ちょっとスタビライザーについて整理してみましょう。
 
 スタビライザーはその名のとおり、安定装置として弓の動きを止めることが第一の基本です。しかし単純にはハンドルが鉄の塊でビクともしなければ、スタビライザーは不要です。ところがそれではアーチャーの腕では支えられません。となると、弓を動かさず重さを減らすためにはハンドルから離れたところに重りを配するという慣性モーメントを利用した現在のロッドスタビライザーがもっともわかり易く有効な方法でしょう。(ルールで電気的な装置が認められるなら、ジャイロスコープを搭載すればよいのです。年配の方なら地球ゴマを思い出してください。)
 しかしロッドスタビライザーでは、弓を秤に乗せた時の重量は軽減できても、実際の使用では 長さ×重さ で負荷はアーチャーの肩に掛かってくるため、場合によっては重いハンドル以上にアーチャーの負担が大きくなることも考えられます。そのため「総重量」もさることながら、「本数」や「取り付け位置」、そして「重量配分」が重要な要素となってきます。
 また、ここで考えなければならないことは「コントロール性」です。コントロール性とは、スタビライザーが第一に求める「安定性」とは相反する要素です。どんな条件下であってもサイトピンをゴールドに発射の瞬間まで止めておくことができればよいのですが、風や雨そして緊張下において仮にピンがゴールドから動いた時、アーチャーはそれを瞬時にゴールドに戻さなければなりません。この動作に代表されるのがコントロール性です。この時、弓はアーチャーの意思に答えて簡単に動いてくれないと困るのです。そう考えれば、スタビライザーは単純に弓の動きを止めるだけではなく、動かし易さも同時に備えなければなりません。ここにもアーチャーズパラドックス以外のパラドックスが存在するのです。そう考えれば、ダンパーやTFCと呼ばれる、スタビライザーに可動構造を設けるという矛盾が理解できるはずです。
 ダンパーとリムセーバー
 このパラドックスはアロークリアランスにも影響します。すべてのアーチャーがリリース時に弓を握らずボウスリングを使用するのは、発射時の弓に対して自然な動きを与えるためです。ところが安定装置は弓を握った時と同じように、矢飛びを悪くしレストでのトラブルを起こすといった弊害ももたらします。しかしここではダンパー以外に、クッションプランジャーもアーチャーを助けてはくれるのですが、パラドックスであることに変わりはありません。
 そしてもうひとつ。重量配分を考える時、アーチャーはその感覚に大きな影響を及ぼす「安定感」や「弓の飛び出し感」にも、十分配慮して弓の「重心位置」を決める必要があります。
 なぜなら機械でも世界チャンピオンでもない、あなたが使う弓なのですから。
 セッティングのキーワード    安定ほど不安定はない
 
1981年 ラスベガスシュート
 では次に、悲しいかな近年多くのアーチャーが忘れかけている、スタビライザーの第二の基本である「振動吸収」について話しましょう。まず↓こちらを読んでください。
 スタビライザー考 2003
 では「大きな振動」と「微振動」の解消についてですが、それを素材でするか機能でするかはあるのですが、つきつめれば発生した動き(振動)を吸収、発散させる場所があればよいのです。ところが近年多くのアーチャーは自らの錯覚からか、より高剛性で高価なスタビライザーを使う傾向にあります。それもダンパーといった可動部を持たずにです。しかし振動を吸収、発散させるもっともよい方法は、「動く場所」があればよいということです。
 例えば腕立て伏せをしているとして、腕を曲げた状態で震えが起こったことを想像してください。その震えはどこに行きますか。マットレスの上でなら、震えはそこに吸収されるでしょう。しかし、あなたが押してもびくともしない地面の上であれば、震えは地面に逃げることなく腕の関節を揺らし、それでもダメな場合は身体全体に戻ってきます。
 弓における動く部分とは、スタビライザーだけとは限りません。スタビライザーを取り付けないベアボウの状態を考えてください。その弓を引いてきて起こった押し手や引き手の震えはどうなるでしょう。振動はグリップやストリングを伝ってリムへと伝達されます。その結果、本来であればリムやストリングなどの動きとして解消されるのですが、実はここでも問題があります。近年、弓具はスタビライザーだけでなく多くの部分にハイテク素材が使われ、高性能を求めています。リムも最新のカーボンリムほど高剛性であり、ストリングは伸びません。昔、アーチャーの振動はグラスリムやダクロンストリングでは、それ自体がダンパー効果を持って吸収、発散していました。今、アーチャーの震えはスタビライザー以外にも、リムからも跳ね返されてくるのです。
 またこのような微振動ではなく、発射時の大きな振動(ショック)を考えても同じです。元々、弓のハンドルはそれ自体がスタビライザーだったのです。ですから今も昔も完成度の高い弓は、それ自体である程度の安定度を保持しています。ところが近年、軽量で減衰率も高いダイキャスト製法のマグネシュームハンドルが性能以外のメーカーの論理で淘汰され、振動吸収に効果があるとは言い難いNC製法のアルミニュームハンドルが主流となりました。そしてそれに加えて、ノウハウも技術力も節操も持ち合わせないメーカーの、デザインや目新しさ優先の低コスト高価格商品によってハンドルの完成度は逆に低下しています。
 しかし、このようなオリンピック選手が使う弓具を初心者までもが使う状況の中で、動く(振動を吸収する)場所はどこでしょう。リムセーバーとダンパーウエイトでしょうか。しかし勘違いしてほしくないのは、これらの最新パーツもエイミング中は動いてはいないことです。発射時のショックはこれらが動くことで、多少は発散されるでしょう。しかしリムセーバーはリムの重量を増やすことでリムの反発力(エネルギー効率)を抑えています。ダンパーウエイトも、それが登場した1980年頃のヨーロッパの選手たちが使っていたゴムホースの先にウエイトを装着したものであれば、垂れ下がって見てくれは悪かったにせよエイミング時の震えと発射時の振動吸収に効果を発揮しました。しかし今のうわべだけのコピー商品がエイミング時に動くことはありません。
 
