「X10」の独り言

 近年、とはいっても1989年からですが。「カーボンアロー」というものが登場してから、弓の性能だけでなく矢の性能も見えづらくなってきました。それ以前は「アルミアロー」の時代です。
 例えば、アルミの矢では男子が90mを飛ばすにはシューティング技術もそうですが、ある程度の弓の強さがなければ90mのサイトが取れませんでした。サイトピンをシャフトまで下げても飛ばなかったのです。男子であれば表示で38ポンド、女子の70mであれば表示で34ポンド以上の弓を使わないと試合に出られませんでした。的まで届かないのですから。
 太い重いアルミの矢を90m飛ばし勝つには、シューティング技術と併せて体格や体力が不可欠です。身長(矢の長さ)が伸びないなら、強い弓を使う技術と努力と資質が必要だったのです。それでも世界で勝つには、同じ強さでもより速く安定して飛ぶ弓をはじめとした道具の「性能」「アドバンテージ」が不可欠です。この現実は90mを矢が届くか届かないかという客観的絶対的条件で誰もが見る(体感)ことができ、素人でも判断できたのです。
 ところが今は、矢の軽さのお陰で何を使っても余裕で男も女も年寄りも70mを矢が飛んでくれます。男子でも表示34ポンドで70mが飛んでしまう時代です。そのために性能の比較が容易にできなくなりました。というより、的に乗ることで性能が何たるかを忘れてしまいました。どんな性能の悪い弓でも矢が的に届くことで、メーカーもそれを良いことにデータの公表もせず、より良い製品開発を行う努力を怠っています。
 そこで今回はEASTONの最上級競技用アロー「X10」の独り言です。
 ご存知のように、ターゲット競技用の矢は現在「カーボン」シャフトが使われています。そしてその作り方や素材はシートローリング製法による「オールカーボン」シャフトが主流です。主流という意味は、アーチェリーという狭い世界ではなく例えば宇宙産業や自動車産業、スポーツではゴルフやテニスといったカーボンを素材とする道具を使う世界などなど、世の中全般においての使われ方ということです。そんな世の中ではカーボンとアルミだけでなく、硬さや熱による伸縮率の大きく異なる素材を貼り合わせて使うことはほとんど(まず)ありません。
 ところが、アーチェリーという狭い世界においては、アルミ素材メーカーとして発展を遂げてきたEASTONという独占企業だけが「アルミコアカーボン」シャフトというアルミチューブにカーボンシートを貼り付けた特殊な素材を使っています。アーチェリーの世界にいるとこれが当たり前のように思うほど、狭いアーチェリーという世界のそのまた中の狭いターゲットアーチェリーという世界においてだけ寡占状態で使われている素材のことです。
 なのですが、今回はそのことはさて置いてです。非常に高価な「X10」というシャフトを使うと、とんでもなくサイト位置が下がることはご存知のとおりです。「ACE」でも下がりますが、それ以上に下がります。言葉を変えれば、異常に飛ばないシャフトなのです。理由はカーボン素材だけでなく、中にアルミニュームという金属を配して、重くなっているせいです。この理由をEASTONは「断面荷重」という投影断面積あたりの重さが大きいことを上げます。それによって風に打ち勝つ力が強く、70mでは有利だというのです。
 間違いではないかもしれません。確かに世界チャンピオンのほとんどの選手が使っています。当たる矢なんでしょう。しかし、あなたのとなりにいる、試合で地面を射ったり、練習で黄色にほとんど当たらないアーチャーの多くもこの「X10」というとんでもなく高い矢を使っています。なぜチャンピオンもヘタクソも使えるのか。その理由は「X10」も「ACE」もカーボンアローではなく、「アルミ半分アロー」だからなのです。ここでカーボンアローとは、他の素材を含まない純粋にカーボン100%でできた「オールカーボンアロー」のことです。それに対して「X10」も「ACE」も、アルミが半分を占めるシャフトです。
 本来オールカーボンのメリットは、軽さによる圧倒的な速さです。速く、低く、滞空時間が短く、風の影響も受けずに瞬時に的面に到達することです。また、剛性と振動吸収性の良さによるアーチャーズパラドックス解消と復元力の速さ、そして耐久性です。これは昔同様に非力な日本人や体格の劣る選手にとっては、とんでもなく大きなアドバンテージとなるものです。しかし裏を返せば、技術の伴わないアーチャーにとっては、ミスを大きくしチューニングもシビア(1サイズが使用できるポンド幅が狭いという意味を踏まえて)で、扱いにくいという言い方もできます。
 それに対しての「アルミ半分アロー」は、重いがゆえに高く飛び、滞空時間が長く、サイトが低く、鈍く、矢のたわみも大きく、復元にも時間が掛かります。まるでカーボンアローより「アルミアロー」に近い性質を持っています。しかし言葉を変えれば、重くゆっくり安定して飛び、矢もゆっくりしっかりしなるために、多少スパインが合っていなくてもレストでのトラブルがあまりなく、1サイズがカバーできるポンド幅が広く、チューニングも簡単、、、だから、世界チャンピオンも使いますが、初心者でも使える矢なのです。と、そんなことを言っても聞いてはもらえないでしょうから。
 ここからは「オールカーボンアロー」の独り言です。
 Victoryの「VAP」というオールカーボンアローを使っているのですが、先に書いたオールカーボンのアドバンテージをあえて無視して、去年から重いオールカーボンシャフトを使い出したのです。とはいえシャフトは同じです。重くする方法はポイントを重くするしかありません。
 たぶん「X10」を使うアーチャーは「120グレイン」のポイントは重い方か、あるいは一般に使う重さでしょう。そこで以前使っていた「X10-500」完成矢の重さを計ったところ「22.35グラム」ありました。それに対して、去年の春から「VAP-600」の矢を作るたびに120グレインから10グレインずつ重くしていき、去年末に150グレイン。そして今年用に先日作った矢に「160グレイン」のポイントを付けてみたのです。一般的には使わない重いポイントです。
 あとで計って驚いたのですが、オールカーボンシャフトに160グレインのポイントを付けても、総重量は「21.49グラム」でした。普通のX10よりまだ「17グレイン」も軽いのです。
 
