SQスタビライザーシステム

   始まりは、1978年。

これでした。

 この年は、特に多くのトライがあったように思います。
 1977年、初めて「YAMAHA」が世界を制し、道具も競争の時代に入りました。ヤマハだけではありません。日本のメーカーが世界に進出しだしたのです。品質だけでなく、独自性とアイデアをもって世界のアーチェリー界をリードしていきます。
 マイク・キングが使う「ダブルセンター」は、シグ・ホンダのアイデアですが、この後日本のアーチャーも日本製を使いました。ダレル・ペイスの「アップサイドダウンVバー」をアレンジしたのが、ドン・ラブスカです。日本でもこんなトライをしました。「SQスタビライザー」。(ちなみにドン・ラブスカは同い年。当時23歳。みんな若かったのです。)

 しかし、これらのアイデアがアウトドアで日の目を見なかったのには、理由がありました。重すぎたのです。当時、スタビライザーはテーパー(先細りロッド)の時代。それもアルミチューブでした。カーボン素材が使われだすのは、もう少し後です。
 例えば、「SQスタビライザー」を強度を考えて作る場合、素材はステンレスになります。アルミでは不安です。それは、1キログラム前後のセットです。無風のインドアならともかく、風の吹くアウトドアでこれをコントロールするのは、至難の業です。

 実際にステンレスで作ったSQスタビライザーを使ってみて断念したのは事実ですが、感覚がずっと忘れられませんでした。それ以上に、このアイデアの求めるものは無視できません。例えば今あるハンドルでも、ピボットポイントとセンタースタビライザーの穴の距離が短いハンドル(例えば「X-Factor」)を使ってみると、他のハンドルの挙動の不自然さを感じることができます。あるいは普通のVバーのセッティングでも、弓を振った時には弓の中心線(ピボットポイント)ではなく、エクステンションバーの中で弓が振られます。
 ところが、「SQスタビライザー」は弓の中心線を上下2点で抑えます。弓の動きを最も効率よく、確実に制御してくれるのです。それでいて弓の飛び出しやコントロール性を阻害することはありません。安定感もあります。また四角い面を感じることで、イメージを組み立てることも簡単です。それで軽ければ、スタビライザーに求めるほとんどすべてが得られます。
 そんなことをずっと思いながら30年が過ぎたのですが、例えば現在のカーボンスタビライザーは、さもそれ用にカーボン素材を成型しているように謳っていますが、ほとんどは市販の汎用性のあるロッド素材を転用しているにすぎません。それはそうなのですが、プロセレクトアローを作る「AVIA Sport Inc.」はスポーツカイト以外にも、自動車産業をはじめ多くの分野にカーボン素材を提供しています。そこでそんな素材の中から、何かアーチェリーに使えないかと考えていたのです。
 で、いつものように思い立って、使っている「X-Factor」のハンドルの穴に突っ込んでみたのです。これはあくまでテスト用の試作です。四角い角をつなぎ合わせるジョイント部分のアイデアがどうしても浮かばなかったのですが、やっとひらめきました。確実に固定できて、簡単に分解できる構造です。そこで先日、燕市まで足を伸ばして、お願いしてきたものが出来上がりました。最終的には、すべてのメーカーのハンドルの上下ロッド用のネジ穴を使って、すべてのアーチャーにトライしてもらえるように考えています。が、まだその取り付けのアイデアがひらめきません。とりあえずは、自分用のサンプルでテストです。
 「60グラム」の専用ウエイトを4個加えても、総重量でたったの「300グラム」です。普通のVバーとウエイトより、はるかに軽い重さです。それでいて、強度はステンレスの比ではありません。(サイド部分のロッドはバイター製ロッドに使用する「240径」を使用しました。) 重心位置はエクステンションロッド使用時のように前方にないにも関らず、弓は真っ直ぐ飛び出してくれます。左右の安定感も十分です。
 実射テストしてみました。いいです! 予想以上です。ともかく「トルク」に対しての安定感が抜群です。いい射ち方なら、なんでも同じですが、弓を振ったりした時の残り方(固定の仕方)がVバーより格段に上です。思い切って射っても不安がありません。
 作られる「四角の面」が残ることをイメージしてみてください。それも軽量で同じ以上の効果が得られます。このことは、風に対するコントロール性や身体的疲労に対する大きなアドバンテージとなります。また偶然でしたが、サイドロッドのたわみが振動吸収効果もあり、ダンパーなどを使用せずに弓は瞬時に落ちつきます。
 1975年、ダレル・ペイスによってスタビライザーは平面から「Vバー」という立体に進化しました。1977年、リック・マッキニーの「エクステンションロッド」の発明で、アッパーロッドは省略されます。これらは1980年代中頃まで共存します。しかし最終的には、現在の「マッキニースタイル」に集約されます。その理由も、「重量」(軽量)です。
 マッキニースタイルの方がペイススタイルより、軽量で同じ効果が得られるのです。もちろんそこには、個人の好みや求める性能によってのロッドの長さや角度、そして重量配分のパーソナルセッティングは不可欠です。しかし少なくとも1990年頃までは、同じマッキニースタイルではあってもさまざまのスタビライザー(セッティング)がありました。ところが「カーボンアロー」が一般化しだしてから、スタビライザーまでもが均一化します。そこにはショップの営業戦略もあるでしょうが、誰もが30インチのセンターに10インチのサイドロッドです。180センチの大人から150センチの女子高生までもが、同じセッティングなのです。不思議だとは思いませんか? 無理がありすぎます。
 この30年間、スタビライザーに限らず発明らしい発明、革命らしい革命はまったく起こっていません。その元凶が「カーボンアロー」なのです。この魔法の道具の出現(1987年)で、弓も道具もそこに最上の性能を求め、最高の技術を駆使しなくとも、軽く細い矢が勝手に飛んでしまうようになったのです。確かにこれは革新、革命、改革です。しかしそんな道具のお陰で、道具の進歩は停滞しました。なぜなら初心者でも矢は90mを飛び、条件が揃えば1350点は出るのです。ほとんどのアーチャーは、カーボンアローのお陰を自分の技術、能力と勘違いしています。
 だからこそカーボンアローを使うなら、1440点を本気で目指さなければなりません。アルミアローで1370点を目指した時に、多くのアイデアを出し試行錯誤を繰り返したようにです。そのためには技術と共に、最上の道具を考えなければなりません。そろそろアーチャーもメーカーもショップも、あの頃のように情熱と希望を持って頭を使いませんか。金儲けはその後でもいいでしょう。本当に今より当たる道具、本当に自分にあった道具を考えてもいいのではありませんか。世界チャンピオンと同じものや高価な道具が、本当に得点を与えてくれているという錯覚はやめてください。お願いします。
 試合で使いました。予選落ちはごめんなさいですが、スタビライザーの性能としては今の世の中にあるもの以上です。それは自信を持って言えます。もう少しテスト(チューニング)と改良を試みます。ほんといいです。

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