スタビライザーとバナメイエビの見分け方

 最近、初心者とインドアを除いてアルミ矢を本気で射つアーチャーは皆無なため、昔のアーチャーにしか分からないかもしれませんが、、、例えば、28インチか29インチで40数ポンドの弓を使う場合、「2014」のアルミ矢を使います。では、同じスパイン(同じようにきれいに飛ぶという意味で)で違うサイズの矢を選ぶとすれば、2014と同じ硬さの矢は「1916」です。どちらを使うかは、軽い矢を使うか重い矢を使うかの違いです。最初の2桁が外径、後の2桁は肉厚を表すので、太く薄い矢か細くて分厚い重い矢かの選択です。外径が太くなれば、同じ硬さ(スパイン)にするにはアルミの量の少ない薄い矢になり、細い矢なら必然的に肉厚が厚くなければ硬くなりません。
 もう少し最近の身近な例を挙げると、インドア競技はアルミ矢を使う場面がアウトドアと違ってあります。その時、インドア競技はオンラインでの得点を稼ぐために太い(外径の大きい)矢にする必要があります。しかし単純に太いだけでは矢が硬くなりすぎてきれいに飛びません。そこで太くなればここでも必然的に肉厚は薄くせざるを得ません。「2014」=「2113」=「2212」となります。ワンサイズ太くすればワンサイズ薄いシャフトを使うのが一般的な選択であり、経験則を含めたノウハウです。
 では、「2014」のアルミ矢を使うアーチャーがカーボン矢を使うなら、「2014」=X10なら「500」=ACEなら「520」=VAPなら「600」となります。なぜVAPは500番台ではなく600なのか。X10もACEもアルミをコアにしてカーボンを巻き付けた特殊なシャフトです。しかしVAPをはじめとするアルミをコアとしないカーボンシャフトは、オールカーボンあるいはフルカーボンと呼ばれるカーボン繊維のみでできたシャフトです。これらはアルミのない分カーボンの量が増え、軽いと同時にカーボンの特性が効いてくるので挙動がアルミコアより少しシャープになります。そのためアルミコアのカーボンシャフトより、少し柔らかめのサイズを選んだ方が同等の飛びをしてくれます。これもノウハウです。
 そこでアルミシャフトの場合はアルミ素材の種類の違いはあっても、同じ均一な素材を使うため「外径」と「厚さ」という寸法がそのままスパイン(硬さ)に影響します。それに対しカーボンシャフトはというと、同じモデルならほとんど太さは変わりません。Beiterのアウトノック(外径で合わす)やGノックを含めたインノック(シャフトの内径=穴の大きさで合わす)で見れば分かるとおり、シャフトの内径や外径は微妙に異なりますが、アルミシャフトほどに違いはなく似たようなサイズです。
 ではカーボン矢はどのようにして硬さ(スパイン)を変えているのか? やり方はいくつかあるのですが、最も一般的で最も分かりやすい方法が「カーボン繊維の量」です。これはカーボンリムもカーボンロッドのスタビライザーも同じです。一般に言うカーボンとは「CFRP」のことです。カーボン繊維をプラスチックで固めたものと考えればいいでしょう。プラスチック定規があれば、その中にストリングを最後までほぐしたような細い細い繊維(糸)が入って固まっているのです。この繊維がガラス(グラス)ならFRPであり、カーボンならCFRP、プラスチックだけならただのプラスチック定規です。そしてこの繊維の特徴が板の特徴(性能)として現れます。
 同じ厚さで同じ長さのプラスチック定規で硬さが違うとすれば、それは繊維の量が違うからです。カーボン繊維は非常に軽く強く、反発力があります。その繊維が多ければ、プラスチック定規は軽くなり、なおかつ鋼のように硬くなります。しかし外寸は同じであり、プラスチックに色が付いていたり表面に塗装があれば見ただけでは変わりない同じ大きさの定規です。
 ここで本当はもう一つ方法があります。繊維の種類(性能)を変えるやり方です。CFRPとFRPがまったく性能が違うように、同じCFRPでも繊維が持つ反発力や重さに違いがあれば、外寸や外観が同じでもまったく性能は異なってきます。
 ということで、カーボン矢のスパインがサイズによって異なるのは、モデルやサイズにもよりますが基本的にはCFRPとその中に含まれるカーボン繊維の量で調整していると考えればいいでしょう。そのために、柔らかいサイズの矢や細い矢がチャート表の流れに反して重くなっていたりするのはそのためです。柔らかくするために繊維の量を減らすと、その分プラスチックが増えて柔らかいのに、あるいは細いのに重くなる場合があるわけです。
 前振りが長くなってしまいましたが、ここから本題です。こんなメイル(質問)を先日いただきました。
 