 この矢がなかなかいいのです。集まるし、当たるし、ミスも出ないのです。130グレインくらいに比べても、ぜんぜんいいのです。
 先にごめんなさいを言います。正直そんなにうまくないのに、軽さによるアドバンテージを求めすぎていたのかもしれません。オールカーボンで最初から「X10」のようなアルミ的性格を求めれば、矢飛びがキレイでグルーピングも満足いくものです。ミスも出ません。オールカーボンシャフトのアドバンテージと性能は高く評価します。しかし使いこなせなければ意味がありません。そこでX10と同じ重さまでポイントを重くすれば、安定はX10と同じです。なら、オールカーボンシャフトのアドバンテージは? と問われれば、X10にはない新たなアドバンテージが見つかったのです。
 それが「トップヘビー」です。
 「FOC」という矢のセンターから重心位置がどれだけ前(ポイント側)にあるかの指標があります。X10であれば9.5センチほどで「12.60%」です。それに対してオールカーボンで総重量を同じくらいにすれば(実際には少し軽いですが)14センチ「18.80%」前が重くなります。このトップヘビーのアドバンテージが矢を安定させ、なおかつ的中精度を向上させているのでしょう。
 X10と同じようにサイトは低くなります。しかし、X10よりトップヘビーでオールカーボンのアドバンテージが得られます。もしX10でFOCを18%くらいに持ってこようとすれば総重量が重くなりすぎて失速してしまいます。
 ということで、もし今度オールカーボンシャフトで矢を作ることがあるなら、ぜひチャート表に従わずに男子なら150グレイン前後、女子でも120グレイン以上の重いポイントで試してみてください。X10と同じ総重量が目安です。
 ぜったいオススメします。という、独り言でした。。。

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