個人的な「感じ」−弓のモデルチェンジでまったくの余談

 まったくの余談です。前にも少し書いたのですが、個人的に研究しているわけでもなんでもなく、40数年の僅かなアーチェリーの知識の中だけの話です。間違っていたらお許し、ご教示ください。そこで、今まで見た弓や知っている弓を思い出しても、子どもが竹に糸を張った弓とどこかの原住民の弓を除けば、すべての弓には「リカーブ形状」らしいものがあります。アーチェリーをはじめとするヨーロッパやアメリカの弓はもちろんのこと、日本や韓国、中国の弓にも、それらの歴史ある弓にはすべて「ユミナリの先が逆に反り返った」形があります。地中海式(弓の左側に矢をつがえて、人差し指側で引く)に限らず、モンゴル式(弓の右側に矢をつがえて、親指で引く)でも、あるいは一部の原住民のピンチ式(親指と人差し指でストリングをつまむ)においてもです。始まりは狩猟の道具なり武器であったものが、世界各地で独自の発展と文化を築いてきたのでしょうが、それらが同様の形に帰結することが不思議です。単に弓(チップ)からストリングが外れにくいためのノウハウだったのかも知れませんが、仮にそうであったとしても、このようなことを「先達の知恵」というのでしょう。試行錯誤の末、悪いものは淘汰され、良いものだけが、それもそれぞれがまったく違う道を通りながらも同じような形に集約される。凄いことです。スピンウイング以前のハネにおいても、那須与一もジンギス・カンもジェロニモも「3枚羽根」を使っているというのも、同じように凄いことですが、、、、そんなこんなの個人的な「感じ」は、ともかくとして。。。
 
