これまで聞かれたら答えてはきたのですが、多分信用してくれないアーチャーの方が多いような気がして(涙)、あえて文字にはしていませんでした。が、いつもの思いつきと、他の弓を含めて弓を見る目(選ぶ目)を養う意味で、あえて文字にしてみます。思いつくままに書いてみます。信じてもらえなくてもいいです。。。 |
そこで「リム」についてですが、こちらは性能(矢速や安定性)とは別の部分で(それも性能の一部ではあるのですが)の使いやすさ(F-X曲線やスタッキングポイント付近のカーブ)や好みや感覚的なことがあるので、一概にこれがいいというのが難しい(個人的には言えるのですが)ので、またの機会にします。今回は「ハンドル」の話です。それも読みながらあなたのケースからハンドルを取り出してくれば、目の前で言っていることを確認できるように書いてみます。 |
そのために比較してもらうのが、このハンドルです。 |
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PSEの「X-Appeal」というハンドルです。たぶん使ってないでしょうから、あなたのハンドルと比べてみてください。 |
はっきり言います(言えます)。今、世の中に市販されているハンドルの中で、このハンドルが最も完成度が高く、性能がよく、扱いやすく、それでいて最もコストパフォーマンスが高い(値段が安い)、もっともすばらしいハンドルです。嘘じゃないです。商売でも宣伝でもなく、ヤマハでもハンドルも作り多くの弓をテストしてきた46年間の選手としての経験と知識とノウハウを踏まえた感想です。 |
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その前に。ハンドルにもいくつかの種類があります。1970年代に登場した現在の「テイクダウン」ハンドルですが、最初はアルミダイキャスト(鋳造)からマグネのダイキャストになり、1990年代になって今の「アルミNC」ハンドルが主流になりました。しかしこれには性能以前に、メーカーの都合が大きく影響しています。重さや振動吸収(減衰率)などの点から、アルミニュームはマグネシュームにはかないません。しかしマグネでハンドルを作るには金型、砂型を含め大量生産ならいいのですが、コストと手間が掛かり過ぎます。それに比べアルミをNC加工で削り出すのは、機械さえあれば(そのほとんどが日本製の機械です)簡単にできます。マイナーチェンジやモデルチェンジも簡単です。そんなわけで、鍛造を含め今の市販品ではアルミのハンドルから選ぶしかありません。 |
と言うと、一般に言われる「カーボンハンドル」は? という質問が出るでしょうが、正直いまだにカーボンとは限りませんがこの種の金属ではない「コンポジットハンドル」(複合素材)は完成していません。製法もさることながら、そのコンセプト(求める性能)が定まらないのです。これは1987年に世界初のコンポジットハンドルを世に出したヤマハですら、あの時悩みに悩んだのです。それでも答えを出せませんでした。 |
最も分かりやすい例が、「ハンドルは曲がる(たわむ)方がいいのか、まったく曲がらない鉄より硬い(カーボンは鉄より硬いのですが)方がいいのか?」という質問です。もっと分かりやすく言えば、ハンドルはリムと一緒に弓全体がたわんで、昔のワンピースボウのように全体の反発力で矢を飛ばす方がいいのか、ハンドルはまったくたわむことなく、たわまないゆえにリムの反発力だけを最大限発揮さす方がいいのか? という疑問です。これに答える前に、一般のアーチャーでも知らない人が多いのですが、今使われている金属のハンドルはストリングを引くだけで曲がっています。たわんでいるのです。但しそこにはカーボンのような反発力はありません。ただ、金属の柔らかさゆえにたわんでいます。 |
先日テレビを観ていたら、自転車のフレームで天然木や竹のものが近年あるのですが、これが金属やカーボンのフレームより軽いだけでなく「反発力」があるから性能が良いと言うのです。そうなんです、現にこんな木製のハンドルに同じリムを付けて射つと、サイトが上がります。矢速がアップするのです。使わなければ分からないことですが、実際に何人ものアーチャーから同じ感想をもらっています。ワンピースボウのように弓全体からエネルギーを矢に伝えているのでしょう。あるいはこんなベアボウ用のハンドルがあります。スタビライザーが使えないので、ハンドル自体を太く重くしてあるハンドルです。このハンドルにリムをセットして引いてみると、極端に太いハンドル下部はたわみませんがハンドル上部だけがたわみ(曲がり)ます。 |
ということで、カーボンという素材の特性を考えれば超軽量で高剛性のハンドルを作るのが本来でしょうが、それすら方向が定まっていません。世に普通にある高性能を謳うカーボンハンドルは、なぜかアルミのように重く、形もアルミのハンドルと同じで、しょっちゅう厚さや形状や精度が変わる何のメリットもない値段だけが高いハンドルです。 |
そんなことも理解したうえで、では始めてみましょう。 |