 205条(リカーブ部門の用具の通則)
6 弓に取り付けたスタビライザー(複数)およびTFC(トルクフライトコンペンセーター)(複数)は使用することができる。
 ただし、以下の条件に適合すること。
  ・弓のガイドとならないこと。
  ・弓以外の物に触れていないこと。
  ・シューティングライン上で他の競技者の障害とならないこと。
 
10 次の用具は使用することができる。
 アームガード、チェストガード(ドレスシールド)、ボウスリング、ベルトクイーバー、グラウンドクイーバー、タッセル、地上から1cm以下の高さのフットマーカー、リムセーバー、電気または電子によらない風向表示装置(軽いひも状のもの)を用具に付着してもよく、ウエイティングライン後方では電子風向表示装置を使用してもよい。
 
 現在の競技規則でスタビライザーに言及しているのはリカーブ部門であれば、第205条−6です。
 ところがリムセーバーだけは第205条−10に数年前に突然追加されたのです。なぜリムセーバーがスタビライザーの一部であるダンパー(TFC)に含めて考えられなかったのか。ハンドルではなくリムに付くスタビライザーだからとしてもです。
 そしてなぜリムセーバーが登場したとたんに異例の早さでルールまでもが変更されるのか。明らかにこの道具がハンドルあるいは弓自体の性能や品質の低下を補う手段であり、それらのメーカーの意向を連盟が追随するという姿勢の表れでしょう。その証拠に、昔ながらのカウンターバランスと呼ばれるダンパーを使用した短いスタビライザーをひとつ付けるだけで、既存のルールの範囲内で最新のリムセーバーやダンパーウエイト以上の振動吸収と安定感を得られるのです。
1984年 フィンランド世界フィールド選手権
 近年、EASTON社の社長であるJim EastonがFITA(国際アーチェリー連盟)の会長になってからというもの、不可思議なルールがいくつも現れています。今年であれば、Hoyt社の製品にのみあるハンドルのアーチ型構造を「ブレース付きハンドル」としてわざわざルールブックに追加し、弓という一般通念および語義に適合させてしまったこともそうです。あのアーチが登場した背景を知るアーチャーなら、それが今言われるように的中性や安定性を目指した成果ではなく、耐久性向上を目的とした対策であったことは明らかでしょう。今の現実はオリンピック用ルールだけでなく、道具においても商業主義が前面に打ち出されているのです。
 ちなみに、第205条−6に「弓に取り付けて」スタビライザーとTFCは使用できる、と本来明記してあるわけですが、その弓とは第205条−1にはこう書かれています。どちらも不可思議ではありませんか。
 
1 弓は、ターゲットアーチェリーで使用される弓という一般通念および語義に適合している限りどのような形式のものも使用することができる。
 すなわち、弓は、ハンドル(グリップ)、ライザー(シュートスルータイプは不可)、及び両端にストリングノックが設けられた2本の弾力性のあるリムによって構成された器具である。
 弓は、リムの最先端に設けられた2個のストリングノックの間に、ただ1本の弦を直接掛けるように張って使用し、引くときには、一方の手でハンドル(グリップ)を握り、他方の手の指で弦を引き、保持(ホールドバック)し、リリースする。
 ブレース付きのハンドルは使用することができる。ただし、そのブレースが競技者の手または手首に接してはならない。
 多色に塗り分けたハンドルおよびアッパーリムの内側に商標のある弓は使用することができる。
 
 それでは、、、、
 

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