 「あなたのストリングハイトは、いくつですか?」と質問すると、「はち----」場合によっては、「なな----」という答えが多分返ってきます。弓の長さやドローレングスがいくらにせよ、「8」インチ前後のハイトが一般的なはずです。場合によっては「7」インチに近い使われ方もあるでしょう。
そうなんです。それがメーカー推奨ストリングハイトだからという答えも含め、まわりを見渡しても当たり前のように8インチ前後で射っています。ではなぜそれを推奨するのか、メーカーやショップに聞いたことはありますか。答えを聞いたことがありますか。多分納得のいく回答以前に、答えがないのではありませんか。
 なぜこんなことを書くかというと、人にストリングハイトを聞かれて無意識に「9----」と間違って答えてしまいます。信じてもらえないかもしれないので、本棚の隅をひっくり返して探してきました。たぶん1970年代から80年代中頃までにアーチェリーをやっていた人なら、同じようにストリングハイトは9インチ前後と思っているはずです。
 そこで、これは同い年の偉大な世界チャンピオン、ジョン・ウイリアムスの写真を引っ張り出してみました。
1971年ヨーク世界選手権 優勝
1972年 ミュンヘンオリンピック 優勝
 アローレングス30 1/4インチ。ヨークの時のワンピースボウHOYT 4PMは70インチがなかったので、69インチ。世界で始めてテイクダウンがデビューしたミュンヘンでは、HOYT T/D1プロトタイプで70インチ。どちらもダクロンストリングにアルミ矢XX75です。記録は世界記録を含めての、圧勝。参考までにいうなら、この時はまだクッションプランジャーはなく、ミュンヘンで3本スタビライザーもサイトのエクステンションもメジャーデビューです。
 で、見てもらいたいのはストリングハイトです。手持ちのデータはありませんが、9インチ半くらいでしょうか。どちらも。
 これは彼に限らず、みんな9インチ前後、あるいはそれよりも高いハイトです。今のような8インチはあり得ないセッティングでした。実際個人的にも、インドアでは10インチ前後で射っていた記憶があります。ではなぜ、このハイトが現在のように2インチ近くも下がってきたのか。当時が木製ワンピースボウ(分解できない)の時代だからではありません。それは外観の問題です。性能的には重いアルミ矢で、遅いグラスリムで、何よりも重く、伸びるダクロン(ナイロン)ストリングと、今とはまったく矢の飛ぶ条件が異なりました。この過酷な状況をどう説明したら分かってもらえるか分からないのですが、今の素引き用の弓で70mを射つ、あるいは今のあなたの弓なら200m先に的を置いて競技をするような感覚だと想像してみてください。
 それほど飛ばない弓(矢)にも関わらず、もっとも矢速を簡単に稼げる「低い」ストリングハイトにしなかったのは、飛ぶこと以上に弓の性能を重視し、弓の性能で飛ばすこと(当てること)をメーカーもアーチャーもが求めたからです。アルミ矢相手には、それしか方法がなかったのです。そこで、弓が矢を飛ばす時代にもうひとつ重要なのは、ワンピースボウが今のテイクダウンボウのようにハンドルとリムが分解できなかったことです。ワンピース(1本)ボウは当然、ハンドルとリムの角度(位置関係)は固定され、そこにメーカーの意図する技術と性能が存在しました。しかしこのことはテイクダウンになってからも、2002年のヤマハ撤退までは、メーカーと技術者のプライドとポリシーの下に守られた(守られるべき)大原則でした。
 ではそんな時代にあって、ストリングハイトはいつから下がったのか? 2002年からではありません。1975年からです。この年、今の高密度ポリエチレンの前身となる、伸びない「ケブラーストリング」が登場します。しかしそれによって、メーカーの弓に対する基本設計や推奨ハイトは変化しませんでした。変更されたのは、伸びないストリングによって折れてしまうチップ部分の強化だけでした。
 そんな中、ストリングハイトを下げたのは、メーカーではなく選手でした。最新素材を使う選手の経験則とノウハウが、従来のストリングハイトを1インチ下げたのです。しかしそれは、矢速を上げるためではなく(ダクロンからケブラーに変わるだけで十分に矢速は上がっていました)、ストリングが伸びないことで、矢(ノック)がストリングから離れる位置が速く(高い位置で)なったことを感覚で気づいたのです。ハイスピードカメラなどない時代です。今でこそ、視覚からノックがノッキングポイントを離れるのはストリングハイト位置ではなく、そこからまだ数インチ下がった場所であることを知っています。ケブラー同様に伸びない、現在の高密度ポリエチレンであってもです。ところが、伸びるダクロンはそれよりもなお1インチ以上下がってノックを押し出したのです。それだけ弓と矢が長くつながっているということは、アーチャーや弓の不良な動きを矢に伝播し、ミスや的中精度の低下を招く可能性が非常に高くなることを意味します。もし性能とエネルギーが確保されるなら、ストリングハイトは高いに越したことはないのです。ところが、伸びないストリングになり、矢は速く放たれ、それでいて十分なスピードが確保されるようになったにもかかわらず、世界中のアーチャーはハイトの高さを維持せず、あえてミスの出やすい低いハイトを選択したのは、弓の基本性能、基本設計を重視したからにほかなりません。まだまだ矢ではなく弓の性能で的中を競った時代でした。
 しかし、1989年に登場したカーボンアローによって、事情は一変します。弓の性能がなくても、矢が軽さで飛んで当たってくれる時代になったのです。ヘタでも初心者でも、低ポンドでも90mを飛び、届く時代になりました。そこから弓の性能は後回しになり、単なる発射の道具とファッションへと変わっていきます。それが2002年以降です。
 
 今回の余談の理由ですが、HEX6を射っていて違和感を感じたからです。一番最初に書いたように、HEX5のメーカー推奨のストリングハイトは「8インチ」であり、実際それで満足していました。そしてHEX6では、同じストリングを使うと「8インチ半」になってしまい、仕方なく1ヶ月半ちかくそれで射って来ました。そこでやっと長めのストリング(68インチに対しては、少し長い167.6センチ)を手に入れることができ、8インチで射とうとしたのです、、、、が。ストリングを張った段階で、リムのカーブが美しくないのです。明らかに(異常に)ハイトが低すぎます。
 わかりにくいですが、上が8半、下が7-3/4インチのストリングハイトです。どちらも同じリム角度で、どちらかといえば少し寝ています。
 どうしても気に入らないので、Borderに直接問い合わせてみると、推奨のストリングハイトはHEX6は5よりもまだ低く、「7-3/4」前後だというのです。いくら言っても聞きません。そんなやりとりの中で、知っていたことではありますがこんなメイルがありました。
Hex series limbs have different brace heights to normal limbs.
An Approximate rule is 
(all ± 1/2")
70" bow 
Normal = 9"
CX = 9"
Hex4 = 8.5"
Hex5 = 8.25"
Hex6 = 8"

