左右への張りであり、伸び合いであり緊張だったはずです。それらはクリッカーがないことへの対応ではなく、将来クリッカーを使った時にこそ必要な技術であり、指導だったのです。このことが初心者に理解されマスターできていたなら、クリッカーはいつ付けてもいいのです。指導者は正しい位置にクリッカーをセットしてやればいいだけです。
 ところが多くの初心者と指導者は、この一枚の金属の板に過大な期待を寄せたり、悩んだりするのです。あるいはその板を鳴らしさえすれば、すべてが魔法のように完成すると勘違いするのです。
 クリッカーも矢も、弓も、すべてが道具です。道具であるからこそ、道具に使われるのではなく、使いこなしてこそ本来の性能が発揮できるのです。アーチェリーに魔法などひとつもないのです。そのことを、今一度考えてはどうでしょうか。

 

  Lesson 24
 練習では必ず目的を持ち、何のための練習かを理解させる。
 練習であっても試合であっても、アーチャーはシューティングラインをまたぐ時は必ず「目的意識」(テーマ)を持たなければなりません。特に初心者にはこのことを繰り返し教える必要があります。何のために今自分は射っているのか。どうして今○○を意識しているのか・・・・。こうした目的意識がなければ、決して実りある練習にはなりません。
 そこでまず指導者は練習の中身について考える必要があります。練習方法には大別して、「反復練習法」と「試合形式練習法」のふたつがあると考えれば分り易いでしょう。しかし多くの指導者はこれらを混同して考えています。
 反復練習法とは普段一般に行われている「練習」と呼ばれている、弓を射つ方法です。同じ動作を繰り返す(反復)ことによって、フォームをマスターしたり技術や技能を高めることを目的としています。この練習の時には、得点(スコア)のことを考える必要はまったくありません。目先の点数や勝ち負けではなく、自分自身の向上を考えるのです。
 一方、試合形式練習法では、目的はあくまでも試合での実力発揮であり、例えば練習試合や紅白戦などもこれに含まれます。こちらは反復練習とは異なり、本番と同じようにスコアや順位を貼り出し、時間を計り、試合により近い状況を作り出します。そんな中で自分のシューティングや心の変化、あるいは欠点を知ることができます。ここではいかに当てるか、いかに勝つかが問題となります。そしてそんな中から確認、反省したことを再び反復練習法で鍛え直すのです。試合形式練習法は、より本番に近い状況設定の中から、自分の状態を見極め、そこから一層のレベルアップを目指すためのものです。
 これらふたつの練習方法は、どちらが良いというものではありません。どちらが欠けても良くないのです。選手の状態やクラブの状況に合わせてうまく組み合わせることによって、より高い成果が期待できるのです。
 例えばまだ基本をマスターしていない初心者に試合形式練習法ばかりを繰り返しても意味がありません。その段階であれば反復練習法をしっかりと行うことで、まずは技術的に満足のいくレベルまで達します。そこで初めて試合形式練習法が必要になってくるのです。逆に技術的に完成された選手に対しては、反復練習法よりも試合形式練習法を行うことで、試合での実力発揮や反復練習法におけるテーマが明確なものとなってきます。
 そしてこれらの練習の目的なり課題は、指導者としてあらかじめ初心者に対して説明しておく必要があります。初心者だからといって、単に弓を射ってさえいればよいというものでは決してありません。お互いなにを目的として練習しているのかを知り、納得することで初めて練習の成果が上がるのです。

 

  Lesson 25
 指導の原点は信頼関係であり、それは対話から始まる。
 指導者に求められる要素には、経験や知識だけではなく多くのものがあります。しかしそんな中で、最も大切なものは「信頼関係」です。指導者の原点は、教える者と教えられる者との信頼関係の上に成り立っていると言っても過言ではありません。
 特に指導する相手がまったくの初心者でない場合には、この信頼関係は一層重要になってきます。指導者がたとえ正しいことを言ったとしても、相手が信用していなければ熱心に聞こうとはしないでしょうし、逆に間違ったことであったとしても、そこに信頼があれば好結果に結び付くこともよくあります。
 ではその信頼関係をどのように構築していくのか。それは自分が初心者だった時のことを思い出してみるといいでしょう。一生懸命リリースのことで悩んでいる時に、ろくに見もせずに押し手が悪いと一言言われて信用ができたでしょうか。その指導に対する不信感に加えて、自分のフォームに対する混乱も生まれたのではありませんか。このようなトラブルはすべてコミュニケーションの欠如からきています。
 まずは「会話」を持つこと。「対話」から指導は始まるのです。
 「今のテーマは何?」「シューティングで気を付けているところはどこ?」「今、何を考えて射っている?!」・・・・・。まずは聞いてみることです。そうすれば、そこから会話が始まり、指導がはじまるのです。指導は一方通行や押し付けであってはなりません。対話から信頼関係が生まれ、双方の理解から一層のレベルアップが可能になってくるのです。指導者は何よりもまず、このことを肝に銘じておく必要があるのです。

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