ノックのカタチの話(後編)

 「Werner Beiter」社は今ではクッションプランジャーやレスト、スタビライザーなどなどを製作するドイツのアーチェリーメーカーです。一昨年その創設者であるWerner Beiter氏が亡くなりましたが(2014年11月25日没)、もともとこの会社は樹脂で作った歯車や医療器具の専門メーカーです。精密金型やポリカーボネートのトップブランドであり、アーチェリーメーカーとしてのスタートは1985年の「バイターノック」から始まっているのです。
 そんなBeiter製に限らず、樹脂製のノックは金型で作られます。作るだけなら○国でも△国製でもいいのですが、精度を求めるなら費用も技術も設備も不可欠です。そしてノックは精度が命です。Beiterが最初にノックを作ったのには、それなりに意味があったというわけです。特に「アウトノック」です。見れば分かるとおりですが、形状からして単純な割り型で作れるインノックとは少し違います。
 そんなBeiterの技術で作られたのが、ちょっと○国では作れないBeiterだけの「ピンアウトノック」と「インアウトノック」です。これらはインノックとアウトノックの利点を併せ持つ形状ですが、その前に「ピンノック」について話す必要があります。
 アウトノックもインノックもそのままシャフトに差し込むか、かぶせるかですが、唯一「ピンノック」だけがシャフトとノックの間にアルミでできた「ノックピン」(英語では「Pin Bushing」と言います)という別のパーツを挟みます。これによってアルミシャフトにテーパーを作るのと同じ役目をするわけです。実際、ピンノックが最初にできたのは「BEMAN」の時です。BEMANの終焉の頃にはEASTONより早くノックピンが作られ、使われていました。
 形状からも分かるように、ノックピン(ピンノック)はアルミシャフトの延長として考え出されました。今でこそインドア競技は1スポットに対して1本の矢しか刺さりません。ところが昔アルミアローの時代では、アウトドア同様に1スポットに3本の矢を射つのが普通でした。となればもちろん矢は壊れます。しかし壊れるだけならいいのですが、1点を争うあるいはパーフェクトを狙うレベルにおいては継ぎ矢なら10点ですが、ノックで弾かれて9点に行くことは致命傷でした。そこでシャフトの「テーパー形状」には大きな意味がありました。
 しかしそれだけでは不十分と考えるアーチャーもいました。アメリカのプロ選手や300点を目指すアーチャーは、アルミシャフトのテーパーの先を切り落として、その上にノックを接着したのです。ノックに当たった矢をあえて継ぎ矢にすることで、矢より10点を捉えることを最優先としたのです。その発想は今の「ユニブッシング」へと引き継がれます。
 「ノックピン」の目的がシャフトを守ることと思っているアーチャーも多いのでしょうが、それが第一の目的ではないのです。ノックが小さいことと併せて、後の矢を大きくそらさないことこそがノックピンを使う意味です。使っているアーチャーは分かっているでしょうが、ノックピンでもシャフトがダメになるし、インノックでもシャフトまで傷まない時はいっぱいあるのです。
 しかし昔、アルミアローの時代に無神経にノックを付けていたアーチャーと同じように、今も何も考えずノックピンを使うことがトップアーチャーの証のように思っているアーチャーがたくさんいます。彼らはアウトノックとインノックのお陰で、ノックはシャフトに差し込めば「真っ直ぐ」付いていると勘違いしています。付いていることと、真っ直ぐ付いていることでは雲泥の差があるのですが、アーチェリーの技術にも雲泥の差があるため、それが及ぼす的中精度については実感できないのでしょう。
 しかし、ピンノックはノックピンが間に入る分、インノックやアウトノックより傾けて取り付ける可能性がはるかに高いのです。それにノックピンの長さはノックの軸部分の長さより短くできています。よほど注意してノックピンを固定しないと、永遠にその矢のノックは傾いていることになります。
 そこで少し話を戻しますが、バイターノック独自のインアウトノックとピンアウトノックはシャフトの内と外からノックをカバーすることで、真っ直ぐに支える精度と併せて、シャフトも守るという利点を持っています。個人的には非常に気に入ったアイデアです。
 では、ノックピンもノックも真っ直ぐにシャフトに取り付けられている、としての話です。
 ノックはインかアウトかという話からですが、まずコンパウンドアーチャーはあまり「アウトノック」を使いません。その最大の理由は、コンパウンドの場合発射時にほとんどアーチャーズパラドックスが起こらず、ほとんど真っ直ぐにレスト部分を通過することがあります。このように完璧にチューニングされている弓においては、「ドロップアウェイタイプ」(レストのツメ部分が発射と同時に下に落ちるタイプ)でなければ、シャフトより外径の大きいノックでは、その縁がレストのツメに接触していく可能性があるからです。ハネ同様に的中精度に悪影響を及ぼすレストでのトラブルを避ける目的からです。
 それに対して、リカーブボウではアーチャーズパラドックスが前提になるため、シャフトからの出っ張りはほとんど無視してよい状況です。インもアウトも同じですが、そんな中でアウトノックを結構多くのリカーブアーチャーが使う理由です。それは「視認性」です。もちろんアウトノックの方が大きいので、後から来た矢を弾く確率も大きいでしょう。しかしノックが大きい分、スコープでの確認だけでなく目視においても的中位置や他のアーチャーとの矢の違いを認識しやすいのです。ましてや、透明のアウトノックはよく光ります。
 しかし余談ですが、個人的にはノックピンの曲がりに注意を払うのがわずらわしいので(これは最初に矢を作った時点だけでなく、試合で矢取りのたびに毎回という意味です)、「インノック」を使いますが、その場合でも「透明のノック」しか使いません。理由は見やすいという視認性だけでなく、不透明ではノックの割れ(クラック)が分かりづらいのに対して、透明はその発見が簡単です。シャフトから浮いていてもすぐに分かります。不透明のアウトノックは見るだけでは浮きが分かりません。そして、一般的になぜか同じノックでも不透明より透明の素材の方が「硬く」なっています。使っていて曲がってき難いからです。(ノックは毎回の点検だけでなく、定期的に交換するべき消耗品です。)
 とはいえ、色の好みもあるでしょうし、グリーンが光るといってもみんながグリーンなら区別が付きません。ハネの色と併せて、自分の矢を確認できるようにすることが一番大切です。その意味では他人が使っていない形状や色を使うのも大事な選択です。
 最後になりましたが、インもアウトもそしてアルミコアもオールカーボンも条件は同じなのですが、ノックの選び方にはシャフトによって組み合わせや相性があることも忘れないでください。それはシャフトのサイズ(スパイン)や製法などからくるものです。
 詳しくは別のところで書きますが、アウトとイン(かぶせるか差し込むか)での取り付け精度の差はありません。しかし、ノックとシャフトのそれぞれの寸法や精度によってバラツキがでることも確かです。例えば、アルミコアの場合、内径はアルミチューブのため安定はしますが、外径は研磨するためバラツキます。ましてや「たる型」であれば、カットした部分によって外径は異なって当然です。
 インもアウトもノックのスカスカについては、こちらをご覧ください。アウトノックについてもこのようにいろいろあります。また、アルミコアであっても入らないものもあります。
 ということで、ともかくはノックは真っ直ぐに取り付けてください。よろしくお願いします。ちなみに最近金属製のノックができてきたのは、クロスボウなどでコンパウンドボウのように滑車が付いて、非常に高ポンドになったためノックが割れたり曲がってきたりすることへの対応策です。ポリカーボネートにも意味はあるわけです。

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