弓のうんざり「3rd Axis」(3rd)

 それではいよいよ本題の弓の「3rd Axis」です。今まで世の中には「1st-2ndAxis」までしかなかったのです。ところが今年、「3rdAxis」なる機能が登場しました。
 「1stAxis」が性能の問題なら、「2ndAxis」は精度の問題です。そして「3rdAxis」は品質と品位。メーカーの良識の問題なのです。10万円近い商品がこの程度の性能で、こんな精度で選択肢もなく平気で売られている現実の中。崇高なスタンダード、ヤマハとホイットが築いてきた世界標準が地に落ちた今、こんな節操のないどうしようもない機能が性能です、これからの時代の最高の商品ですと言われても勘弁して欲しいのですが、どう思いますか?
 テイクダウンボウのメリットとは何でしょうか。昔、ワンピースボウの時代、アーチャーは今の和弓のように長い弓を持ち運んでいました。木製のためグリップの加工はハンドルそのものを削るしかありません。もし弓が折れれば、まったく同じ弓との交換は容易ではありません。そんな状況でテイクダウンボウは、持ち運びの便利さに加え、グリップを含めハンドルやリムが問題を起こしても、その場で部分的に交換できるという対応力がありました。それらはすべてアーチャーにとってのメリットであり、アーチャーの要望と必然から生まれたものです。
 ところが1980年代後半、切磋琢磨し高めあってきたHoytがヤマハに追い詰まられた頃から状況が変わってきます。そして2002年のヤマハの撤退で状況は一変しました。それまで、こんな精度や品質では売れないでしょうといわれていた商品が、精度も品質もそのままに低価格を武器に一気に広まります。スタンダード(世界標準)が一気に低下したのです。それだけならまだしも、なぜかそれらのメーカーの営業は「安いと売れないんですよ」と平気な顔で言うようになります。本物を知らない世代に、平気でニセモノを高くで売る時代になってしまったのです。
 それが証拠の「1st-2ndAxis」、そして今回の「3rdAxis」です。これらはすべてアーチャーの要望からではなく、メーカーの都合から始まったものです。作りやすく、歩留まりよく、在庫が少なく、誤差大きく、クレームを言わさない。それでいて、性能も品質も問わない。なんとうんざりするほどすばらしい商品でしょうか。
 
 弓の「3rdAxis」(3軸)を「ツイスト調整」と呼んでみましょう。
 たしかにメーカーは表向き、この調整機構を性能とは言っていないかもしれません。イレギュラーな(品質の悪い)リムに対しても、このすばらしい最上級モデルのハンドルは対応できますと言っているのかも知れません。しかしここを動かさなければならない状況とは何でしょうか? そしてここをユーザーが動かすことが本当に適切なのでしょうか? それにこれを使う時、そのツイストの原因はリムではなくハンドルそのものにある可能性もあります。こんな機能が付けば、これまでの捩れたりバランスの悪い、ポンドもいい加減なリムを出荷できるのに加え、捩れたハンドルも出荷できることになります。
 実はこの調整が必要なハンドルがこれまでなかったわけではありません。今の金属製のハンドルはアルミ素材をNCマシンという機械で削り出して作ります。この高精度なNCマシンは日本の技術であり、Hoytも○国メーカーも日本製のNCマシンを使っています。そんな中で「カーボンハンドル」と呼ばれる金属製でないコンポジットハンドルも存在します。これは1987年にヤマハが最初に製品化したハンドルですが、実は非常にコストも掛かり、設備もノウハウも技術力も必要とする製品です。NCマシンのようにデータを入力してボタンを押すような、○国でやっつけ仕事でできる技術ではありません。
 そんなカーボンハンドルの現物を見ると、製品によってはハンドル差し込み部分の3rd Axis調整にスペーサー(あるいは高さの調整)が使われています。ところがその厚さ(左右の高さ)が目視でも分かるくらいに異なっているものが多くあります。できあがったハンドルを、出荷前にメーカーが調整して商品として送り出しているのです。これをQualityと呼ぶか品質管理と呼ぶか、調整と呼ぶか、クレームと呼ぶかはともかくとして、その製品が潜在的に持っている誤差あるいはメーカーの技術です。

 ところが今回の「ツイスト調整」は、出荷後の製品に対してユーザーがこれを行えるというのです。もしメーカーがするのは悪くて、ユーザーにもできる機能はすばらしいと言うのであれば本末転倒もはなはだしく、メーカーの良識と品質を疑うしかありません。こんなことまでユーザーにさせる、そして起こりうるといっているのなら、メーカーの責任放棄もはなはだしいとしか言いようがありません。今までできていたことをしないと言っているのですから。
 もしこの機能を使う状況が発生したなら、それはよほどそのハンドルかリムがツイストしているということです。この機能によってメーカーは本来出荷しなかった商品を出荷し、ユーザーはクレームとして返品することもできずに自己責任とされる可能性があります。

 いいや、そんなことはない。メーカーが出したのだから、Hoytだから素晴らしい、という考えは今では大間違いです。例えば昨年のHoytにこんなインチキな道具があります。この時はこんなルール違反が認められるのはおかしい、という話の中で少し弓をやっていればリカーブにおいてこんな機能が性能には寄与しないでしょうという予言を書いたつもりです。あれからたった1年、インチキルールは野放しですが、予言どおりその性能に魅力を感じないからこそ誰も使わず広まらなかったのが現実です。このような商品が今は、Hoytに限らず○国の各メーカーから毎年出ては数年ももたずに消えていきます。定番とはなり得ない商品だらけです。
 しかし逆に言えば、メーカーの非常識に対してアーチャーの良識と常識がそれに勝ったともいえます。Hoytに限らず、品質と品位の備わった良識ある製品が世に出回るかは、ひとえにアーチャーの常識に関わっていることを忘れてはなりません。
 
 ところで、こんなに弓の性能や精度、そして品質が悪くなった最大の原因は何かわかりますか?
 それは、「カーボンアロー」なのです。アルミアローからカーボンアローに時代は変わることにより、矢が勝手に飛んでくれるようになりました。それが今のような何でもありの状況を生み出したのです。
 昔、アルミアローの時代には矢が重く、ある程度の弓の強さがなければ50m以上の長距離は飛びませんでした。男子が90mを射つには表示で少なくとも38ポンド、女子の70mなら35ポンド以上は必要だったのです。それも弓の性能を最大限に発揮するために、身長(ドローレングス)にあった弓の長さやチューニングを選択する前提でです。ところが今はどうでしょう。男子で34ポンド、女子で30ポンドの表示があれば70mを飛んでしまいます。それも一律に男子68インチ女子66インチと、ドローレングスなど無関係に使っても矢は的に届くのです。
 このことがアーチャーに弓の性能を見る目や努力を放棄させています。そしてそれに甘えた知識も節操もないメーカーやショップが、安い弓を高くで売っているのです。
 
 ということで、オマケのうんざりをこの後書いてみます。。。
※ここに書かれているのは個人の感想であり、実際の性能や精度を保証するものではありません。

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