弓のうんざり「3rd Axis」(1st)

 「3rd Axis」。リカーブではあまり聞くことのない言葉です。直訳すれば「3番目の軸」ということで、3つの軸(x-y-z方向)のひとつとして語られ、どちらかといえばコンパウンドで使われる言葉です。
 例えば弓の安定を語る時の「トルク」「ローリング」「ピッチング」も3軸ですが、近年コンパウンドで使われるのはサイト(スコープ)のセッティング時における3軸です。これはリカーブサイトの発展形としてコンパウンド用サイト(スコープを取り付ける)に付加された、通常のリカーブサイトにはない方向への調整機能を指します。
 従来のリカーブサイトには1軸(1stAxis)と2軸(2ndAxis)の調整(可動)は備わっていたのですが、リカーブでは通常3軸の可動は必要としませんでした。ところがコンパウンドの場合はレンズを使い、視線がその中心を垂直に通過することを求められる(理想としては)ため、コンパウンド用を強調する意味から「3rdAxis」(3軸)を可動できる機能が付加されたサイトあるいはスコープが登場したわけです。
 しかし実際には、コンパウンドにおいても不要な機能とはいいませんが、コンパウンドの場合はピープサイトを使いストリングの中(弓の中心)からサイトを見るため、サイトベースが真っ直ぐにハンドルにセットされていればこの軸の微調整はほとんど必要ありません。そのためコンパウンドにおいてもリカーブ同様に、1軸と2軸でレンズはほとんど視線に垂直に固定できます。
 このように理論的には「3方向」の動きが存在するのですが、たとえばレンズを使わずフード(リング)も短いリカーブボウにおいては、2軸すら意識しないアーチャーがほとんどであり、1軸は調整のために付加された機能というよりサイトの構造上必然的に動いてしまう(動かせる)部分です。そのため1軸すら、アーチャーがどこまで意識しているかは定かではありません。このように理論と実際は異なるのが常であり、理論上の機能が必ずしも実際に必要不可欠かといえば、決してそうではありません。
 そこで今回の「うんざり」の本題に入ります。弓のハンドルとリムの接合部分における3軸の話です。これらはメーカーの都合(?)によって語られることがないため3軸の呼び名さえありません。そこでここでは次のように呼ばせてもらいます。ちなみに今回はアメリカ製のHoytの弓を例に挙げますが、これは決して決して○国製の弓がこれより優れているということではありません。くれぐれも、くれぐれもその点は誤解のないようにお願いします。
 