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まずは、ハンドルをこのようにグリップのピボットポイント(一番深い点)で支えてみてください。あなたのハンドルは支点より上が重いですか、下が重いですか? 多分、ほとんどすべてのハンドルは上が重いはずです。その理由は、ピボットポイントがハンドルの中心にないからです。25インチハンドルなら端から12.5インチのところにはありません。ではどこにあるのか。理想はちょうどクロスボウ(ボウガン)のように、12.5インチ部分に矢(レスト)も腕もあれば最高で理想です。ところがアーチェリーの場合、手の中から矢が発射できればいいのですが、それが不可能ゆえにレストとピボットポイント(グリップ)の位置に差があります。そしてどの弓も多分ハンドルの中央にはレストもグリップもありません。メーカーによって微妙に異なりますが、グリップはこのセンター位置より下部にきます。そのため上部の体積が増え、どのハンドルもハンドル上部の方が重くなっているはずです。単純に作るとそうなります。ところがX-Appealはほぼ上下の重さが同じで、写真のようにバランスが取れるのです。 |
これはピボットポイントを特にセンターに近づけているのではありません。ピボットポイントやレスト(プランジャー)の位置をセットアップポジションと呼び、弓の基本性能を決定付ける非常に重要な要素となります。この位置関係をPSEはヤマハのデザイン(設計)からパクッています。ほぼヤマハと同じ位置関係にピボットポイントとプランジャーの穴を配しているのです。にもかかわらず、ヤマハのどのモデルもハンドル上部が重かったのに対しPSEは上下バランスが取れているのです。まずこれがすごいことです。単なるコピーではなく、これが技術者のポリシーであり意地でありノウハウです。 |
余談ですが、世の中にはピボットポイントを無意味にセンターに近づけすぎるハンドルもあります。当然、ピボットポイントとレストの間には最低限(ハネが当たらず矢が通過する)の距離が必要です。結果的にレスト位置が上部に寄り過ぎます。このようなハンドルは引くだけでも分かるのですが、それ以上に発射時に違和感(ずれ)を感じます。 |
では上下のバランスが取れたら、それがどうなの? という疑問があります。これは単にメーカーと技術者のポリシーの問題だけです。実際にはスタビライザーやサイトを装備して、自分に合ったセッティングを行います。ただ、どんなセッティングであっても結果的にはピボットポイントより下部を重くします。上部が重い弓はないでしょうし、不安定です。この時、最初から上部が重ければ、不要に下部に重さを追加しなければならなくなります。全体が重くなると言う話です。 |
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大事なことを言い忘れました。X-Appealは25インチハンドルで約「1170グラム」です。あなたのハンドルはこれより重いはずです。多分1300グラムより重いのではありませんか。5グラムや10グラムなら許容範囲としましょう。しかし50グラム違えば、ウエイト1個分です。これ以上違えば性能の問題です。ウエイト1個の配置で重量バランスやスタビライザー効果を高めることができます。基本的にハンドルが軽量であることは、性能そのものと言えます。重いハンドルこそ安定するのではなく、軽いハンドルだからこそ、自分に合った重量配分ができるのです。あるいは肩に掛かる負荷を軽減することもできます。多分X-Appealは現在あるアルミNCハンドルの中で、最も軽いハンドルです。 |
しかし、軽くて(細くしたり、穴を開けたり)ハンドル自体の耐久性や剛性が低下しては意味がありません。が、重くて(太く)曲がらない、折れないハンドルを作ることなど簡単です。そんなことは技術でも技術者でもありません。素人でもできることです。ただし軽さと耐久性は微妙です。例えば、X-Appealの前のモデルであるX-Factorというハンドルがありました。このハンドルも軽量で、上下バランスがとれた良いハンドルでした。しかし、耐久性に欠けたのです。実質40ポンド以上で使用すると、場合にもよりますが3万射程度でクリッカープレート部分にクラック(ひび)が発生することがありました。形あるもの、永遠はありません。どんなハンドルでもいつかは折れるものですが、性能と天秤にかけてどれだけなら納得するかは難しいところです。女性や低ポンドで使用するなら気にならないでしょうが、1シーズンしか持たなければ気になるところです。 |
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この問題を解決したのがX-Appealです。過剰品質という言葉も忘れてはなりませんが、安全を考えれば折れることは絶対避けるべきです。しかし、重く太くで折れないを謳うのも性能でしょうが、折れないで軽く細く、そしてバランスの良さを求めることこそが技術であり、技術者です。繰り返します。重く、太くで折れないものは誰にでも作れます。 |
X-Appealは2010年に登場して以来、マイナーチェンジや知らない間の寸法変更をすることもなく、定番として生き続けてきています。折れたり曲がったハンドルを見たことがありません。 |
(続く) |