-------- Original Message --------
Subject: お問合せ控え NO.724
Date: 14 Nov 2013 11:09:46 +0900

【お問合せ内容】 お世話になります。

「○○○○」についての質問です。
この製品のセンターの剛性は強い方でしょうか?弱い方でしょうか?(何ポンド位の弓に適してますか?)
教えてください。
よろしくお願いします
 
 
 とりあえずは下記の回答をしてご理解はいただき、お礼のメイルもいただいたのですが、、、、ひょっとして同じような勘違いをしているアーチャーが他にもいらっしゃるのかと思い、回答の続きを書きます。
 
Sent: Thursday, November 14, 2013 5:53 PM

ありがとうございます。
剛性はカーボンの組み合わせや太さにもよりますが、基本的にはカーボン繊維の
量で決まります。その意味からは安いロッドは剛性は小さくなります。それは柔
らかくなることですが、使える弓とは無関係です。使うアーチャーが柔らかい
ロッドが好きか硬いロッド(剛性が高い)が好きかの好みと感覚の問題です。硬
ければ性能が高いのではありません。硬いか柔らかいかの問題だけです。
とりあえずは、、、、
よろしくお願いします。
(追伸)世の中には値段が高くて、剛性の低いロッドも結構あります。。。。
 
 
 まずはこれを観てください。
 以前、新日本石油さんからもらった資料の中にあった動画です。向こう側からFRP(グラス)、アルミ、ステン、そして3種類の性能(繊維)の異なるCFRP(カーボン)の同じ長さ同じ幅同じ厚さの板を同じように弾いたものです。
 当然この中には、それぞれの素材の特徴(性能)としての振動吸収やゆり戻し、重さ、反発力などがあるのですが、ここでは質問にあった「剛性」(硬さ)について見てみます。そこでカーボン(CFRP)がグラス(FRP)や金属より硬いことは一目瞭然ですが、なぜこれほどカーボンは硬い(硬くできる)素材なのかです。
 手前の3枚は同じカーボンでも繊維の種類が違うだけで、これだけ硬さが違います。ではアーチェリーの世界でカーボンカーボンと言いながら、あなたはカーボンのグレードや品質を表す単位を聞いたことがありますか??? カタログには高性能、高弾性、高反発、超軽量などの言葉はあるのですが、どんなカーボンなのかが書かれているのを見たことがありますか?
 だいぶ以前に書いたページですが食品偽装の今日この頃、せっかくなので予備知識としてちょっと長いですがパック入りオレンジと搾りたてフレッシュオレンジジュースを間違わないためにも、まずはこちらを先に読んでください。
 
       ■ カーボンリムとオレンジジュース
       ■ もう少しオレンジのはなし
       ■ カーボン○×△(FRP)の作り方
 
 ということで、カーボン繊維の硬さを表すのに「弾性率」として「ギガパスカル」という単位が使われ、これがカーボンの性能を表すグレードとしても使われます。↓ここにこれも以前作ったカーボンスタビライザーのページがあります。
 