68" would be:
Normal = 8.75"
CX = 8.75"
Hex4 = 8.25"
Hex5 = 8"
Hex6 = 7.75"

66" Would be:
Normal = 8.5"
CX = 8.5"
Hex4 = 8"
Hex5 = 7.75"
Hex6 = 7.5"

This is a rough rule.
This changes a lot of things.
You need to change Centre shot (button position)
You will need to change Tiller a little to get the bow to balance

Now we have a interesting situation with ILF.
Bolts at Full out position (minimum weight) needs a higher brace height
Bolts at MAX position (max draw weight) can run a lower brace height.

Our limb weight marked on the limbs is at Min position.
for example.
Hoyt limbs = 40lbs ± 5% = 42lbs at Max and 38lbs at Min.
Border limbs = 40lbs - 10% = 40lbs at Minimum and 44lbs at Maximum position.
When at min you will need 8" brace height, and when at Max bolt position you will need 7.75" for the same limbs on the same bow.
Hope my words make sense.
 写真でも分かるように、少し寝かせぎみで使っていたHEX5だったのですが、HEX6ではリカーブの強さが出すぎたようです。結果的には、リムボルトを約1回転半閉め込んでやったことで、7-7/8インチのストリングハイトにも耐えうるカーブが出ました。ポンド的にはアップしたのですが、ハイトが下がった分で心もち強い感じ程度ですみました。
 で、性能は?という話しですが、個人的な感じで言えばハイトが低い方が音は少し静かかもしれませんが、大差がありません。メーカー推奨を無視して、あえて「8半」までのところに何か面白いことがありそうな予感もします。個人的にはHEX6も8インチかそれ以上で使いそうです。ハイトを上げるなら、リムはもう少し寝かせても良さそうです。
 
 最後に大事な話。これはBorderやHEX6だけの話しではありません。今のすべてのテイクダウンボウがそうです。
 結局は2002年を前にして、HOYTがパンドラの箱を開けたことがすべての災いのもとなのです。リムの取り付け角度で10%ものポンド調整を与え、リムを2ポンド刻みで作るという、基本性能を無視した機能をユーザーに与えたことが原因です。表示40ポンドのリムで10%は4ポンドです。4ポンドの範囲とは、リムボルトで約4回転に相当します。これでも基本性能を逸脱するには十分な範囲(角度)ですが、実際のハンドルにおいては、4回転以上の可動範囲を持つモデルは普通です。そしてメーカーはデフォルト位置も指定しなければ、リムも2ポンドのバラツキです。こんな現状において、机上とシューティングライン上での性能を同一に語ることは不可能です。
 こんなことが許されるようになったのは、カーボンアローのお陰(?)です。カーボンアローが軽く、速く飛ぶからです。しかし、それは性能ではなく特性です。そんな特性のお陰(?)で、弓本来の性能が無視できるようになりました。なんと素晴らしい現実でしょうか。よく「ストリングハイトは推奨の範囲でないとだめですか?」「66インチの弓で29インチ引いてはだめですか?」的な質問を受けます。だめと言われた、弓が折れると聞いた、というのです。そんなことで弓が折れるなら、それは性能以前の問題です。仮にすべてが整った状態で、ハイトが高かろうが長く引こうが、弓が傷むことやストリングが外れることはありません。
 ただし、メーカーにすれば、どんなリム角度であってもストリングハイトは高いより低い方が「無難」であり作りやすいのは事実です。物理的にも性能的にもです。ハイトが高いとリカーブ部分のストリングとの接地が減り、溝から外れやすくなります。これによってねじれ易くなったり、リムのバタツキが大きくなります。ストリングハイトは低い方が、性能とは無関係にトラブルは減り、収まりもよく、矢速も出ます。たとえそれらが意図する性能ではなかっても、矢は的まで飛んで、刺さってくれます。なんでもありの時代です。
 リムもフォームも、美しく射ちたいですね。 (まだ、続くかなぁ)

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