 そこでまずは、弓の「1stAxis」(1軸)です。
 これは最も使うであろう「ポンド調整」機能と呼ばれるものです。ハンドルへのリムの差し込み角度を調整(変更)することで、弓の強さ(ポンド)を変えます。ところがこの当たり前のように思っている最初の機能からして大変なうんざりがあります。
 リムの差し込み角度を変える方法は他社メーカーに対して互換性を持たせているため(オープンパテント)、どのメーカーもほぼ共通した構造になっています。リムの端にある「U溝」と呼ぶ切れ込みをハンドルに装備された「リムボルト」と呼ぶネジ式の軸に差し込んで、軸を上下させることでリムを傾けます。そしてどのメーカーもほぼ共通して「約10%のポンド調節ができます」と謳っているのです。
 ところがどのメーカーも共通して、それが同じメーカーのリムとハンドルで組まれたとしても「デフォルト」の位置を説明していません。デフォルトとは初期値であり、弓の場合はこの位置にセットすればメーカーの推奨する仕様なり性能が満たされる(保証される)という非常に重要な位置です。1つの例が、「40ポンド」と表示されたリムならどの位置にリムボルトがセットされている時に「40ポンド」なのかということもそうです。この基本的かつ重要な情報をメーカーは説明していません。ましてやリムがメーカーの異なる他社のハンドルにセットされた場合、その状況は知るすべもありません。
 そんなことはポンドスケールで量ればいいと言うかもしれませんが、、、その前に、40ポンドのリムとは何ポンドのリムのことでしょうか?
 アーチェリー界の常識はさておき、世間一般の常識で考えれば、「40ポンド=40.9〜40.0ポンド」です。これを超えれば41ポンドか39ポンドのリムです。ここでなぜ「切捨て」にして、四捨五入で「40ポンド=40.4〜39.5ポンド」の範囲にしないかといえば、それもないわけではないのですが、常識あるユーザーから40ポンドを買ったのに40ポンドないじゃないか、と聞かれた(クレーム)場合に回答する場面を想定すれば、切捨て側で設定(仕様)するのが常識あるメーカーの姿勢でしょう。
 では41ポンドが欲しい場合はどうすればいいのか?? そうなのです。今のメーカーの仕様はなぜか「2ポンド(偶数)刻み」になっています。このパンドラの箱を開けたのはHoyt自身です。2ポンド刻みというのであれば、「40ポンド=41.9〜40.0ポンド」(切捨て)あるいは「40ポンド=40.9〜39.1ポンド」(四捨五入)に設定できるので、自分でネジを回して希望のポンドにすることができますよ、と暗黙のうちにデフォルトも説明しないで言っているのでしょうか。
 そこで例えば、表示が「40ポンド」のリムがあるとします。このリムのポンドを10%調整する場合は「4ポンド」動かせるわけです(30ポンドのリムなら3ポンドです)。この4ポンドの中には前後の奇数ポンドも含まれます。では4ポンドを動かす(変化させる)ためのリム角度の変更はどれくらいでしょう。
 分かりやすくするために角度ではなく、リムボルトの締め込み量で説明します。4ポンドの変化のためには「約4ミリ」リムボルトを上下移動させなければなりません。(先に30ポンドは3ポンドと書きましたが、同じ量(角度)を動かしても、リムの強さによって変化するポンドは異なるわけです) リムボルトのネジのピッチは約1ミリですから、リムボルトを「4回転」させれば約4ミリ移動します。ということは、40ポンドのリムであれば、リムボルト1回転で「1ポンド」弓を強くしたり、弱くしたりできるわけで、最大4回転の範囲はメーカーも許容(推奨)しているわけです。
 こんないいかげんな話が今のアーチェリー界では常識として通用するのです。いいかげんを理解いただくために、ちょっと余談です。弓をハンドルとリムに分解できる「テイクダウンボウ」が競技の世界に登場し、世界を変えるきっかけとなったのは1972年のミュンヘンオリンピックからです。ほんとうのHoytが「TD1」と呼ぶプロトタイプモデルで金メダルを獲得したのです。しかしこれが商品化されるには耐久性の問題があり、2年後の「TD2」が最初の市販モデルになります。ここからヤマハ「Ytsl」との夢と理想と技術力を賭けた切磋琢磨が始まりました。この時、「ポンド調整」機能はまだ付加されていません。後で述べる「センター調整」機能もまだです。単にリムとハンドルを分解できるという「テイクダウン」機能のみです。
 Hoytに対して独自のシステムとしてヤマハが考えたのがHoytのようなネジ止め式「TD2」でない、「タックレスインサートハブ」方式(写真右は「EX」です)の接合方法です。Hoytは「TD2」にリム角度調整機能を追加し1979年に「TD3」を出しますが、リムに割れが出ることで断念します。その後1982年のヤマハ「Ytsl」の後継モデル「EX」に対抗して出したのが、現在の接合方式の元となる「GM」です。このときはまだボルトでの可動ではなく、ボルトにリムを差し込むボックスを付けていました。そこでヤマハも「EX」をモデルチェンジした「α-EX」に「ダブルアジャスタブルシステム」を搭載します。
 今のようにリムボルトだけでリム角度を大きく変更するのではなく、リムボルトには「ティラーハイト」調整機能、そしてポンド調整にはスペーサーと呼ぶ「アジャスタブルプレート」を使うというように、2つの部分での角度調整を行いました。この時のアジャスタブルプレートは「3種類」の厚さが用意されました。#1が標準でこれを使った時に、メーカーの性能と表示ポンドを保証します。そして#2、#3と「2ミリ」ずつ厚さの違う(薄い)プレートを交換可能にしたのです。
 これはポンドを「落とすため」に使用するもので、あくまで初心者が自分のポンド(#1)を使えるようになるまでの練習用であり、そのため性能を保証するものではありません。#1から#3に交換することで4ミリ=10%ポンドが低く設定できるわけです。非力な初心者は#3の低いポンドの弓から始めて、#1を使えるようにステップアップすると同時にフォームと技術、そして自分の希望する弓の強さと「性能」を獲得するのです。この方法だとアーチャーは#1のプレートを使う限りティラーハイトの調整は行えても、今のように間違えて性能を保証(維持)する範囲を超えてのチューニングを行うことがありません。
 これを読んでいるアーチャーが技術職の方なら分かるはずです。そうでなくても、リムを4回転起こしたり寝かせたりした時の全体形状を見れば分かります。差し込み部分を4回転=4ミリ動かすのは異常に大きな数値です。リムとハンドルの取り付け角度とはメーカーが死守しなければならない、性能を担保する最も重要な部分でありスペックです。いくら営業的判断でそれを求められても、技術屋としては絶対譲れないプライドをかけた部分であり、メーカーの生命線であるはずです。なぜならその1ミリにこそ性能のすべてがあるからです。それを4ミリ動かすことは「うんざり」の領域を超える暴挙なのです。
 ヤマハにおける「40ポンド」と表示されたリムは、#1のプレートを使用してボルトは締め込まずに取り付けたリムの測定値が「40.9〜40.0ポンド」の範囲にあるリムのことです。差し込み角度はどのハンドルモデルにおいても1ミリの誤差もなく、1つしか存在しません。
 
 ちょうどおもしろいものを見つけました。伊豆田さんと一緒に作った、たぶん1983年頃のショップ向けのマニュアルです。セールストークであり、そんなに専門的ではありませんが、まだポンド調整機能を搭載していない「EX」の説明文です。↓
YAMAHA ARCHERY SCIENCE REPORT
 
 そこでついでに、もうひとつ「うんざり」を話しましょう。

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