       ■ パワーロッド80
 
 ここで使った800ギガパスカル(=80トン)のカーボンは通常スポーツ用品に使われるものでなく、スペースシャトルなどの宇宙開発に使われる素材のグレードで高性能かつ非常に高価です。では、スポーツ用品に使われるグレードはというと、240ギガパスカルが使われていれば上等な方でしょう。
 カーボン繊維の市場は日本のメーカーが世界の70%を占め、残りは欧米の企業です。○国も△国も入っていません。そして特に日本で作られるカーボンは高品質高性能で高価です。剛性は金属やグラスに比べて高く、軽い素材です。しかし、問題はどんなカーボン(性能だけでなく品質も)をどれだけ、どんな使い方をするかが重要なのです。しかしそのことはどの弓具メーカーのカタログにもホームページにも書かれていません。
 これも以前書いた話ですが、カーボンの業界には「コンテナ1杯、2杯」という単位が存在するそうです。日本で高品質、高性能な製品を作る時、当然切り出したカーボンには「ヘタ」(残り)がでます。それらは産業廃棄物として捨てられるのですが、そんなゴミがコンテナにつめられて○国や△国に輸出され、そこで廉価なラケットや釣り竿に化ける現実があります。アーチェリー用品とは言っていませんが、これらが日本にも輸入され消費されます。先の動画の手前3枚のCFRPは230、400、800ギガパスカルのグレードが異なる素材です。これらはカーボンの専門家が見ても見分けが付きませんが、製品になり塗装されたり表面にカーボン模様のシートを貼れば、バナメイエビを芝エビと言われて分からない以上に素人には区別ができません。
 確かに高額のスタビライザー=グレードの高い素材=高剛性の式とルールが守られればいいのですが、=○国製、△国製の製品です。そこで一番最初の話を思い出してください。もしチンケな(例えばコンテナで買い付けた)素材で硬いスタビライザーを作るならどうしますか? そう、厚さを厚くすれば多くの素材が必要で重くなります。素人が考えても分かるのが外径を太くすることです。硬さには肉厚より外径が効いてくるのはスパインと同じです。だから最近太いスタビライザーが増えているのです。ただしこのことは太いスタビライザーの素材が悪いと言っているのではありません。チンケな素材でも硬くできるのも事実ですが、高性能な素材でより硬くもできる方法でもあるのです。コンパウンドの世界でより高剛性をそこに求めた結果、より太くなってきたのも事実です。また、硬さは太さだけでなく、断面形状によっても高めたり、効きの強弱や方向を変えることもできます。
 では、素人にオレンジもエビも見分けられないとすれば、どうすればいいのか。だから高価なものが=本物を使っている=高剛性を信じるしかないのか。
 あなたが自動車を買う時、足回りの硬さをみるのにバンパーを押してみませんか。最近はスキー板はなくなってきましたが、スキーでもラケットでもゴルフクラブでも釣竿でも、硬さをみたければ両手あるいは片側を地面に付けて思いっきり押すか曲げてみるでしょう。なぜリムもスタビライザーもそうしてみないのですか? 一番確実で確かな方法です。この程度で折れることは論外ですが、大口径でなく細くて軽くまったく曲がらないスタビライザーがあります。逆に高価なスタビライザーで太いにもかかわらず曲がる(たわむ)重いロッドもいくらでもあります。これは値段ではなく、素材とコンセプトの問題です。もしあなたがスタビライザーに求める性能が剛性なら、こうして探せば価格とは無関係に硬いロッドを見つけることは簡単にできます。スタビライザーは練習場に行けばいくらでも立っています。ちなみに、初心者用や最初から廉価なロッドやグラスが混ざっているロッドは膝を掛ければ折ることができますので、ご注意ください。
 ただし最後にもうひとつ。あなたはスタビライザーに何を求めているのですか? 「剛性」だけですか?? 確かにスタビライザーが弓に取り付けられるようになった1960年代から道具は進歩し、アルミがカーボンに、テーパーがストレート形状にそして大口径になったように剛性(硬さ)が求められているのは事実です。しかし、人間がその道具を使う限り、震えがあり振動があり、ゆり戻しがあるのです。弓を動かさないことでは剛性が寄与するでしょうが、振動を吸収発散するのは硬さだけではありません。片方で分けもわからずダンパーを無条件に装備するように、本来はスタビライザーには柔らかさやしなやかさも求められる性能としてあります。硬さ=高性能=高価だけではありません。世の中、柔らかいスタビライザーが振動を吸収し、狙いやすく、射った後も音なしいと感じるアーチャーもたくさんいます。にもかかわらず、硬すぎるスタビライザーのお陰でサイトピンは震え、振動は増幅し、リムは収まらない現実を高いお金と引き換えに得ている現状もあります。スタビライザーの性能は=価格ではなく、メーカーのコンセプトとノウハウ、そして情熱と良心に掛かってくるのです。その結果が伊勢えびやフレッシュオレンジジュースなら、それだけのお金を払っても値打ちがあり、満足がいくはずですがどうでしょう。
 (余談ですが、リムに求める性能の一番は「剛性」ではありません。お間違いのないように、ご注意ください。)

copyright (c) 2013 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery